SIDE:BLACK For the futuer.
「珍しいわね。姫が顔に出すなんて」
自分で選んでここまできた道だけれど、時々こういう時に感じるのよね。
責任なんて、碌なものじゃないわ。
それに政治的な意図はあれど、自分で選んでこちら側から脱却したティオナであれば気持ちも理解しているでしょうに、わざわざ言ってくれるんですもの。
「……その要因になる1つを持ってきた貴女が、ここでそんなこと言う?」
屋敷に着いた時には玄関をぶち破る勢いで血相変えてきたクセに、私が頭を抱えていることがよっぽど珍しかったのか、冷静になったティオナにぽつりと、そう呟かれてしまった。
自分で想い返してみても。今まで生きてきて今以上に取り乱した記憶なんて、私本人にすらないのだから、珍しいどころの話でもないのだけれど。
……でも、ずっと私の一番近くにいてくれてた人が思わず口に出してしまうくらい追い詰められていたことに、ふと気づく。
別に私は周りが期待を寄せているほど、自分が何でもできるだなんて思ってもいないし、何より自分自身がしてきた努力と苦悩を一番よく知ってるのは自分だろうから。それ以上を自分に期待もしてしないし、してきた努力だけの自信はあるつもりではあるのよ。
それを自分自身以外で認めてくれているのは、一番は両親や兄達はもちろんのこと、肉親以外で認めてついてきてくれているのが姫騎士隊の皆。
……その「姫」が誰を指しているのかを考えると自分でそう呼びたくは無いのだけれど。
「今回ばかりは私では経験と知識が足りないわ。今ある人も、資材も、時間も、知識も……。全部つぎ込んででも次の手を打たないと。期待しているわよ?ティオナ、ヴィンフリーデ。それとも、フリス姉さまと呼んだ方がいいかしら?」
「やめてくれる? 姫に期待されたんじゃ重すぎて飛べるものも飛べないわよ」
「ご期待に添えるよう、最善を尽くしましょう」
白と黒を象徴するかのように、正反対の答えが返ってくる。
これでこの二人、ものすごく仲がいいんだから不思議よね。
まぁお堅い人生を歩んできた自覚のある私が、自由奔放なレティに憧れる様に、自分には無いものを持っている人が素敵に見えるのは必然なのかもしれないけれど。
「それじゃ、すぐに私達も出るわよ。本国の守りはお父様とリンク達に任せて、騎士隊の全隊員を集めて頂戴」
誰もいなくなった会議場から足早に部屋へと戻り、休む間もなく荷物をまとめる。
二人は屋敷に着いたばかりで纏める荷物もないのか、私の荷物を纏め、3人で次元収納へと仕舞っていった。危険な場所へ遠征にいく時には必ずと言って良いほど傍にいてくれる2人は、何の相談をせずとも、必要なものをそれぞれ相談したかのように仕舞い込んでいく。
「黒の子たちには既に行動を開始するように連絡済よ。ヴィンフリーデ、白は?」
「フィリシアは今アルタイルと同行しているから招集はかけていないが、他は現在全員本国の守備についております。ただ、伝達方法は確立してありますが故、集合場所さえ確定すればティオナのところよりは早く完了する予定です」
「ま、そっちは全員移動手段になる魔法を持ってる子たちばっかりだものね。うちは……そうね。レイラとライラは私が回収するとしても……テリアがどうしてもねぇ。あいつは私でも重すぎて運べないのよねぇ」
ちなみに。姫騎士隊には当然女性しかいない。
別に私が意図して女性のみを集めて部隊を編成したわけじゃないのだけれど、魔法を主体に運用する部隊としてよくある話で、男女に魔法的性質の差があることから男女別で連隊されるのは珍しい話でもない。そこに加えてティオナとヴィンフリーデという女性から見て憧れる端麗の人材が矢面に立っている事で女性が主に集まってしまい、今となってはいつの間にか男子禁制などと噂され、姫騎士隊などと呼ばれるようになってしまったのだ。
そんな女性しかいない部隊の中で、女性に対して重すぎて運べない、なんて意図の発言が許容されるのかと言うと……当然許容される。もちろんテリアに対してだけ、だけれどね。
テリアが重くて運べないのは彼女の努力の成果だから。
重さは彼女の誇りだ。
……まぁ、筋肉でひしゃげている姫騎士隊の茶色いプレートを見ていると、それもどうなの? って感じることも……無くはないのだけれど。
「緊急招集なんだから、間に合わないのはしょうがないわ。ティオナ、これから伝達ですぐに飛べる? 私はヴィンフリーデと一緒に直接現地へ向かうわ。集合場所はエリュトス砂漠地帯近郊都市セルンよ」
「セルン? エリュトスになんて戦時中じゃなくとも普通には入れないのに、そんな場所でいいのかしら?」
「ええ。多分……と言うか、私の考えがあっていれば、ほぼ確実にエリュトスの関所は現在機能していないでしょうから。ただでさえロトから大量の吸血鬼がなだれ込んでいるのだから、それも当然と言えば当然でしょうけど、それとは別の理由でエリュトス国内はこれから、関所がどうのなんて言っていられる状況じゃなくなるのよ」
「……ああ? わかった。別にこれっぽっちも疑うことなんて、今までもこれからもないけれど、ここは姫を信じて、ひとっ飛び行ってきますかね」
「お願いね。多分、あまり時間は残されていないから」
「わかったわ」
3人で準備を終え、急ぎ足で玄関を出たところでティオナが空へと舞いあがって行く。
「さて、私たちも行きましょうか」
「失礼します」
そう言うとヴィンフリーデに文字通りお姫様の様に抱きかかえられた。




