自己評価って難しい。
「じゃあさっきここまで攻めてきたやつは……その吸血鬼の兄弟の一人ってことでいいんだな?」
ボクが得ている情報を一通り説明していいって許可が出ているとはい……え? 実際出てないだろなんてのはね? 気にしちゃいけないんだけどね? うん。もちろん、ここにロトの、それも大臣なんていうお偉いさんが居ることで、言っちゃいけない……と言うか、言うべきじゃない事があることくらいはボクにだって理解しているつもり。
そのせいで今はリンクに全ての情報を渡せるわけじゃないけど、リンクが欲しがっているであろう相手の戦力と、これからの動向についての辺りはロトの人に聞かれてても問題ないからね。そういった部分を踏まえながら、慎重にリンクが欲しい情報だけをボクなりに整理して話していった。
因みにロトの人に聞かれちゃいけない話っていうのは、相手の首魁である吸血鬼『アルメリア』がボクと同じ世界からの転生者であろうという事や、同時にボクが転生者であるってこと。グルーネ国内ですらある程度隠し通して起きたようなことを、わざわざ腹黒い将軍様がいるようなお国のお偉いさんになんて知られて欲しいわけがないんだよ。特にボクの情報に関することなんてのは、ロトに知られたりなんかりしたら折角のハラグロ将軍もといハルト将軍にシルが情報戦でアドバンテージとってるのに、なんか変なところで反撃されたりしかねないわけで。シルや延いてはグルーネ側にとっていい事なんて一つもないだろうし。
そして、もちろん竜王国の復興による戦争終結に向けた対策の全容だったりなんてのも、ロトの人に聞かせられるわけもないんだよね……。もちろんこれらすべてはリンクにだけだったら話してもいいことではあるんだけど、ロトのお偉いさんに聞かれちゃうのはまずいって言うのはもちろんの事、リンクの周りにいる人たちに聞かれても……ね。ちょっとよろしくなかったりもするんだよね。
「ボクはこの部屋で起きたことは直接見てなかったし、そもそもその吸血鬼の兄弟の顔とかまでわからないから確証はないんだけど……多分実力がそこまで高かったって言うなら、その可能性はかなり高いと思う。最近じゃグルーネの上級クランの人達でさえ吸血鬼としてフリージア・カルセオラリア側の守備をさせられてたって事実もあるんだから、どっかのすごい実力者が吸血鬼化させられちゃった! なんて事案が起きてないとも限らないけど……」
「……ああ。やっぱりそれもお前からの情報だよな。本当に本人だったのか?」
「うん。フラ先生だけじゃなくてベガの皆が確認してて、しかも会話まで成立してたらしいから。その人たちがもし偽物で、ベガの人達を騙そうとしてわざわざ用意してたって言うなら、そもそもフリージアなんて内陸部の守りにわざわざ使うわけないし、エーレーメンクランの人達とプトレマイオスの人達って、交流はあるから顔は判る程度だったけど、流石にいくらどっちもグルーネの上級クランだって言ったって、そんな奇跡に賭けるような罠張る意味なんてないだろからね」
「なるほどな。ベガの皆がそう言ってんなら、似せて作られたって線も相当薄いだろうな」
「うん。それとリンク……様? だから今はそんなに時間が無くってね?」
ここにはボクが会った事のないリンクの護衛っぽい人もいるし、外国の人もいるわけで。そんな中で得体の知れないような小娘が国の王子を呼び捨てにしてるところは見せられないからね! ちゃんとこういう所にも気を使える女なんですよ!
「あ? ……あぁ。時間が無いってのは?」
「まず一つは、ここと同じようにベガとアルタイルも襲撃を受けた……って言うか、現在進行形で襲撃を受けてるかもしれないんだよね……」
「…………はぁ!? フラ姉とハウト兄のところにも来たってのか!?」
「う、うん……それで、白いのが正解だから黒い方はどうしようかってリリ……ボク達を襲いに来た吸血鬼の子が言ってて、それで慌ててこっちに飛んできたんだけどね……」
「すぐに転移眼で現場を確認しなさい」
シルから冷静に命令が奔る。
ボクも説明してる場合じゃないとは思ってたから、すぐにそう言ってもらえるのはありがたい。
……
……
……
「ふぅ……。大丈夫みたい。大した戦闘の跡も無いから、ボクが消えたからすぐに引いてくれたのかな?」
「そう。それならいいのだけれど……レティ。貴女にはベガとアルタイルの安全を確保してもらう為に同行して貰っていたのはわかっているわよね? それなのになぜ、こちらに来たの?」
空気が一気に重くなって、息が苦しくなる。
「そ、それはシルが……」
「私が? 危険なのは私よりもプトレマイオスの方々なのよ?」
うぅ。シルが心配だったからとか、ハウトさんに行けって言われただとか、色々言い訳は頭の中に浮かんでくるけど、実際命令違反なのは間違いのない事実なんだよね。ロト国内で比較的味方も近くにいるであろうシルと、満身創痍の状態で敵国真っただ中を精神すり減らして帰還中のベガとアルタイル。今考えれば、どっちに付いていた方がいいかなんて明白で、そんな場所にいるからこそ、ボクが向こう側にいたはずなのにね……。ボクの特殊魔法があれば、どれだけ生存確率が上がるかなんてわかりきってることで、とんでもない差になるはずだったのだ。それを、危険が迫っている中で抜け出してくるなんていうのは命令違反どころか仲間への背反だ。
「ご、ごめんなさい……」
「こちらに貴女がすっ飛んできたところで、もしかしたら手遅れだったって可能性だってあるわ。その時に危ないのは貴女なのよ? ハウト達と一緒に居ればまだ安全なものを、貴女がこちらにきた状態で一人で敵と相対していたらどうするの」
「す、すみませんでした……」
転移眼があるのに視界が通ってない状態で飛んでくるわ、転んで無防備晒すわ、自分はいいとしても皆を危険に晒すわ……間違いだらけじゃん。
結果誰も傷つかずによかったものの、流石にこの失敗の連続は応えます……。
「前から言っているでしょ? 貴女の力は国に必要なのよ。慎重に動きなさい」
「あん? それを言うならお前だってこいつの身代わりになろうとしてただろ。お前も自分の事は棚に上げるよな」
「リンクは黙ってて」
「へいへい」
「……身代わり?」
ギロっと睨まれたリンクが、どこ吹く風とばかりな返事で濁す。
黒と白。そう言われて慌ててすっ飛んできたのだ。相手の吸血鬼がここに来た目的は、シルが転生者かどうかを確認する為で間違いないはずだとすれば、シルが取ろうとした行動に予測がついてしまったりもする。
「し、シルも……危ない事はしちゃだめだよ?」
「あら。貴女も人の顔を読めるようになったのかしら?」
本当はシルの力が一番国のためになってると思うんだけど……
本人はわかってるのかなぁ……。




