心配させてばっかで、ごめんね。
「せん……せい……」
「…………はぁ……。いい女が台無しだな」
「フラ!! レティーシアちゃんは!?」
「ああ、無事だよ」
「これ、本当にシュヴァルツ・リングウルフかい? スピードが桁違いだったじゃないか」
「リングじゃねーな。ほれ」
掴んでいた黒狼の上半身を、フラ先生がアルト様の足元へ投げる。
「クラウン!?……そんな馬鹿な。こんなマナの少ない森にこんな上位魔獣が発生するなんてあるはずがない!!」
「つっても実際いたんだからしょうがねぇよなぁ。ほんと、よく生きてたよ。レティーシア」
「うぐぅ……いったぁ……い」
アドレナリンが引いたせいか、穴の空いた左肩の痛みがどんどん鮮明化してきてズキズキする。心臓の鼓動と同じ間隔で、ボクがまだ生きていることを実感させてくれる。
ステータスを開いて確認しておく。
左肩が黒い赤になりかけている。かなりまずそうだ。
脇腹も貫通しているため、そこも真っ赤。
そして全身が薄く赤い。状態に血液不足と出ている。このまま傷を塞がないと出血多量で死んでしまいそうだ。
なるほど、シルが言ってた通り、こうなるのね……。
「レティーシアちゃんちょっと苦しいと思うけどごめんね」
ちょっと早口で何かを用意しながら、アルト様に制服の左袖とお腹の部分を引きちぎられた。血の固まったお腹と肩に、どんどん血が溢れてくる。
「神聖魔法構造・造血」
「んっ……」
突然流れる血の量が増えたせいか、心臓が締め付けられるような感覚。
いつの間にか空いていた穴が塞がっている。造血用の魔法だけ魔法構造を引き出したのは、魔結晶に登録をしていなかったのだろう。
「あ~くそっ!何からどうすっかなぁ。こんな難易度が違いすぎるクエスト、どっから文句つけてやろうか」
「このクエストがなんで難易度Eで貼り付けられていたんだ? 俺たちがいたから処理もできたけど、フラが助けるのが一歩遅かったらレティーシアちゃんも死んでいたかもしれないじゃないか……」
「いや、あたしは何もしてないよ。結局こいつ1人で倒しやがった」
「え? 最後に助けに入ったんじゃないのかい?」
「助けに入った時にはこの黒い狼さんは真っ二つだったのさ」
「上位魔獣どころか黒冠を? どうやって?」
「どうやったんだ? レティーシア。あたしが聞きたいね」
ぼんやりした頭で二人の会話を聞いていると、どうやらボクに話を振っているらしい。
頭では口を動かしているのに、声がでてくれない。
「そうだな。まずはこいつを安静にさせないと。血も流しすぎだ」
「そうだね。一旦帰ろうか」
閉じていく意識の中
アルト様の背中が見えた。
やっぱりいい匂いがする。
……
「っ……!!!」
ボクとしては一瞬でおきたつもりだったが、いつの間にか白いベッドの中にいた。
心配そうに覗き込むシルとイオネちゃんがいる。
「え?あれ?……せ、先生とアルト様は?」
声も普通に出せるようになっていた。
「アルトならさすがにもう帰ったぞ」
フラ先生の声が起き上がったベッドの後ろから聞こえる。
「レティーシア、この指が何本かわかるか?」
フラ先生が指を3本立てて目の前に突き出す。
「3本?」
「今日あったことを覚えているか? 記憶が抜けてるところは?」
「今日は……黒い大きな狼に襲われて……あれ?どうしたっけ。」
あ、そうだ。最後にどうにか倒せたんだっけ……。
「レティ……」
「レティちゃん……」
二人がまた心配そうな顔をする。
「さて、まずは……よくやったな。レティーシア。生きてるだけでもすげえのに、お前が殺したあの黒い狼はダンジョンのボスクラスのイレギュラーだ」
正直、死ぬ気しかしなかった。けど、後ろに先生やアルト様が控えてくれていたからだろうか? 頑張れたのは。
「そして、すまなかった。まさかあんなイレギュラーがいるとは思わなかった。あれは死地ですらねぇ。あたしは地獄の谷底に生徒を突き落としたようなもんだ」
そう言いながら真正面に来た先生は、深く腰を曲げた。
めちゃくちゃ怖かったけど、正直途中からボクは魔法を使うのが楽しかったりもしたんだけどな。
「い、いえ先生。すごくいい経験でした。なんか、怖いものがなくなっちゃうくらい。すごい経験……」
「結果はな。生きていてくれたから言えることだ。学園講師としては失格だな」
「ん~、あ、でも先生を辞めるとかそういうのはなしなんだからね?」
「ああ? 責任ってのはそういうもんだろ?」
え?本当にそうするつもりだったの……?
そんな事言われても、先生達だって想像すらしていなかったことなんだろうし……。う~ん、正直本心を言えば、今更特殊魔法課の担当の先生が変わっちゃっても、フラ先生よりも良い人が付いてくれるなんてことがあるとは思えないんだよなぁ……。
「んーじゃあ、もっとたくさんボクの面倒見る責任の取り方したっていいでしょ?どちらかといえば、そっちの方が責任を取るってことになるよね?」
「ああ……? お前もよくわかんねーやつだな。小汚ねぇおっさん共に囲まれて足竦ませてたと思ったら、上位魔獣を倒したり」
「そのほうが可愛気もあるでしょ?」
「わざとじゃねーだろうな?」
「まさか」
「ふはっ。まぁいいわ。お前がそう言うならあたしはあたしの仕事をするかね」
フラ先生がそう言いながら扉の前まで歩き、振り返る。
「ま、今日の総評は今度の特殊魔法課の授業ん時にな。今日あの後がどうなったのかも、そん時に話してやるよ。今日は帰ってゆっくり寝とけ。じゃあな。おやすみ」
そういうと、横開きのドアが閉まった。
ここ、学園の保健室か。
寮に帰るのがやけに億劫なのは、疲れのせいだろうか。
「レティ、大丈夫なの?」
「レティちゃん、ここに運ばれてきた時、すっごい血まみれだったんだよ?」
「あはは……。なんかすごい経験しちゃった。最初はほんと、ちょっと難易度の高そうなクエスト受けて、そろそろっと帰ってくるはずだったんだけどね」
「ちゃんと傷が残ってないか確認しておいたほうがいいわよ」
そう、シルに言われ服を脱いで見る。
既に破れた制服ではなく、病院着のような白い服を一枚羽織っているだけだった。
「うーん、肩に穴が空いてたんだけどなぁ。綺麗になんの痕もないや」
「穴って……。貴女ねぇ。いったいどうしたら肩に穴が空くのよ……」
「いやぁ、ボクもびっくりだったよ。なんかさぁ……」
しばらく保健室で2人と話していると、保健医の先生が施錠に帰ってきた。
もう閉めるから、ということで寮に帰ることに。
辺りはもう真っ暗。夜中の12時を回るところだった。
ぐぅ……お腹すいたなぁ……
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