ぷれぜんと♪
一人称、親の呼称、文章の移り変わりは、年齢によって使い分けております。
どんどん変わっているのはわざとです!
ボクがこの図書館でアレクという貴族の子と出会ってから、図書館に通うと毎日のように顔を合わせるようになった。毎日と言っても、ボクが図書館へ通えるのは週に多くても2,3日程度だから、実際顔を合わせるのはそのくらい。
それでも毎日会うのだから、アレクはほぼ毎日いるのだろう。
始めのうちは迎えに来てくれるおじさんやパパたちも、貴族の子と話すボクに慌てたが、見慣れてくると同じ年頃の友達ができたんだと喜んでくれた。
ボクとしても嬉しいのだけど、ここが図書館だからということもあり、ほとんど話もできないまま毎回別れてしまうのに、少し寂しさも感じるような気がする。
話しかけても「あ、うん」とか「そ、そうだね」みたいな短い会話しかもらえないのだ。前世で友達もいなかったボクは友達付き合いがまったくわからない。こんなもんだろうか?
ある朝、いつものように村のおじさんにくっ付いて図書館へやってくると、図書館に隣接している公園でアレクの姿を見つけた。声をかけてみる。
「おはよ、アレク様。なにしてるの?」
「お!? おおっおはようレティ。……きょ、きょうも……きょうは……ね、魔水晶の欠片を持ってきたから、魔力をながしてみようとおもってるんだ! そそそ、そうだ、レティもやるかい?」
小指の先ほどの大きさに欠けた水晶片を手のひらに二つのっけて見せてくれる。
魔水晶といっても、黒かったりするわけではなく青透明の綺麗な石。
「えっ……でも、ボクお金とかなくて……」
そういうと、待ってましたとばかりにアレクの顔がぱっと明るくなる。
「もちろんあげるよ! レティのためにお母様に2つよういしてもらったんだ!」
この年の子供は、どやぁなんて顔はしないんだな。とても嬉しそうにしながら、欠片の1つを握らせてくれた。
「もらってあげてください」
と、隣にいる執事さんもにこにこしながら言ってくれるものだから、遠慮する暇もなく受け取ることになってしまった。
……本当はね? もちろん、そうなったらいいなぁ。なんて思ってたよ?
だってうち、貧乏だし?
でもね? でも、実際父親と街でデートしていると、魔水晶の露店をちらほらと見かけるのだけど、どんなに小さな欠片でも銀貨10枚はくだらない。
銀貨10枚はボクのイメージ通りだと、日本円で大体10万円だ。
貨幣は、多分だけど鉛貨・鉄貨・銅貨・銀貨・金貨がある。
鉛貨が1円
鉄貨が100円
銅貨が1000円
銀貨が1万円
金貨は時価。
金貨の上にも貨幣になる通貨はあるらしいけど、そもそもボクは金貨も見たことがない。銀貨は見たことはあるけど、触ったことがない。といったレベル。
ちなみに、鉛貨の下にも布貨という貨幣があるが、それも村でも使わない程度なので、あまり覚える必要はなさそうだ。
長くなってしまったけど、つまり銀貨10枚は10万円。4歳のお子様がおねだりなんてできる金額ではない。
それを貰ってしまうのは、いくら打算を働かせていたとはいえ、悪い気もしてしまうのだ。
とはいえ、隣に大人がいて、その大人がもらってもいいと言っているのだ。ここは素直な4歳児らしく、もらってしまうとしよう!
「ありがとう!」
会心の笑顔で手を握り返すと、アレクは湯気がでるんじゃないかというくらい顔を真っ赤にして固まってしまった。可愛い。
それからというもの、図書館での勉強の後、執事さんの付添で公園での魔力練習も日課となったのだった。
「ママ! ただいま!」
家に帰ると、弟たちの世話と夕飯の支度をしている母親の姿が目に入ったので、足に飛びついてみる。行動が幼女に引っ張られているだけで、決してやましい心があるわけではない。断じてない。
「あら、おかえり。今日はどうだった?」
「うん! アレクにね? 魔水晶のかけらをもらったの!」
そう言った瞬間、ただでさえ栄養が足りてなくて白い母親の顔から、血の気が引いていくのがわかる。
「えっ……?? あ、あなた、大丈夫なの……?」
ボクの後ろから玄関に入ってきた父親には、馬車から降りた帰り道で話したところだ。
「うーん、もらってくれたほうがいいんだって……」
というのも。なんと、執事さんが気を利かせて父親に説明するように村までついてきてくれたのだ。さすが執事さん。
「何かお礼をしたほうがいいのかしら……?」
「お礼つってもなぁ。俺らから貴族の方に差し上げるものなんていわれてもなぁ」
困り果てる両親を見なかったことにして、一人魔水晶を見つめる。
貰った時は青透明だった魔水晶も、指先にチクリと刺して契約を果たすと、薄ピンク色に変色していた。
単純な宝石としても、とても綺麗。
「レティ、入れ物を作ってあげるから、ちょっと貸して御覧なさい?」
そう言うと、母親が魔水晶を入れる布袋と、首にかける紐を括り付けてくれた。
ネックレスというほどのものではないが、お守りに見えるだろうか?
子供が魔水晶など持ち歩いていたら、恰好の的だ。
ちゃんと布からは見えないようになっている。
「お礼ってほどのものじゃないんだけど」
魔水晶を貰ってからは、お礼の代わりとして図書館へ行く際、母親がお弁当を作ってくれるようになった。もちろんアレクの分も。
「うちのママは、お料理がじょうずなの! おいしいでしょ?」
もちろん、貴族の食べるであろう食事になど到底手など届かないだろうが、精いっぱいのお礼である。
「うん! おいしい! おいしいよ!」
アレクも喜んで食べてくれる。どうやらお口には合ったようだ。ほっとする。