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Unpredictable future.

「姫様。白隊、1名を除く総勢8名、ここに現着致しました」

黒隊(こっち)も後はテリアだけよ。……それにしても、この国に直接足を運んだのは初めてだけれど、これは随分と……酷いわね」


片膝を立て、(かしず)きながら報告をするヴィンフリーデを筆頭に、7人の騎士隊メンバーがその後ろに並んでいるその横には、眉を(ひそ)めながら辺りを見渡しているティオナと、その後ろにも黒隊メンバーの7人が並んでいる。


それぞれの部隊ごとに三角形を為しており、その先頭に二人。

それぞれの隊員ごとに隊服の色が違い、ヴィンフリーデ率いる白隊は比較的明るめな隊服が多く、ティオナ率いる黒隊は比較的暗めな隊服に揃えられているのは、多分この2人が分けているのでしょう。(わたくし)は何も指定はしていないのよ。


「本当に。ただ報告として聞いていたのと、実際現地で見てみるのとでは、こんなに違う物なのね」


豪華な隊服、それも構成されているメンバーは全員女性なのもあって、戦闘用としては比較的……じゃないわね。かなり顕著に煌びやかに作られており、それもそれぞれの隊服にはラインハートの家紋と色にちなんだ花の柄があしらわれていて、グルーネ国のラインハート家を象徴させている。


もちろん、わざとですけれど。


そんな煌びやかな小規模の部隊が並ぶには、あまりに場違いな風景が辺りを覆っていた。


砂や泥土を固めて作られているだけであろう歪な建物が、区画の整理もなくただ乱雑にそこかしこに立ち並び、酷いものは所々に穴が開いてしまっていたり、何の植物かわからないような蔦が建物を覆うように張っている。

それも小規模な村でこれならまだしも、かなり広い土地に広がった一つの町と呼べる集落の全体がそんな技術で作られた建物しかなく、常にぬかるんでいるのであろう地面は整備される事を知らず、ぐちゃぐちゃになった足型で踏み荒らされていてかなり歩きづらい。

こんな場所にも育つ植物はあるみたいで、畑の様に耕されている場所に、申し訳程度の食物が大切に育てられているようだった。


「昔はここが『都市』だったなんて……。まるで面影もないわね」

「人も……かなり少ないわ。建物……って呼んでいいのかしら。あの造形のいくつかには人の気配みたいなものはあるけど……」

「弱り切っているようです。この都市……いえ、町の中からはまるで人の生気と言う物を感じられません」


身体を起こしたヴィンフリーデが改めて辺りを見渡し、いくつかの建物で途切れ途切れに視線を止めていく。その視線の意味を理解してしまえば、人の気配なんてものを感じるような鍛錬をしていない(わたくし)ですら、この町の中に流れる雰囲気からこの町の人がどんな状態なのかなんて、分かってしまう程に少なかった。


「このエリュトスという国は、国の中の都市同士ですら国交が無くなってしまったのだもの。こんな枯れた土地にあった都市がどうなってしまうのか……その現実がこれ、よね」

「吸血鬼にしても戦力にならなそうだものねぇ。だから免れたのかしらね」


「そう言う訳では無いでしょうね。ここから北へ向かってロトの国境にある都市や西のグルーネ(うち)との国境近くにある集落方向に行けば、さすがにここ程酷くは無かったでしょ? ティオナもここに来るまでに通ってきたわよね?」

「ああ、そう言われればそうよね。どこもここ程酷くはなかったわ。……それにしても姫、どうしてエリュトスは国境に警備がいないのかしら? 姫の言った通り、この戦時中になんの検査も無く素通りだったわ」


「それはそうよ。だって……今エリュトスは戦時中ではないんですもの」

「……どういうことかしら?」


「ティオナも見てきたように、エリュトスって国は国内の流通も無くされているのよ。もちろん冒険者や旅人、商人の往来はあるでしょうけど、国民がお金を持っていないところにわざわざ来る商人なんて碌なものじゃないし、縁もゆかりもない冒険者や旅人がわざわざ寄るような国でも無いのよ」

「ええ。そうですわよね」


「そんな国で、誰が情報を流してくれていたの?」

「国軍……」


「そ。今その国軍の総司令がいないんですもの。何の情報も回ってないのよ」

「なるほどねぇ」

「この国を支配しているであろうフリージアとカルセオラリアも、今やエリュトスを管理している状況ではないということですね」


「正解。……だからこそ判らないのよ。なんで吸血鬼はこの荒れ狂うような砂漠に向かって行ったの? それを確かめない事には、これからどうしようか決めようもないのよね」

「そうね。どうしよう姫、テリアも一応こっちには向かっているんだけど、多分こんな立地だと……ね?」


そういいながらティオナが足踏みを何度かして見せた。

テリアの体重だと、このぬかるみではまともに動けそうになさそうだ。


「そうね……じゃあ申し訳ないけど伝令を残して……」


そう言いかけた矢先


「お~~い! 姫~~~~!!!」


遠くから聞きなれた声が聞こえる。


「あら? 着いたのかし……ら……」


テリアの声に、3人の視線が同じ方向を向いて固まる。

他の隊員からも、まだ傅く姿勢を取りながら視線を伏せたままであるにもかかわらず、ふっ、と少し緩んだ吐息が聞こえてきた。


下半身がほとんど地面に埋まった女が、地面をかき分けて進んでくるのだ。


「ちょっと……。あれは無いわよティオナ……」

「はぁ……。ちょっとテリ……


呆れた3人がテリアに文句を言おうとした瞬間だった。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「な、なに!?」

「地震!?」


「うおおおおおおぅ!!」


地面が激しく揺れ始める。


「ちょっとテリア! 捕まりなさい!」


慌ててティオナが宙に舞い、テリアを引き上げようとする。


「魔法を使え馬鹿! 重くて上がんないわよ!」


そう言われるとすぐに、ズボっという音と共に、巨漢の女が地面から掘り起こされる。


「わりぃ隊長! ……ってか、なんだよこの地震! まだ続いてやが……」



全員の視線が釘付けになる。

さっきまで視線を伏せていた姫騎士隊の隊員すらも、ぎょっとした顔で空を見つめている。



「なん……だよ……あれ……」





週末時間が無いので、もしかしたら次回更新が間に合わず、休載するかもしれません。

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