ヴァンプレイス・ストーリー モンスター種
「おかえり、リリィ」
「た~だいまぁ。叔父様ぁ、そちらはどうでしたぁ?」
「ん~……その君が反応なら、やっぱり君が会っていた『白』が正解だったんだろ?」
「え~。両方正解だってこともありえなくはないんでしょ~? ねぇ。お母様?」
光の入ることのない大広場。
最後のピースを探しに出ていた2人が帰ってきて私の前で揃い、静かな部屋に男女の声だけが響いた。
「それも考えられなくはないけれど……複数いたとしても、正解は一人だけよ。もう後戻りもできないのだから、これ以上失敗はしたくないわ」
計画は一部を除いて順調……とは言え、その除いた一部と言うのがとても問題なのよね。
ここまで来たのだから後は急ぐこともないのだけれど、そうは言っても私達の種族からしてみれば、今、国内には私たちの餌となる人間がいない状態となってしまった。もちろん当初からそんなことは計画の内ですし、餌なら国を出れば沢山転がっているもの。私達自身が困るわけではないのだけれど、駒である下級吸血鬼を無碍に減らすのは得策とは言い難いですし、一番核となる計画の一部が順調ではないことはあまり面白い話ではないわ。
「マリチマ」
「なぁに? お姉さま」
「ロトの方は順調?」
「………………ごめんなさい。悉く阻止されているのが現状かしら……。3位階程度まで進化している個体でも、ここまでいい様にやられてしまうなんて……正直想定外だったわ」
「あ~らら。叔母様も無能の尻拭いさせられて、大変よねぇ」
「一度手も空く事ですし……リリーナとレンをそちらへ回したらどうかしら? 『黒い方』の真偽は……そうね。まだ確証が無いうちは殺してしまうのは避けておきましょう」
「いいのかしら?」
「あはっ。今度の餌場は市街戦かぁ~。一つ一つ引きずり出してから食べちゃうのも、いいよねぇ~……あ~……つぅか、レンの奴もくんのかよ~……どっちが狩れるか勝負しよっ」
リリーナがもう少し成長してくれていたら、これからの計画ももう少し楽になったはずなのだけれど……。リリーナの成長を奪われたことが、今になって計画に大きなズレとしてできてきてしまっているわ。
その要因のほぼすべてがグルーネなんていう小国によって起きたもんだがほぼ全て。この時代では異質な発展を遂げている国だとやっと気づけた頃には、既に時が経ちすぎてしまっていた。
これ以上計画にズレが出る前にあの国をどうにかしておきたかったのだけれど……。出来なかったことを今更嘆いたところで何も始まらないのよね。
とにかく最低限のラインは……ロトの上級兵隊を全て奪う事。……いえ、今のあのロト国兵隊の戦力であれば……中級兵でも相当な戦力となりえるかしら。
そのためなら、下級兵がいくら死んでしまっても構わない。
どうせあのレベルならこれから起きる戦いでは戦力にすらなり得ないのだから。
「ではお姉さま。レンと合流してロト国内へ行ってくるわ。もし例の捕獲対象と遭遇した時は……死んでさえいなければいいのよね?」
「ええ。……お願いね。あまり弱らせすぎても駄目よ」
「大丈夫よ。その時はリリーナが直してくれるわよね?」
「えへへ。その娘、可愛い?」
「ん~。ジュニの話じゃ、お胸がとっても大きいらしいわよ。お人形さんみたいなんですって。お顔は……どうかしら? 男なんて身体が良ければ皆可愛く見えるんでしょ? 実際見てみないとわからないわね」
「へぇ……じゃあその余分な物は、全部そぎ落としてあげようねっ」
「ええ。それがいいわ」
「たのしみ~!」
マリチマの後を追い、リリーナの影も消えていく。
遠くなっていく会話が、部屋に響きながら小さくなっていった。
「ジュード……。このままじゃ数が足りないわよ」
「ああ。ロトの連中、何故か俺達が事前に調べておいたよりも遥かに個々の能力が高い。それも一人や二人って話じゃなく、平均的に全兵士の能力が、だ。それも下級兵士の方が戦力増強の幅が広いらしい。今年に入っていざ計画が最終段階に入ったって時に、なんでこんなに予定外の事ばかり起こるんだ?」
「………………」
今年に入ってから、今までとてもたくさんの時間をかけて入念に準備してきたはずの計画が、突然失敗の兆しを見せ始めた。
去年までは僅かばかりのズレすら感じない程順調だったのに。
人間共に悟られることもなく人間の国を一つ支配し、そこから傀儡にした国を動かして他国に侵略を開始。そのタイミングで私達が、この世のすべてを握っているなどと勘違いしている人間共の世界に姿を出していくことはもうせずに、人間を矢面に立たせながら影の中で時間をかけ、ひっそりと準備を進める。
偶然に偶然が重なって、いくつかの計画が遅れるようなことはこれまでにもあったものの、それでも明確な『失敗』と呼べるようなものは、今までに数えられるほどにも起きていない。
だからこそ、私達も近況の情勢をきちんと収集しなかったことが仇となってしまったわけではあるのだけれどね。まさか魔法に特化して、僅か数百年足らずで世界の大国と肩を並べる程に成長を見せる国ができてこようとは……予測もしなかったのですから。
焦った私たちは、急いで裏に手を回し工作を試みるも……その悉くが失敗。
それも完膚なきまでに、何の成果も出せずに、こちらへの損害だけが積もる形で……。
そこで起きた一番大きな損害が、リリーナの成長阻害だった。
私達、世界に分類されるモンスター種は、レベルだけが成長の証。
敵を殺し、時には仲間すらをも殺し……自分のレベルが上がることでのみ、精神的な年齢も、肉体的な強度も、魂の容量ですら増やす事ができる。
なのに幼いリリーナが今のレベルであれだけの戦闘能力を持っている。そうともなれば、成長さえ計画通りに進んでくれれば……私ですら手の届かない存在となるはずだったのに。




