竜王国レントラーム
「まず吸血鬼の動きを報告して頂戴」
ヴィンフリーデさんが合流してすぐに、屋敷の中でも一際大きな部屋へとみんなで集まる。
シルの使っていた崩れた部屋の瓦礫は片付いてはいるものの、穴が開いてて扉も無いし何より人数集めるには狭すぎるしね。この屋敷の大きさなら、あの程度の穴が開いてたところで気にならない場所なんていくらでもあるのだ。
今まで屋敷で色々な指示や計画を担っていたシル、リンク、リンクの護衛騎士の2人、体調の悪そうなロト国大臣のクイネさんと、その部下であろうロト国の文官さんに、先日亡くなってしまったドズン将軍に仕えていた武官さんがクイネさん側に並び、シルが呼び寄せたらしいエスペラントさん。ここまでが今までこの屋敷にいたメンバーで、そこにどこから現れたんだろうとか思われてそうなボクに、ティオナさんとヴィンフリーデさん。この2人は正直他国の人でも知ってるくらい有名なんだろうから、ボクみたいに誰だろう? って目線を向けられることもないだろうけど……。
まぁそんな一見しただけだと訳の分からないメンツの寄せ集めみたいな構造になっている。
もちろんメイドさん達も部屋の中にはいるけど、部屋周りの接客や準備が仕事であって会議に参加するような事は無く部屋の隅に直立しているし、それぞれの部下や護衛であろう人達も部屋の壁際へと並んでいる。
この屋敷にいるであろう人員のほぼ全員がここに集まっているようだった。
「さっきまで惰性的に目的も判らず、ロトとフリージアの国境付近で小競り合いだけを続けていた吸血鬼共が、急にロトの兵士が眼中に入らなくなったかのように西進を始めた。それに伴い、ロト国内で破壊工作をかけながら暴れていた厄介な上位吸血鬼共もロト国内の破壊工作を突然止めて吸血鬼の軍隊と合流するようなルートに向かってるようだ。……しかも蓋を開けてみれば、そのどれをも止める術を我々はもちろんロトの軍勢を持ってしても持ち合わせていなかったんだから性質が悪い……。今思えばあれだけの戦力があったならロトがこれだけ持ちこたえられた意味がわからない。もしかしたら……予測でしかないんだが、あの吸血鬼共はロトの軍隊を壊滅させる気は、ハナから無かったんじゃないか? そう考えれば、ロトの被害が想定よりはるかに少ない事にも納得がいってしまう」
「で、ですがそれは我が国の兵が善戦しているからでして!」
ティオナさんの想定に対して、思わずクイネさんの口が付いて出る。
相手が本気を出してたら、最初からロト国が蹂躙されていただなんてことを言われれば、そりゃロト国民として面白いわけがないのはわかるけどね。
そもそも今回の戦争に関しては、準備の段階でボク達人間側は後手どころじゃないアドバンテージを取られている。
フリージア・カルセオラリアの連合国はその2国間に留まらない国域を駆使してロトやグルーネ、はたまたボク達の知らないカルセオラリアの向こう側の国なんかにも渡る領域に何年も前から工作を繰り返し、目的をもって結果を出し続けていたわけで、その結果を踏まえたうえで万全の態勢を整えたうえでロトへ侵略を開始してきているわけなんだから。
つまり、ロトが世界最大の軍事大国であるのは変えようのない事実ではあったものの、それはあくまで人間という種族間でのお話。
ロトがいくら軍備に力を入れようと北への国境がグルーネと同じラインで止まってしまっていたように、この世界には人間よりもピラミッドの上に立つ種族なんて物が存在してしまっているわけで、人間をそのままモンスターに変えることが出来ちゃうなら、人間種族の優位性であった『文明』なんてアドバンテージがそのままトレースされてしまうことに外ならず、同じレベルの知識と文化と文明を持ち、肉体的強度で話にならない差があるのであれば、人類側が軍事力をどんなに頑張って強化しようとも何倍もの人材はもちろんのこと、資産や資材、環境なんていったものが全部整って、さらに個人戦力としてヴィンフリーデさんみたいな相当な質を持った数の人間を揃えられることができるのなら、そこでやっと対等になれるわけで……。まぁ……そんなことが出来ればモンスターパレードなんて脅威を毎年放置してるわけがないんだよね。
結局のところフリージアとカルセオラリアが、どうして2国だけを同盟として作り上げロトという軍事的中核を担っている国に向けて直接侵攻したのか。
その答えは、それで事が足りるから。
フリージア・カルセオラリアは、ロト国の兵士強度が急に成長した問題は起きたものの……既に100%勝てるだけの戦力は揃えてあったのだ。
そこでいくらグルーネでちょっと計画が狂おうが、今までの準備がすべて水の泡となって消えてしまうなんてことが起きようはずもない。
それを起こそうと試みたのが竜王国の復興と言う切り札だった。
「想定の話は今はいいわ。西に動いたとなると……つまりグルーネに標的が変わったという事?」
「……いや、わからない。ロト国軍の本体は吸血鬼との交戦が止んだことで、ロトとエリュトスとの国境にて再度布陣を敷いている。ヴィンフリーデの方はどうだったんだ?」
「いや……私もその報告を受け、すぐにロト・エリュトス・グルーネ3国間の国境へと布陣させたのだが……吸血鬼は1匹も現れはしなかったんだ」
《主様》
《あーうん。ってことは……》
「竜王国の計画がバレた?」
「……そういうことになるのでしょうね。でも、そうだとするとルージュの報告とも噛み合わないわ。始祖竜は神聖力をなくしているのなら、吸血鬼が……それこそ血相を変えて全軍であの場所に向かう必要性がわからないのよ。封印を解いたばかりだから、吸血鬼側が始祖竜の神聖力の消失に気付いていないのかしら?」
シルがぶつぶつと考え始めた。
あまりこういうシルを見たことは無いけど、あまりにも情報が足りな過ぎるのだ。
実はボク達が竜王国の復興って言う切り札を、吸血鬼の軍隊となったフリージア・カルセオラリア軍の侵略の対策と充てた計画を為して、少し前にリンクへ説明した作戦っていうのは、この竜王国が復興することで余りあるであろう神聖力を有効活用することだった。神聖力というもの自体が魔族やモンスターに対する方法としてものすごい有効であるからだ。
実は数か月前にフェミリアさん達と知り合ってから、竜王国というものを悪魔ちゃん達に調べて貰っているうちに分かった事実として、レントラームと言う国が古く昔、この世界で栄えていたことを突き止めていた。後に神魔大戦の舞台となり消えた国の一つで、竜王国という名の如く。
竜が統べる国。
そして、その国を統べる竜こそが、この星の始祖神竜レントラームであった。




