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とあるメイドの井戸端会議

「…………なるほど。最近の、特に今年のモンスターパレードあたりからシルヴィア様が獲得してくる情報力とその精度に違和感を覚えることが多々ありましたが……まさかその正体は、かの転移魔法、ですか。……ふふ。笑ってしまいますね……」


私の目の前でぱっ、と。その文字通り消えた少女を見て、妙に納得がいく自分がいる。

転移魔法なんて生まれて初めて見たのはずなのに、なぜ一目見ただけで理解できたのでしょうか。私の認識できない速度で動き回る魔法兵士なんて珍しくもありませんし、私みたいな凡人相手なら、武に精通した達人であれば意識を一瞬反らした瞬間に、消える様にいなくなることも不可能ではないはずなのに。


「うひゃ~。本当にあったんですねぇ、そんなお伽話みたいな大魔法。シルヴィア様、また今度も、とんでもないカードを揃えましたねぇ……。これでシルヴィア様が個人で所有しているものだけでも我が国の最強個人戦力と、それを含めた最強の小隊に、我が国の国宝すら霞む神話級の最強装備。それだけでも信じられないくらいなのに、今度は我が国どころか全世界で唯一なんじゃないかってくらいの伝説の大魔法ですか? ラインハート家まで広げたら我が国最強の軍事力に最高峰の財力まで持って……あれ? もしかしてシルヴィア様が王家に反意なんてこと考えたら、私たち危なくないですか?」


同じ場所で作業をしていた同僚のメイドが私の独り言に答えてくれる。やっぱり同僚も私と同じ感想を抱いたらしく、あれが『転移魔法』なんだと認識しているみたい。


「冗談でもそんな不敬なこと言うものじゃないわ。処刑されても文句言えなくなってしまうわよ? だいたい権威を持ちたがらないシルヴィア様が今更グルーネを乗っ取ったとして、何のメリットがあるのよ。もう実質、既に王家より権威を持ってると言っても誰も驚かないと言うのに」

「ん~、わかりませんけど! なんか最高権力的な?」 


「だから、もう権力(それ)、全部持っているでしょう? むしろリンク様に王族の責任を全部押し付けられるから、都合がいいだなんて考えてるんじゃないかしら? シルヴィア様を見てると、時折そんな節があるのよね」

「あ~それ、イサラだって不敬だよ? ふけいー」


「あら、そうね。失言だったわ」

「いやぁ。それにしたって転移なんて大魔法、どれくらいの条件を以てすれば使えるんですかねぇ? さっきの子、気軽に使ってそうに見えましたけど。……って言うか、どうやってここまで稀有な戦略級の戦力をぽんぽんと探してくるんでしょうかねぇ?」


「転移魔法なんてとんでもない魔力量を使うんでしょうし、ヴィンフリーデ様みたいに相当厳しい制約はあるんでしょうけれど……。今は緊急事態なわけですから、節約している場合でも無いのでしょう? それにあの子……どこかで見かけたことがあるような気がするのよね……」


一度見たら忘れないような特殊な外見をしている少女。

私達とはまた違う真っ白な肌に、真っ白な髪の毛。

真っ白と言うよりも透明に近いような外見……どこかで聞いたことがあるような……。


「あら、さっきの子でしたら、リンク様が今お付き合いしているお嬢様と同じ方じゃないですか? あの特徴的な外見はそうそう見かける白さじゃありませんし……」


私が考え込んでいると、今度は違うメイドから答えが返ってくる。

もうこの屋敷の片づけも終わりに近づいている事で、それぞれの部屋を片付けているメイドも私の元へ報告へと集まり始める頃。


「あっ! えっ!? そうなの!? じゃ、あの子がリンク様が一目惚れしたっていう市民階級の女の子ってこと……? え? でもそれじゃあの子ってもしかして……」

「ええ。シルヴィア様と同じ、15歳か16歳か、そこらでしょうね」


「「「……」」」


私達王城に仕えるメイドには、求められる最低限のラインとして、国に仕えるだけに値する最高峰の教養と、それなりの家柄と言う信用を兼ね備えている。

つまり当然なれど、この国の基礎を作った賢王の理念に基づいた行動を求められ、そして我々が仕える側である王族に対しても、そういった理念を求め続けていかなくてはならない。


「子供が子供でいられる国を作る」

「賢王様が建国した際に掲げた政策よね」

「平民であれど、分け隔てなく、子供が子供のままでいられる国を……。まだそこまで我が国は成長できているわけではないけれど……」


「それでなくても、まだ15歳か16歳の、しかも女の子を戦場に送り込むだなんて状況なのね……」


シルヴィア様は特別だとは言え、それで良いだなんて思っている者は、王様を始めとして誰一人としていないだろう。

当たり前なのだ。彼女の代わりが聞くのなら、大人が交代してあげたほうがどれだけ楽なことか。

10代の、それも半ば程度の歳でしかない女の子が戦争なんてどうしようもない場所の最前線で信用を得るまで才能を開花させるだなんて、誰が予想できただろうか。

しかも、それがリンク王子の従妹であった事も拍車をかけてしまった。

ただでさえ姉に劣等感を抱いていた第一王子が、追い打ちをかけられるには十分どころではない成果を出し続けられていて、何も思わない王子など、どこにいようものか。


「さ、私達は私達のできる事を。手を動かしましょう」

「「はい!」」


あの子が将来リンク様の奥様になってくれるのであれば……グルーネ王家も、少しは安泰……なのかしら。

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