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Patriotism

エリュトスに歴史など存在しない。

必要が無いからだ。


そもそも歴史とは勝者が作る都合の良い伝記であって、私が生まれたときにはすでに負けていたこの国にそんなものが存在すること自体許されるはずもなく、他国の意思だけを遂行するこの国に過去も未来も望むことなど必要とされていない。


私もこの国の実態を知るという事は、そんな絶望を受け入れなければならないという事。


自分の出自など自分で選べるはずもない。

たまたまこの地で生まれ、たまたまこの地獄を地獄とも知らずに生きてきた一人のエリュトス国民だったとしても、ただここで生まれた。たったそれだけの事で……自分の国を多少なりとも愛している自覚が芽生えてしまう。

もちろん実態を知らないほぼ全ての国民に至っては、そんなことを考える力すら与えられていないように管理されてしまっている。


反乱は望めない。誰もその反抗する先を知らないし、フリージアやカルセオラリアからの管理を受けなくなるという事は、殆ど死んでいる大地だけを残されて支援をすべて打ち切られるという事で自殺に他ならないから。

発展は望めない。陸地続きの周辺は既に大国が隣接していて侵攻も罷り通る術は無く、唯一の新興国であるグルーネは今やロトに比類する軍事力を有している。唯一他国の領土にはなり得ない海も、大海を渡る技術など持ち合わせているわけもない。

進展も望めない。この国の陸地の約6割に至る面積が死んだ土地として作物を育てることも叶わず、そのうちの一部では人が住むことはおろか、通行することですら命を賭す必要があるほどなのだから。


この国の真実を知れば知るほど、閉じられた未来が閉塞へと向かって行っている。


どうすることも叶わず、叶わないことに歯を食いしばりながら日々の仕事に邁進している中、珍しくフリージアではなく、カルセオラリアから直接指令が下り、この短剣を管理することとなったのだ。


私がこの短剣を手にしたあの日の夜。


私は夢を見た。やけにリアルで、夢だとは思えないほどに鮮明だったことを夢から醒めた今でも覚えている。


焼ける空

崩れゆく大地


見たこともないような無数の巨大生物が地面を這いずり、空を飛び交う。そんな巨大生物と相対しているのは、私にはあれが武装なのか、それとも身体自体が鎧となっているのかも判らないような人型の生物。


散々卑下してきたエリュトスの地と比べても比較にならない程に、大地そのものから生命力が感じらないまでに陸地のすべてが破壊しつくされ、空すらも焼けて赤く染まり、その地獄をまるでものともしない生命体が、見たこともない信じられないような魔法や魔法武器によってすべてを破壊し尽くしてゆく。


そこに海は無く、地平線の果てまで広がる黒く死んだ大地。

割れた大地は見下ろす限り続き、割れ目の先に何があるのかすら見る事も叶わない。燃える空は太陽の光を必要とせず、昼夜関係なく空と大地を照らし続けている。生物以外にも私では理解できないような建造物や武器がお互いの戦力を削りあってい、命が枯れていくことに微塵の躊躇いを感じることも無い。


そんな夢を何度も何度も見続けるうちに、それが古い過去の記憶だと理解したころには、何故か私の中に古代竜王国の知識が備わっていた。私がその末裔であり、王家の血を引くのであろうという事も、だ。




古の神魔大戦を、現代では人魔大戦と訳され伝えられていることにも理由があった。

もちろんその理由など簡単なもので、歴史とは勝者の昔語りの場なのだから。そして何より、この世界に空気と同じように魔素が包みこんでいる事実からしてみても、歴史から消された『神』は負けたのだ。魔を背負った魔物と魔人、その者たちによって……。


その後の記憶は無かった。

私の記憶として芽吹いたのが竜王国の記憶なのであれば、負けた側なのだから当然の事で、記録としては大戦の勝敗と共に途絶えている。

『魔』の陣営がモンスターや人といった他種族だったように、『神』の陣営にも色々な種族がいたのだろう。私が所属していたのであろう竜王国はその名の通り『竜』が築いた王国なのだろうが、末裔である私は『人』として今の生を受けている。遠い先祖に竜の血でも流れているのかもしれないが、大戦の果てに敗れた『神』の種族はどこへ行ったのだろうか? 人と交わることで、どこか世界の片隅で息をひそめていたのだろうか。


その目的は?

祖国の復興を願うようになった私に、遠い先祖の記憶が蘇ろうと、私は竜王国の人間ではないのだ。何を求め、何を為したいのか……。


それを知りたいがために、短剣を握らせることで記憶が蘇る仲間を探した。

そして出会ったのが、この3人。

ルニスとルゼとカルロだった。


記憶が蘇っても、今の自分の記憶が消えるわけでも無い。

ある程度人は選びはしたが、職種の均衡がとれたのはたまたま。

おかげで4人と少数ながらも、軍務の裏で動くことができ……そしてあの白い悪魔の親玉に出会った瞬間から、人生の速度が変わり……今に至る。


この王国を復興することが、私達にとって、この世界にとって。

どんな意味を成すのだろうか。

我が母国エリュトスにとって、復権となり得るのだろうか。


すべては、この先にある。



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