本当の事実。
「ハウトさん!! うわっこれは……すごいね」
グリエンタールでハウトさん達の居場所を確認したとき、違和感を覚えた。
だってボクがシルのいた屋敷に戻ってから割と長い時間が経っていたのにも関わらず、ハウトさん達はまだ同じ場所にいたのだ。
次元牢獄が使えなくなれば砂漠道中の快適空間を作り出すのは難しくなってしまうわけだし、先行組であるフラ先生たちの体力面を考えれば、今回の休憩を最後としてダンジョン近くまで強行してる可能性が高かっただけに、全く動いていない事はイレギュラーの発生に他ならない。
特に先行組のフラ先生達もある程度休憩はできているものの、敵地の中をずっと追われ緊張を強いられながら、まともな休憩施設もない中で、最悪の環境の中を進み続けるとなれば、いくらダンジョン攻略で劣悪な環境に慣れている冒険者の精鋭であろうと、疲労が蓄積されていってしまうのは回避できず、そうなると普段の休憩で本来得られるであろう回復力が発揮されることもない。むしろどんどん回復力は衰えてしまい、ボクが最後にシルのところへ報告へ飛ぶ直前では、フラ先生たちの魔力の自己回復量はゼロに等しい値になっていた。
無いものねだりって本当に何もない時には切実に感じるもので、例えばレベルアップすれば無くなっていたHPやMPなんてものが回復してくれる世界だとか。ゲームの世界が現実になってるなら、それくらいの特典があったっていいんじゃないかって希望が浮かんできてしまうくらいに、何かに縋りたくもなってくる。それくらい疲労と緊張を重ねる先生たちの身体は、ボロボロになっている。
体調の不良は更なる体調の不良を呼ぶもので、ボクなんかより遥かに体力のある人達の顔色がずっと優れないのは、見ていて悲しくなってくるものなんだよ。
そんな状況で起こりうるイレギュラーの最悪……吸血鬼の軍勢が皆のところへ向かっている事実が脳裏をよぎり、焦りながら転移眼を飛ばして確認する。
まだ時間的猶予はあったはずとは言え、吸血鬼にはかなり大きな個体差が存在することが確認されてしまっているのだ。ティオナさんみたいに飛行移動級の速度がある移動手段を持っている吸血鬼がいてもおかしくない。
ただ、その理由は転移眼を飛ばした時点で理解し、少し安心した。
砂塵がまた吹き荒れ始めたのだ。
しかもさっきまでみたいに、砂漠用装備をつけていればどうにか進めるような生易しいものじゃなくて、今度は嵐と言っても過言じゃない様な状況になっていた。
さっきまでなら困っていたかもしれないけど……むしろ今ならこの状況の方が好都合まであるんじゃないだろうか。
「ああ、レティーシア。戻ったか。悪いな、本当ならお前が戻ってくるまでにはダンジョンの入り口まで辿り付いておきたかったんだがな……。お前が消えてから一気にこんな状況でな。足止めくらってんだわ。……んでそっちは? どうなってんだ?」
空間温度は快適にされているとは言え、温度が快適なだけ魔力はおろか、疲労や怪我が回復するわけでもない。しかもメルさんだって先行組で披露が極致を迎えて久しいのだ。空間温度を調節する魔法だって、簡単なものじゃないだけに、メルさんの魔力量も底を尽きかけているはず。
本人はそんなこと一言も言ってくれないけどね。
まぁそんな性格を知ってか、セレネさんやフィリシアさんがメルさんのサポートをしながらではあったものの、ウルさんの支援はメルさんを軸に置いている為、フラ先生を始めとしてアルトさんやホーラントさんも既に残っている魔力は無く……。
こんな状況で吸血鬼の軍勢と接敵したらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだ。
「ちょっと……って言うか、かなりまずいことになってるんだけど……」
そう困った顔をしながらハウトさんに伝える。
「そうか……。よし、全員で共有しよう」
そう言いながらハウトさんが全員に招集をかけた。
招集と言っても同じ空間にいて、ほとんど会話もない状況なんだから、ボクが戻ってきたのにも気付いていたし、ボクとハウトさんが会話をしていればそれが例え小声だったとしても、皆には全部筒抜けにはなってしまう。
もちろん本当に他の人に聞かれたくない話なのであれば、ボクが音を遮断する空間切断をしてしまえばいいだけではあるんだけど……ボクの困った顔の意味を一瞬で理解してくれたハウトさんが出した結論は、どんな報告でも全員と情報を共有しておく方が良い。という判断だった。
「そのまま聞いててくれて構わないんだけど……」
そう言いながらみんなの方へ振り替えると、既に全員が一定の距離へと集まっていた。
中には身体を支えられていたり、支え合っている人もいる中で、こんな話をしなきゃいけないのは……流石にボクとしても事の重さに言葉が詰まってしまう。
「あっ……と……その……」
その間に誰かから声があがることもなかった。
「伝えなきゃいけないことが3つあります」
とは言え、今度こそは誰かに頼るわけにもいかない。
「それを踏まえて、どうするのかを決めたいから……。今起きてる事を話すね」
全員の首が、こくん、と縦に動いた。




