表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
478/515

ダンジョンの方が遥かにましとか言わないで。

「~~~ってワケで、砂漠を抜けるのにはちょっと使えないんだよね」


「「「………………」」」


うん。気付いてたよ?

途中からみんなに「何言ってんだこいつ?」って視線向けられてたのくらい……

気付いてたんだよ?


でも、どうせならちゃんと説明しておきたいじゃない?

だってここにいる人たちはエリートの中のエリートなわけで、ボクがこの先ぶつかるであろう魔法学の問題の先を知っておいてもらえば、正解の糸口を見つけておいてくれるかもしれないわけだし。


もちろん吸血鬼に追われてる最中で危ないかもしれないってことは承知してるけど、休憩する時間は皆の疲労度からして絶対的に必要だし、何より一度吸血鬼の幹部っぽい子がきて引いてくれてるわけだしね。その中で相手にも目的があって、戦闘や排除が全てってわけじゃないであろうことは把握できたわけだし、あそこまで危険な強敵はそうそうすぐには襲ってこないはず……だよね? 多分。


「ねぇねぇフラぁ。天才ちゃんに講義してるときって~……どんな気持ちなの?」

「今年に関しては、あのシルヴィア嬢もいるであるからなぁ……」

「……こんな気持ちだよ!」


休みを取りがてら、前世の発達した科学技術ですら解明もできていないような理論の話を、こっちの世界の魔法技術を通した実感として披露してみる。もしかしたらボクにクリアっていう特殊魔法が発現したのは、アルビノっていう特異体質を通して発現したってだけじゃなくて、こういう宇宙空間とか次元理論ってのがものすごい好きだったってのも、あるんじゃないのかな?


「ねぇねぇアルトくん。今の話、わかった?」

「……い、いや……全然」


リードリヒ夫妻のこそこそ声も、割と小さくまとまって休んでいる静まり返った空間の中では、聞き耳を立てる事もなく聞こえてくる。


「つまり、どういうこと?」


難しい話で濁されただけじゃなく、魔法学園という国の中で最高峰の教育機関に所属している最中で、しかも当人からみて直属の後輩から理解不能な理論を振りかざされた先輩として、複雑な面持ちでぶっきらぼうに結論を投げかけられた。

まぁセレネさんは元々感情表現が表には出にくい人ではあるけど、表情が少し不満そうに訴えかけてられているような……気がしなくもないような? 程度だけどね。


「ボクの魔法だけじゃ、砂漠を渡りきるには難しいかな……」


そう答えると、そっか。と、声に出す事なく唇だけが動いた。


実際、力業を使えばできないってわけでも無い……んだけどね。

エリュトスの砂漠気候帯に入ったら設置盾(アンカーシールド)を前と後ろ、そして天井面にも作ってアーチ状に設置し目的地まで一直線にずっと張り続けていけば、後は次元回廊とも呼べるであろうその回廊の中を進んでいくだけで、圧倒的に触れる空間の容量は少なくなるわけだから、次元回廊内の温度調節をしながら進めばかなり安定した気候対策にはなり得るかもしれない。メルさんであればボクより遥かに温度変化の調整も上手に使えるだろうしね。


だけど、モンスターパレードの時に砦を守るため設置盾(アンカーシールド)を一面だけ数㎞に渡って張ったところでボクの魔力量は尽きちゃったわけで、今回その3倍とは言わずとも2.5倍の面数が必要なのであれば、次元回廊を何㎞も張るなんてことができようはずもない。魔力の回復を待ちながら砂漠のど真ん中を渡ってたら何日掛かるのか計算するのが億劫になってしまうほどだし、何より砂漠地帯には遮蔽物も無ければ、次元回廊は身を隠す機能なんてないわけで。

そんな砂漠のど真ん中を悠々と歩いていたら、砂漠地帯に適応したモンスター種にわらわらと囲まれてしまうのが目に見えるようだよ。

ああいう酷な環境に適した生物って、食事の感覚はかなり空いてても大丈夫ないように体の構造ができあがっている種が多い分、魔素をエネルギー原にしている生物以外にも襲われる可能性が高いし、折角の得物が目の前にあるとなれば、次元回廊で手出しできなかったからと言ってすぐに見逃してくれるとは限らない。そうやってモンスターや魔物に群がられれば、目的が達成できないどころの騒ぎじゃなくなってしまうからね。

一番懸念されるのは、それを見てまた吸血鬼が追ってきてしまった場合だ。吸血鬼があの環境下の中、その場で囲まれて襲われるってことが気候的に難しい分、ボク達の居場所が吸血鬼の幹部たちにバレる可能性が高い。そうともなればボク達の目的に疑問を持たれてしまうかもしれない。

それだけは避けないといけないわけだしね。


「ん~……。良い方法だと思ったのだけれど」


セレネさんの口を尖らせる表情と共に、お耳が少し垂れ下がる。

可愛い。


「何も休憩すらできねぇってわけでもねぇんだ。ここでの休憩を終えたら出るぞ。俺にちょっとした策もある」


ハウトさんの一言で、皆の覚悟が決まる。

ハウトさんができると言えば、出来るのだろうと信じて命くらい預けられてしまう程度には、このプトレマイオスというクランの信頼は厚いのだ。






「痛い痛い!! ……うばっ……ぶっぶっ……ぺっぺっ……おえっ……」


皆も皆で自分ができる範囲で対策魔法をかけてるし、それ以上に魔道具や装備を使って対策もしているけど、それでも防ぎきれるような生易しいものでもないところを、ボクだけ自分の魔法で対応できるからってまっさらの状態でいるのは流石に申し訳なく感じてしまうし、何よりボクの魔力量はこのパーティで最後の生命線なのだ。皆が我慢してる程度はボクも我慢して、温存できる魔力消費は温存しておかなくてはならない。


そうは言ってもっ……!

この環境は結構辛いものがあるんだよっ!?

目を少しでも開けば砂の粒子が容赦なくバチコンと目ん玉の中に飛び込んできて痛いし、痛がって口を空ければ口の中が砂まみれになるような冗談じゃない場所で、誰も文句の一つも言わずにただただ突き進むとか、どんな精神構造をしてるのか頭の中身を見てみたいものだよ。

まぁ文句を言えば環境が変わるわけでもないんだから、言うだけ無駄だっていうのはボクだってわかっちゃいるんだけどさ……。




全員がそれぞれ自分の出来る魔法で、自分への環境負荷を減らす魔法やスキルを用いて、一歩一歩確実に進んでいく。遮蔽物は一切無いのにも関わらず皆を見失う可能性のあるような砂嵐が視界を遮り、上からどんどん降り積もる砂が、どんどん足元を埋めてしまうため足を動かし続けなければ無駄な体力を余分に消費してしまう。

こんなに砂が大量に舞っているのに、太陽の光が照り付けてくるとか。

ほんと、なんなのよこの土地は。


全ての土地がこんな劣悪な環境じゃなくて、もちろんエリュトスの人達が暮らしているような比較的住みやすい気候の場所だってありはするけど、それでも何の生命も存在し得ないような土地が広大に広がり、住みやすいって言ったってここという最強に劣悪な環境と比較すればってだけであって、隣国のグルーネは緑も多くて気候環境も穏やか……。いやぁ……戦争してでも奪いたくなる気持ちも、わからないでもないかもしれないわ。



「レティーシア。頼む」

「あい……ぶべっ」


気を付けて開いた口を狙ってきたかのように毎回毎回砂が入ってきて、口の中がすごく乾く。

口の中はもぞもぞするわ、乾いた埃の味が充満してて胃酸が込み上げるわ、歯がこすれるとじゃりじゃり音がして、ほんと……気持ち悪い。


ハウトさんに合図された場所でボクがグリエンタールを開き全員を確認、次元牢獄を展開する。すると、メルさんが間髪入れずに空調を魔法で整え、焼かれていた肌に冷気が当たり、一気に体温が冷えていった。それを感じた皆が、どさっと何も言わずに腰を下ろす。


「ぺっぺっ」

「はい。れてぃーしあちゃんも。お水ちゃんと飲んでね」


口の中がじゃりじゃりする。

砂を吐き出していると、魔法で創り出したんであろう水をウルさんがそれぞれに配り歩いていた。自分も大変だろうに、ウルさんは人の事が先に立つ人なのだ。


ウルさんが水を配り終え一息つくと、誰も顔をあげる事もなく沈黙が続いた。


砂漠地帯のど真ん中に入り最初の休憩。

確かによく考えてみれば、ボクやメルさんなんていった、かなり今回の異常気象対応に寄った魔法に精通している人間がいるのなら、砂漠のど真ん中で休憩をとれるなんて大体な行動ができちゃうわけで。別にボクがずっと道を作って進む必要もなかったんだよね。


十全に準備した状態ですら徒歩による異常気象帯の横断は不可能に近いような気候で、ここまで吸血鬼どころか生命体そのものがフリージア側から追ってくるだなんて可能性は限りなく低いわけだ。


当然こんな環境でも適応してる生命体もいないことは無い。いないことは無いんだけど、ボクが当初懸念したようなことは起きず、他に餌になるものが無い場所にわざわざ適応する生命体が人間を襲ってくるのかと言われれば……まぁ襲わないとも言いきれないだろうけど、わざわざ積極的にほとんど見たことも無い人間なんて襲ってくるなんてことは無いらしい。

色んな場所を開拓したり冒険したりしているクランのリーダーの経験は、そこまで計算してこっちのルートを選んでくれたんだろうけど……この人も流石、兄妹なだけあって、先生と似て作戦の本質を説明して……くれないんだよなぁ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ