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動き出す本懐

「…………おいおい。ロトの堅将軍ドズンっていったら、ハルト元帥の右腕でロト国内でも有数の強者だぞ? そんな簡単にやられるような相手がいやがるのか?」

「ううん。さっき確認したときにはやられてはいなかったんだよ? ボクのマップスキルにそのドズン将軍って人のアイコンが残ってたからね。交戦中で定期報告ができない状況なのか、それか何か事故があって孤立しちゃってるとか? とにかく、一緒に偵察に出たって言う部下の人達はかなり不味い状況なのかも……」


知らない人と知っている先生達。

どっちが大事かなんて言われれば当然先生達って話で、ボクが将軍の手助けに行くわけにはいかないんだけど、そうは言っても状況をある程度理解していて、知らないふりをしていられるほど図太い神経してるわけでもないんだよね。

まぁだからこそ、シエルが掩護に行ってくれるって話になった時は嬉しくもあったんだけど、同時に心配でもあるわけなんだよね。まぁボクなんかよりは遥かに頼りになるんだけどさ。


にしたって、シルへ色々と報告に行ったときにちらっと見かけただけなんだよ? それだけで登録はされちゃうんだから有能だよね。まぁ、向こうからしたら、自分たちの本拠地である屋敷の中で知らない人を見かけたら侵入者だって疑われちゃうかもしれないから、基本的にシルの部屋以外ではクリアの魔法で自分の存在は消してたからボクの事は知らないだろうけどね。


「それでシエルか。万全にフラを送り届けるにはシエルの力も欲しかったが、仕方がないか……」

「シトラスはちゃんといるよ?」

「はいなの!」


出たくてうずうずしていたシトラスを、表に出してあげる。

最近そこまで大きな魔法も使ってないから、3人が外に出てても魔力量的には問題もないしね。って言うか、殆ど外で諜報活動しててもらってたんだから、今更ボクの魔力量を気にして我慢してもらう必要もないんだけど。でも主従契約までしてるとそういうわけにもいかないみたいで、何の命令(お願い)もない時は外に出てくるのは控えちゃうみたいなんだよ。


「頼りにしてるぞ」

「もちろんなの!」

「シトラスもシエルも、新しい魔法もあることだしね」


「もう負けないの!」


ボクがカルセオラリアから逃げるときに相対した相手とは、シトラスは別に負けたわけじゃないと思うんだけど、実際ルージュからしてみても危険だって判断だったわけで。とは言え、あのレベルの相手を倒し終わらない事には、この戦争自体は終わらないのだ。


誰かがあの子達と戦わなきゃいけない。

それが誰になるかは……




---------------------------------------------------------------------------------




……ゴロン


「………………あら。おかしいわね。さっきまで生きていたはずなのだけれど」

「へぇ。それは何かのスキルかい? それとも魔法?」


レティがいつも気配を消して部屋に現れてくれるおかげで、(わたくし)の感知能力も随分と鍛えられていたものね。魔法で気配をすべて消して、直接(わたくし)の真後ろに転移してくるほどの隠密性に長けたスキルや魔法なんて、この世に2つと存在しないでしょうし。だからこそスキルなんかで気配を消してきたところで、屋敷の正規ルートを通ってきている時点で気がつけたことは……誇るべきことなのでしょう。


気配なく開けられた扉に視線を向けると、(わたくし)が気付いていたことに気付いていたらしく、侵入者が部屋に入ってくる前に、何か固いものが投げ入れられ床を転がった。


見たことのある()

人相が大分崩れていて確信は無いけれど……多分、堅将軍の首でしょうね。

血がまだ固まっておらず、首から飛び出る血肉が転がった床を汚している。


レティが部屋を出て行ってから、まだ1時間も経っていない。

レティが言うには、あの時にはドズン将軍は生きていたはずなのよね。その首を取って持ってきたとするのなら、この屋敷にいる人間の情報を把握している事になるし、何よりドズン将軍はロト国でも有数のスキル強者。その将軍を倒してここに来るまでに1時間弱となると……。目的は何かしら。


「僕は姉さまみたいに頭を使う事は苦手なんだ。要件だけ聞いておくけど……君が転生者でいいのかな?」


“転生者”レティが口にしたものと同じ言語を使っているってことは……。


「……ええ。だとしたらどうなのかしら?」

「迎えに来たんだ。姉さまが……


カンッ!


ダダダッ


甲高く鈍い音が鳴り、鈍い連続した音が続く。


いつの間にか握られている侵入者の、右手には長柄の槍と左手には短剣の束。そのどちらもが刃が侵入者のほうを向いており、攻撃された物を切っ先で掴んだんであろうことがよくわかる。その掴まれている見慣れた武器に、次に出てくる人物に心当たりが浮かんだ。

侵入者が顔色一つ変えずにさっと一歩引くと、上階が崩れ落ちるように建築材であった石材と木材が舞い、大きな影が落ちてきた。


「王国式・蒼牙!」


落ちてきた場所と、スキルに声。

誰かはすぐに判断がつく。


2階の床を壊してきた時に巻き上げられた埃が、リンクのスキルによる横なぎの風で吹き飛んでいく。

部屋の入口にリンクが立ち、向こう側にはニケとミズトの姿。


「リンク、止めなさい」

「シルヴィア!!! 大丈夫かって……お前なぁ!!」


最初にミズトが投げつけたであろう槍の刃を掴んだままリンクの剣を軽々と受けているあたり、このメンバーでここで戦うべきではない。


「その人……じゃないわね。吸血鬼さん。は、(わたくし)に用があるみたいなのよ」

「…………おかしいな。なぜ君たちは僕の気配がわかったんだい? 人間が判るような隠し方は、していないはずなんだけどな」

「てめぇより見つけにくいやつがいるからなぁ!」


「リンク!!」


思わず声を荒げてしまい、ハッとして声を噤んだ。


「……へぇ。そうなんだ。まぁいいや。君が本当に転生者なら、今度はちゃんと迎えに来るからね」


思いっきりに力を込めていたんであろうリンクの剣から、ふっと止めていた槍が消え、行き場を失った体重にリンクの身体がふらつく。

慌ててミズトが受け止めた時にはもう、そこに吸血鬼の姿は無かった。


「はぁ!? どこにいった?!」


リンク達がさっと臨戦態勢で(わたくし)の周りを囲み……しばらくすると、全員が武器を下す。そもそも気配のしない相手。気を抜いていいのかどうかも、わからないのだけれど。


「なんなんだよ! あいつは!」

「ちょっと王子……あれはまずいよ……」

「……おえっ……あれってもしかして……」


そう言いながらニケが近づいていく。


「本物?」


あまりの理不尽さに、作り物なんじゃないかという希望が口をついた。


「本物だね」

「はぁ……そう……。悪いわね、ニケ。クイネ大臣を呼んできてくれるかしら」

「こちらに」


(わたくし)がニケに頼み事をした時にはもう、リンクが崩してなくなってしまった部屋の扉の向こう側に、吊目のメイドと怯えた女性の姿が見えていた。


「ありがとうイザナ。仕事が早くて助かるわ」

「いえ。屋敷の中でこんな爆音が聞こえれば、誰でも駆けつけますから」

「あ……あの……ひっ!!」


未だに何が起きているのかわからないクイネ大臣が、一歩部屋の中へと踏み込み……


ドズン将軍の首を見て、そのまま意識を手放してしまう。




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