砂漠の悪天候は、雨が水じゃなくて砂でした。
「……行きましたか」
私の仕事は末裔だと言われるあの4人をこのダンジョンの中へと案内することまで……だったはずなのですが……。
今の状況は私にとっても想定外だったかもしれません。
本来であればこの先には神である始祖竜の一匹が眠っており、竜王国とはその……だと、私の神魔大戦時の記憶と調べた資料を読み解き照合していった結果として答えが出ていたのですが……。
それにしては、神聖力があまりに少なすぎますね。
それよりこの魔力濃度はむしろ……。
「ふぅ……」
悪魔は仕える主人の願いを叶える精霊でなくてはなりません。
その過程で失敗することはあれど、その原因が契約精霊側にあったのでは契約は不履行となり得てしまう。精霊は契約にあたり対価を得るもの。しかも今回の場合私は既に対価を十分に頂いておりますが故に……契約不履行は自身の存在消滅と同義となり得てしまいます。今回の契約は少し特殊ですが、その相手が白亜様である以上同じことでしょう。
私の失態として責任を取りに行くべきか、それともすぐに対処を始める為に報告に行くべきか……。
ええ……。そうですね。
どちらにせよ想定外の事が起きているのは確かではあります故、主様とシルヴィア様に報告をしておくのが正解でしょう……。何より、この世界には少し違和感を覚えます。
何が歪んでいるのか……までは私めにも終ぞ判らなかったのですが。数百年の昔に召喚された頃には感じなかったこの違和感が、今回この世界に召ばれてからずっと感じて止まないのが気がかりです。それも最初は主様がこちらの世界へ降臨されたことによる“4次元軸の進行”が原因かと思っていたのですが……どうもそれだけではないようです。
あまりに今回の事件が大事となり、未来が急速に収束しすぎているような……
「あ゙~~~~。じぬ~~~~う゛あ゙ぁぁぁ……」
「私達より体調がすぐれない、大変な人達もいるんだから、あまり口に出すべきじゃないわ」
そう言いながらボクの横を歩いている先輩は、ボクよりも大量の汗を流しながら辛そうにしていた。
砂嵐も常時大量に舞っているわけじゃないらしくて、あれから数時間を歩いて砂漠のど真ん中を進む中で少し砂の量が明らかに減ってはきてくれていた。
砂の量は減ってきてくれて喋ることができる程度にはなってくれたものの、そうなると今度は遮るものが無くなった分、照らしつける太陽の熱がモロにボク達の体力を奪いにかかってくる。
砂があれだけ暗くなるまで舞ってても死ぬほど暑いこんな場所で、その陰すら無くなった今なんてもう最悪以外の何物でもないんですけど……。
グルーネに比べたら標高は確かにエリュトスの方が高いんだけど、それにしたってこの熱量は異常すぎるってくらいの太陽光が砂漠を照り付けていて、地面一面に広がるまっ黄色な砂にも反射して下からも熱が大量に照り返してくるせいで、オーブンの中にでも放り込まれてるかのようなんだよ……。
耐火装備に身をくるんで、定期的に休みを取って涼むことができてるとは言え、例えるどころじゃなくて火の中を進んでいるのと大して変わらないような状況が続いている。
そんな中を黙々と進んでいくのは、今度は精神的な面すらも崩壊しそうだよ。
「……だってぇせんぱーい……って、そういえばセレネさんって温度変化とかに弱かったんじゃなかったんですか? よく我慢できますね~……」
ボクの言葉に、さっきまで諭す程度の怒り方だったセレネさんに青筋が浮かび上がった。可愛いうさ耳が後ろにピンと伸びるものだから感情がとても分かりやすい。
……見てるこっちは可愛いんだけど。
「私の種族が環境の変化に弱いのって、貴女がわざわざ発見してくれたようなものなのだけれど……? 正直、貴女とメルクーアさんがいるおかげで、この程度の環境ならロトの南にあるモトフルトってダンジョンの方が大変だったわ。……あ、それと。貴女が武闘会で私に向けた魔法の方がだんっぜん……辛かったわ。寒いし痛いし凍るし震えるし眠くなるし……ぶつぶつ」
あっ……。
ちなみにメルクーアさんって、メルさんのこと……だよ?
……そうだよね?
「……さ。後ちょっとなので頑張りましょう!」
「………………」
「セレネさん。眉間に皴寄せると、顔に皴の後がついちゃいますよ?」
「……睨んでいるのだけれど」
「可愛いお顔には似合いませ~ん!」
「あっ、ちょっとこら!!」
もふもふ~!
って、暑いところでうさ耳を触っても余計に暑くなるだけでいつもより幸福感が……。
《主様。少しよろしいでしょうか?》
《あ、ルージュ。そっちはどう?》
《ええ。フェミリア殿等4名は無事、神殿ダンジョンの中へと侵入致しました……のですが、少し気がかりが》
《ん? 何か問題でも?》
《はい。最悪想定外の事になってしまう可能性もありますれば、シルヴィア様の元へ一度報告へ参りたいと思いますが》
《うん……? じゃあボクもシルのところに行った方がいいってこと?》
《はい。お願い致します》
《了解~》
「って、ちょっと聞いてるの?!」
「あ、ごめんね先輩。ちょっとハウトさんのところに行ってくるね」
もふもふ
「あん……ってちょっと!! 尻尾もダメっ!!」
セレネさん……。意外に可愛い反応をするんだね。
「どうした?」
「ハウトさん。ちょっとダンジョンの方で何かあったみたいだから、ルージュと一緒に一旦シルのところに戻りたいんだけど……」
「ん。そうか。…………ここから一気に向こうまで抜けるのには、まだ少し距離があるな……。どれくらい掛かるんだ? 一旦次元牢獄を張って休憩にして待っているのが一番いいんじゃないかと思うんだが」
「ん~それがちょっと判らないかも。後、次元牢獄の中に人を入れたままボク自身がどっかに行ったりした事ってないから、イレギュラーが起きたときにちょっと怖いかも? 閉じ込めたまま何か起きたらどうしようもなくなっちゃうし」
「ああ、それもそうだな……それなら地面だけ開けておくのはどうだ? 最悪自分達で地面掘って出りゃ問題ないし、他にはそうだな。悪魔を1人置いていけないか? そうすればお前とすぐ連絡もとれるだろ」
「あ~うん。なるほど」
イレギュラーにも即座に頭が回るって、リーダーとしての素質としてすごい重要だと思うんだけど、それってつまり仲間の力をどれだけ理解してるかってことに他ならないってことにもなるわけで。
ボクがどうしようか考えるまでもなく、ぽんぽん解決策を出してくれるのはすっごいありがたいし、同時にすごいと思うんだよ。
「じゃあシエル、お願いね」
「はい!」
「地面の方はどうする? 完全断熱にはならないかもだけど緊急で動く事考えたら、流石に全面封鎖よりは開けておいた方がいいかも。あ、それと、あまり長時間閉鎖空間にいると空気中の酸素濃度の関係で……あ~体調によくないから、それだけ気をつけてね。絶対に火とか使っちゃだめだよ? あまり長くなるようなら一旦こっちに戻ってくるつもりだけどね」
「ああ。じゃあそうだな。休憩を入れるとするか」
「おっけ~」
ルージュの感情がボクの中に伝わってくる。
焦り? 心配? 不安?
なんだろ。こんな感情を3人の中から感じたのは初めてだった。
しかもルージュが抱いている感情ともなればかなりの問題である可能性すら考えられてしまう。
この作戦が上手くいかないとなると、フラ先生たちは体力的にかなり危なくなるわけで……流石にこれから砂漠のど真ん中に放り出されたともなれば、今度こそ命に関わってきてしまうどころか……。
何事も無ければいいんだけど……。




