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岐路

「……ん? ……え? 南下?」


ハウトさんの答えに、みんなの顔に疑問が浮かぶ。

疑問というよりは、何を言っているのか理解するのに時間がかかったというのが正しいだろうか? というかボクに至ってはまだ理解すらもできているとは言い難いんだけど。




ボクたちは今、フリージアを北上してロト経由で安全圏へ退避することを目的に行軍している。とは言え、そのまままっすぐ北方向へと北上してしまうと、もろにロトとフリージアカルセオラリア連合軍がぶつかっている激戦区へと当たってしまうため、安全を期すためにかなり西側へ迂回していて、位置としてはもう少し西に行ってしまうとエリュトスへと抜けることになる。


じゃあロトと戦争中であるフリージアなんかに留まらずに、フリージアを抜けてエリュトスへ向かえばいいんじゃないかって思うかもしれないけど、エリュトスには()がまだいるんだよね……。


当然人がいるのなら検問は機能しているし、検問があるって事はそこには検閲をしている人がいるわけで。フリージアにはもう人っていう種族が既にいないんだからフリージア側からエリュトスへ抜けようとしている人なんてのは存在しないんだろうけど、情報を素早く入手する手段がないこの世界だと、未だにエリュトス側からフリージア側へ渡ろうとしている人なんてのは、商人を含めて相当数いたりするんだよね。検問をする人もいれば、検問を受ける側の人も当然いるわけなのよ。


前にボクが検証した通り、クリアの魔法があれば検問なんてあってないようなものだし、抜けちゃう分には何の問題もないんだけど……。フリージアの傀儡国家となっているエリュトスに入ることで理性の回る監視の目がどこにあるのかがわからなくなってしまうし、何より怖いのはボク達がエリュトスに逃げ込んだことで、エリュトスに吸血鬼そのものや、吸血鬼化の波が押し寄せてくる可能性があること。


ボクとシルを探して吸血鬼の親玉一家が探しに来たように、その一番大元であるアルメリアさんは明らかに転生者がボク達の側にいる事に気付いていて、そして理由はわからないけど探しているみたい。

それがなんの目的で探しているのか、まではまだわからないけど、その目的人物であろうボクがエリュトスに入ること自体がかなり問題であるのはもちろん、そうでなくてもボク達は一度見つかっているんだから、モンスター引き連れてエリュトス国内まで探しにこられたら……? 人間の吸血鬼化なんていう最悪の状況には陥ってはいないとは言え、フリージアやカルセオラリアの傀儡となって貧しい暮らしをさせられている国にモンスター引き連れて人間を虐殺なんかされようものならボク達だって責任を負わないわけにはいかなくなってしまうし……なにより一番の問題として、竜王国の件でエリュトスに今、フリージアとカルセオラリア側に目を向けて貰いたくない……っていうのが一番の本音でもあるんだけどね。


俺等(アルタイル)がこっちに送り出される前に、お嬢の指示書の中で『一番うまくいった場合のプラン』ってのをお前ら、覚えているか?」


ハウトさんが、ボク達3人に目を配る。

どうやらフィリシアさんもセレネさんにも心当たりがあるようで、神妙な面持ちで頷いているのを横目に、なんとなく読んだんだけどどの作戦の事かまだ頭の中を駆け巡っている途中のボクも、とりあえずウンウンと頷いておく。


「で、でもベガの皆は知らないだろうから、教えてあげたほうが……いいと思うな!」


「……よし、じゃあレティーシア。説明してやれ」

「……」


この人、わかっててボクを指名してるな……。


「覚えてません!!!」

「この戦争が終わったら、お前に懲罰を与えてやろう」


「ひどい……」

「作戦は全部頭にいれておく。基本中の基本だ」


ねぇ聞いて?

よくこの方法で現実逃避してくるけど、そんなことには構わず聞いて欲しいのよ。


だってね? シルの指示書って一言でみんな言うけど、色んな状況が想定されていて、メインの指示としては最悪のパターンをなぞって作ってあるんだけど、当然シルの考える最悪の状況ばっかりにはならないのよ。そんな毎度毎度最悪ルート通ってたら、もうロトなんて敗北してて、最悪グルーネももう無くなっちゃってます! なんてことになってたっておかしくないじゃない? 


じゃあ指示書には次に何が纏められてるのかって言うと、そうならなかった時にメインの指示から外れた段階毎に、どこでどうなったら、今度はこうすればいい。……だとか。そんな細かい指示が今考えうる状況設定毎に何十枚って程に纏められて渡されるってワケ。

それをね? 短時間で頭に入れて色んな作戦について行って。そこで現地にきてみたら今度は戦闘だとか、人探しだとか、敵の警戒だとか、なんだとか……。それをしながら今の状況はこのルートにいるなぁ~って考えつつ、方向を修正していくわけなんだけどね? もうね、ボクは頭がパンクしてて全部抜けてってたって当然だと思うんだよ。当然なの。


なのに皆は覚えてるとか。

ボク、信じられないんですけど。

皆の頭が良すぎなわけ。

良すぎなの!


でもこれ言うとハウトさん、すっごい嬉しそうな顔で懲罰とやらを上乗せしてくるんだからね!!!

絶対言わないんだけどね!!


「じゃあセレネ」

「はい。一番うまくいった場合、エリュトスでフェミリアと言う人物と合流し、竜王国の復興を目的とする。でしたでしょうか。その竜王国の復興と言う所は……まだ私たちには説明されていませんが


説明されていない単語ですらすっごいすらすら出てくるあたり、まぁ最初から疑っても居なかったけど、皆当然の様にちゃんと覚えていたらしい。なんかボクだけサボってたみたいで恥ずかしいんだけど……ちゃんと頑張ってるんだよ?


「その通り。フリージアとカルセオラリアに感づかれる前に、俺等でこの戦争の解決に至る方法に手を出しちまえって話だな。この作戦を遂行するにあたってベガのお前らには安息を与えてやることが、すぐにはできなくなるが……。このままの状況を続けてイチかバチかロトへ抜けても、お嬢のところまで吸血鬼どもが追いかけてこれるのならなんの意味もねぇんだわ。それならいっそ。今一番近い俺等でこの作戦を遂行しちまえばいい」


確かに、エリュトス側へ逃げられなかったのは、フリージアとカルセオラリアに竜王国の復興についてを悟られたくなかったからであって、その目的を気づかれる前に達成しちゃうんであればそりゃ、問題はないわけなんだけど。


そこがそんなに上手くいくのかってところはかなり賭けになるし……

何より、シルの指示書でいう一番うまくいった場合って、当然今の状況とはかけ離れてたはずなんだよね……。

一番うまくいってればベガがフリージアに潜入していた段階で目的物が見つかってて、しかもベガの疲労度だって今とは全然設定されていた状況が違ったはず。

エーレーメンクランが出てくるなんて状況は当然シルだって読めるはずもなくて、イレギュラーなことが結構な数起きているこの状況が、一番いい状況だなんてわけがないからね。


とは言え、ボクの魔法でベガの皆から危険を離してあげることも、ハウトさんの作戦よりも安全安心で最高な作戦が捻りだせるわけでも無いのなら、リーダーに意見を述べる場面でもない。




ボク達はベガの皆とセレネさん、フィリシアさんと竜王国の復興についての情報を共有し……


エリュトスへの入国を目指す事になったのだった。




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