こんなのが最初っておかしいよ!?
「暇だね」
「暇だな」
「……アルト様、フラ先生、ちょ~っと静かにしてくださいね?」
ボクは今、特殊魔法課の授業時間を使って冒険者ギルドのクエストにきております。
王都から西へ走って30分ほどの近隣にある“ヴェーレ自然森林区”内でのクエスト。
その名の通り森林の中なんだけど、そこまで木が生い茂っているばかりというよりは、結構木々の間隔が空いていて空の色が見える程度の森。
ちなみになんだけど、グルーネの王都の名前は王都ヴェーレって言うんだって。
初クエストが『新しい魔獣・モンスター発生源の調査』というクエストで、E難度と難易度がとても高いのは、アルト様とフラ先生がついているから。この二人は上級冒険者の資格を持っているらしい。
特殊魔法課の授業ということもあり、クリアの魔法が丁度役にたつ調査クエストを選んだのだけれど……
「ほら、レティーシア! 早くいってこーい! 時間がないぞー」
ばしーんっ!
「うわわっ」
背中を押され思わず声を出してしまった。
それでも魔法は解除されず、3人の姿は見えないまま。
ねぇ、普通最初のクエストって薬草の採集とかゴブリンとかの低級モンスター討伐じゃない? それも群れとかじゃなくてさ、1匹ずつだとか? 2匹くらいだとか? そういうのを狙うよね? 普通。
ちなみに今のボクはと言うと。……30匹以上はいるであろうグレイウルフの群れのど真ん中におります……
先生がそんな中で突然声を出すわ、ボクもびっくりして出しちゃうわで、急に群れのど真ん中で音がしたことで一斉に臨戦態勢をとったグレイウルフの群れが、毛を逆立てる。
グレイウルフは魔獣類に分類される。
レッドウルフ等、他のウルフ種と比べても比較的凶暴性はないが、群れ意識が強く集団での戦闘ではレッドウルフを追い払うことすらある。
この世界でも前世でも、“生物”の定義は変わらないけど、生物と平行した分類に“魔生物”がいる。生物との違いは、酸素や二酸化炭素で呼吸するのではなくマナを取り込むことで生命活動を維持することや、マナから生まれることもできることだ。生物と同じ繁殖もできるため、普通の生物に比べ繁殖力が桁違いに大きい。
今回のようにギルドから“発生源の調査”名目でクエストが出される場合は、大概マナ溜りから魔獣やモンスターが発生している場合が多いのだ。魔獣やモンスターは体内で、マナ溜りは自然界で何かしらの媒体がマナを溜め込み、魔水晶を精製する性質がある。マナ溜りには魔獣やモンスターが大量発生していて、魔水晶という目印があるはずなんだけど……。
グルルルル……
気配も足音も姿もないが、何かがいる。
それを感じ取っているグレイウルフの群れが、警戒しなくてはならない何かに対し唸りながら首をきょろきょろ動かしている。
足元に気をつけながらあたりを探索していると、20cm級の魔水晶を発見した。
多分、これが今回のマナ溜りで発生した魔水晶だろう。
このまま放置しておくと、どんどん大きくなりやがて魔結晶になるのだが、その過程でどんどん魔獣やモンスターが排出され、生態系を著しく破壊する。
魔水晶に流れ込んでいるマナを差し止め、魔獣の自然発生を停止させた。
後は、増えた魔獣の駆除も仕事のうち。
ちらっとアルト様とフラ先生のほうを見るが、手伝う気はないらしい。
うう……
いくら魔獣とはいえど、命に変わりはない。
「ごめんねっっ!」
クリアの魔法が切れる前に、グレイウルフの群れで一番大きな個体の首を刎ねた。
先生が持たせてくれた剣から、鈍い触感が伝わってくる……。
命を頂いたのだから、後で解体して使えるものは使うのが礼儀だ。
それならばなるべく状態をよく倒さなくてはならない。
突然群れのリーダーらしき個体を倒されたグレイウルフが、一気に死体のあるほうに向きなおした。
グルルルルルル……
グレイウルフからしたら何も無い。
気配も。影も。首を飛ばした武器さえも。
混乱したグレイウルフが後ずさりはするが、逃げることは無かった。
「んー?? リーダーがやられたのに逃げないね」
「ああ、こりゃ~当たりだな」
「当たりっぽいね……午後の授業大丈夫なの?」
「ん~レティーシアにゃわりーけど、多分間にあわねぇだろうなぁ」
「フラは授業大丈夫なの?」
「まぁ兵科の連中はあたしがいなくても自主練始めるだろ。それより……くるな」
「あれ?あいつは……うわぁ上位個体じゃん。結構厳しいね。レティーシアちゃん1人でやらせるの?」
「あたしらが入ってもしょうがねぇだろ。危なくなったら助けてやるさ」
「ああ、そういえば。ギルドは俺らがE難度のクエストを受けても文句も言わなかったな。道理で」
「このクエストもしかして登録か一般の連中が失敗してんのか? そりゃ当たり前だろ。あれ込みならどう考えても難度Hはくだらねぇ」
H?? 何言ってんのあの人たち。
「んー大丈夫かなぁ。五体満足で終わるといいけど」
「腕くらいは食われるかもなぁ」
「足だとやばいかもねぇ」
ねぇ。二人ともなんて話を生徒の前でしてるの? 全部聞こえてるんですけど?
「せ、先生?」
クリアの魔法を常駐させているから絶対に見えないはずなのに、森の奥から明らかに異質な魔獣が向かってくる。
ボクに向かって。一直線に。
「レティーシア。ありゃシュヴァルツ・リングウルフだ。頑張れ」
「先生!? クエスト受ける時は、いるとしてもブラックウルフっていうグレイウルフの上位種って言ってなかった!?そんな名前の魔獣聞いてないよっ?!」
「あ~、わりぃ。多分森の奥にもう1個マナ溜りがあるパターンだわ。ありゃブラックウルフの進化種の1種だ。頑張れ」
「アルト……様……?」
「ははは……頑張って」
「まあ、さすがに舞台は作ってやるか」
斬っ!
という風きり音の後数秒。
周りにいたグレイウルフ30匹が、何故か一瞬のうちに息を引き取った。
件のシュヴァルツなんとかとかいう黒狼が怒気を露にしながらボクを睨みつける。
見えてるんでしょ? ボクじゃないじゃん! 今やったのボクじゃないんですけど!!
……とりあえず姿を消す常駐魔法はMPの無駄なので解除しておこう。
わざわざアルト様とフラ先生から解除してあげる。
犯人はこの人たちですよ!
黒狼は見向きもしてくれなかった。
わぁ。ボクのことに夢中すぎる。可愛くない。
慣れない短剣を右手に、ホルダーには魔結晶をセットして自己強化魔法を発動・常駐させる。
グウゥゥゥ……
ヴヲオオオォォォン!
漆黒の獣が遠吠えを置き去りに走り出した。
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