ヴァンプレイス・ストーリー 会
「話を聞いてください! お願いします!」
「むむ……。こいつら、私達の存在に気付いてるのに、会話をする意思がないの」
「ちゃんと統率が取れてるんだから、どっかにまとめてる人? 吸血鬼? がいるはずなんだけどなぁ」
「ね」
ご主人様の張っている次元牢獄の周辺には、飛天を使っている吸血鬼どもが集まっている。吸血鬼ども……なんて強がってはいるものの、この周辺にいる連中は、明らかに今の私達じゃ力の底を知ることもできないような上位吸血鬼ばかりなの。そんなランクの高い吸血鬼であっても、飛天を空中戦の起点として使うのなら、連続で使う毎に消費魔力がバカにならなくなっちゃう欠点は避けようがないの。そんなところに、空に浮いているどんな攻撃をも通さない要塞はさぞ都合のいい足場なの。
「……おい」
ここにいる全員の吸血鬼が、私達の声が届いているのかすらも判らないくらい徹底的に無視され続けていた中、どうにか話だけでもできないかと困りながら声をあげていると、突如殺気を投げつけられたの。
反応するよりも早く、無意識的に悪魔の力が発動し咄嗟に振り向くと、ぞくっと背筋が凍る視線と目が合った。
「……話をしにきただけなの」
「……僕達に交戦の意思はありません」
シエルも感じているのがわかる。
敵陣の真っただ中にいる中でも、あれは別格なの。
「お前等、この世界の精霊じゃねぇよな?」
「なの」
「はい」
この発言こそが、わざわざ私達が敵陣のど真ん中で声を掛けている事の意味を指している。
それを理解してくれているということは、最低限、交渉のテーブルに乗ってくれるような、この世界の理を知っている超級種が出てきたという事に他ならないの。問答無用に襲われた場合も想定してはいたのだけど、どうやらひとまずは上手くいったようなの。
緊張によって額に流れた汗と一緒に、腕を少し下げる。
ここにいる吸血鬼どもにも薄々感じてはいるのだけれど、私達が調べて嗅ぎまわっていた情報からしたら信じられないくらいに、相手に戦力が揃っているの。そんなやつらよりひとまわりくらい桁が違うとなれば……この強面の吸血鬼は、相手の首魁であるアルメリアって言う原初の吸血鬼にかなり近い存在であるだろう予測はつくってもの。無駄な警戒を与えれば余計にハードルを上げてしまことになるし、ここにきて排除行動ではなく、声を掛けて来てくれたってことは、そういうことなの。素直に従っておくのが正解なの。
「何の用だ」
「協力を申し出るの。その代わり情報が欲しいの」
「……協力だぁ? じゃあまず、お前らの方に精霊種は何人いる? もちろんこの戦闘に耐えうる上位種以上で、今この状況下で活動ができている精霊種に限る。当然意味はわかるよな?」
「もちろん……。この世界の精霊種すべてと親交があるわけじゃありませんので実際はもっといるかもしれないですが……多分、今この場で動ける精霊種は僕達を含めて3人だけだと思います」
って言うのはね。
あの暴れている化け物がこの星の星竜である。
と。吸血鬼の人はそう言っているの。
実はこの星に限らず、なのだけど。
精霊種ってね? 星の精神体や霊体の集合体として生まれてくるの。つまり、人間の精神体や霊体なんかの輪廻による影響はほんの数パーセントくらいしかなくて、精神を含めた自我たる存在のほとんどは、星が生み出す精神体や霊体が構成している。
そして、星竜とは……。
この星の心臓そのものと言ってもいい存在なの。
つまり、その星から生まれている精霊種っていうのはもれなく全て……あの星竜が親なのって言ったって過言じゃないってことなの。
それじゃあ、精霊が星竜から生まれてきたんだとして、今度は何の不都合があるの? ってことなのだけれど。
一言で言ってしまえば、この世界の精霊種が持っている魔力回路の権限が全部、あの星竜に帰結しちゃうって話になるの。
精霊種っていうのは、例外なく自分達の魔力を扱うコアとして自分たちの体の中に魔水晶を内包しているの。人間でいうところの心臓と同じ役割を持ってるの。それで、人間種が魔水晶に自分の体液を用いて登録して使っているように、精霊種も自分に内包されている魔水晶と、生まれつき契約をしているように連動しているの。
じゃあ精霊の心臓そのものである魔水晶が星竜によって形作られたとして、そこからどうやって精霊という存在に昇華するの? ってところで、この星竜っていう存在が出てくるの。
星竜の意思ってのは、つまりは星の意思と同じなの。
『意思を以て、魔素を用い、奇跡を為す』
これって今や星竜だけの特別な力なんかじゃなくて。
当たり前の様にこの世界にある力。
そう……。
“魔法”という力、そのものなの。
つまり精霊って、星竜が作り出した魔法意思生命体ってことなのよ。
でも、本来であれば星竜自身には、意思そのものが無いはずなの。だから余程の事が無い限り精霊が星竜の意思を感じてどうにかなっちゃう……なんてことはないのだけれど……今って、その「余程の事」が起きちゃってるってことなのよね。
ここで最初に戻るのだけど、このルールを知っている吸血鬼さんがこの場に存在しているのが大前提として、私達精霊種が呼びかけをしていたってわけなの。
吸血鬼が転生人を探していたのは分かっていたことなのだから、異世界の存在である私達が呼びかける程、判り易くて手っ取り早く交渉のテーブルにつけられる方法なんてないのだから。
もちろんこの方法は、未だ探している途中のはずのご主人様の存在を、吸血鬼側に確定付けちゃう可能性もあるのだけれど……。
今起きてる事態を収拾できれなければ、吸血鬼と事を構える以前にあの星竜にこの星ごと滅ぼされかねない可能性が高いの。そんな状況で手段は選んでられないの……。
「あぁ? 話にもなんねぇな。その程度の戦力で協力なぞされたところで邪魔になるだけだ。てめぇら程度の戦力ならいらねぇんだよ。消えろ」
「それはあそこで暴れてる星竜が精神生命体だから、肉体を力の主とする人間種がどれだけ沢山いようが、ダメージを与えられないからってことで……間違いはないでしょうか?」
「……」
沈黙が、肯定を告げる。
そう考えると、フリージアとカルセオラリアが、国民の命、すべてを使ってでも、突然吸血鬼へと変化させた理由にも納得ができてしまうの。
星竜と事を構える準備ができていたことと、集めた人間種を、かなり強引にモンスターへと変化させたこと。
この二つは、今……この場に立ってみると。
同じ目的を持っているのだから。




