姫騎士隊って何人いんの?
「あ~……なぁ姫様ぁ、なんかまっすぐこっちに向かってる奴がいるんだよなぁ。こんなとこに用があるってんだから、あたしらに会いに来るんだろうが、どうするか?」
「ええ。……ティオナ、レイラとライラを迎えに出してあげて頂戴」
「それはいいけれど……どうしてわざわざあの子達を? 今更置いていくほど困った子ではないのよ?」
テリアの報告を受け、ティオナに迎えを振ると、少し残念そうな顔を覗かせた。
レイラとライラは平民あがりの子で、ティオナに拾われたのはつい数年程前の話。
当然その頃は双子の孤児でしかなかった二人は、子供の頃から軍事教練を受けている貴族に比べてまともな戦闘力も無ければ、それどころかグルーネの国力も届かない、教養もきちんと受けられていない貧民街の出身であろう子供でしかなかった。
もちろん国民全員が裕福に暮らせるなんて夢物語。貧民街があることは私であれ王家であれ、当然把握しているし、対策は打っているものの、そのすべてをゼロにするというのは限りなく難しい。
そうなのであれば当然、貧しく暮らす国民なのはレイラとライラの二人だけなんてことは無いのだから、ティオナが二人を拾ってきたのには理由があった。
彼女たちには、所見があるのだ。
賢王の子孫である所見。
私やティオナみたいに判り易い黒髪や瞳の色はその最たるものとして判断してもらいやすいのだけれど、そこから派生した特徴は、割と判断が付き難く、私たち自分自身でなければ特徴としてほとんど判別できる人はいないみたいなのだ。
優秀な遺伝子を今の世代に至るまで残している賢王とは言え、その子孫の全てが優秀だったわけではない。大成した人間に賢王の子孫が多かったのは確かだが、その一方で落ちぶれていってしまい、家族ごと行方のわからなくなっている子孫だって少なからずいるのだ。
そんな落ちぶれて行ってしまった賢王の子孫の中にも、当然私の様に賢王の色を濃く映した子が生まれてくることがある。それがレイラとライラなのだ。
ま、多分ではあるのだけれど、言ってしまえば私たちの遠い親戚よね。なら、ティオナが可愛がるのもよくわかるし、私やティオナ程ではないにせよ、私たち一族が見ればすぐわかるほどに賢王の特徴を映している子孫なのだから、育てれば優秀なのよ。
ティオナの思惑通り、幼い頃の一番重要な時期は逃してしまっているとは言え、この数年でみるみる力をつけて行った。
だからこそ、ティオナは少し悲しい顔をしたのだろう。
私が二人を迎えに行かせている間に、私たちがあの大きな生物への対処を開始すれば、二人の命は助かるかもしれない。だけれど、それは二人の事を認めていないのと同じなのだから。
……って、勘違いさせててもしょうがないわよね。
「違うわよ。面識があるからよ」
「面識?」
「テリアが迎えに行っても知らないでしょ? ここに一直線で向かってくる人間なんて、レティくらいなものなのよ」
「あら、レティーシアちゃんが? だってテリア、人間とも吸血鬼とも、はたまたそれ以外のモンスターがこっちに向かって来てるとも言っていないのに。どうなの? テリア」
「あ~、いや、多分人間だぜ。なんか……なんつーんかな。真っ白ぇイメージが強い子供じゃねぇかな」
「……あら本当。レティーシアちゃんだわ。って言うか貴女、うちのお姫様の学友にお会いしたこともないの?」
「あ゙あん? たいちょーがあたしを国境にべったり配属させてくれてんのに、姫の学友になんぞ会う機会なんかあるかよ」
「それは残念だったわね。ってことだからレイラ、ライラ。行っておいでなさいな」
「「は~い」」
そう言って走り出す二人の後ろ姿には、もう数年前の痩せこけた姿が被ることはなくなっていた。
「お連れ致しました」
「あ~ども、こんにちわ~……ごめんねシル、なんか忙しかった?」
って一応聞いてみたものの、ボクだってシルに会わなきゃいけなくて探してたんだからしょうがないっちゃしょうがないんだけど……。とは言え、実際レイラさんとライラさんに連れてこられた先は、ちょっと畏まるような場所だったわけで。
因みに、ボクはこの場所に来たことがない。
だって必要なかったしね? エリュトスなんて来る機会ないんだもん。どんな場所か、だって知らなかったくらいなんだけど、実際町だの村だのは壊れかけていて、今のフリージアやカルセオラリアよりも文化的な暮らしの跡が無い。そんなところに移動されてれば自力で走って近づくしかないわけで、どうやって知ったのかはわからないけど、食材をウルさんに渡してから直近の飛べる場所まで転移で飛んでから自力で移動してたら、レイラさんとレイラさんが迎えに来てくれたってわけ。
うん。そこまではいいんだけど。
この町なのか村なのか集落なのかわからない場所に案内されると、泥だらけの一帯に突然、眩く輝いてる部隊が規則正しく並んでいるわけ。
しかも大半の人達は目を瞑って片膝立てたまま動かないし、真っ黒な地面に銀色ベースの色とりどりでド派手な装備着飾ってれば、そりゃなんかもう儀式でもしてんのかって思えちゃうわけよ。
もちろん近づいてみれば、この人たちがシルの姫騎士隊のメンバーなんだろうなってことは予測が作ってものだし、実際片膝ついてる集団の目の前にいるのはティオナさんとヴィンフリーデさんなわけで、知ってる顔触れではあったわけだから、予測というかもう核心でしかないわけなんだけど……。
とにかくツッコミが許されるのであれば、今すぐ言ってやりたい。
場違いすぎて怖いんだが。……と。




