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発つ鳥、後は濁ってても知ったこっちゃない。

「なんか、貴女といると狡い気がしてくるわね」


シエルが影の中へ消えていくのを見送ると、また部屋がシンと静まり返った。

静まった部屋の中で突然シルにそんなことを言われたものだから、ちょっと不服な顔で不満を表してみる。


「………………シル、それわざと言ってるんじゃないよね?」


まぁ、あの場にいたわけじゃないんだから、そうじゃないことなんてわかってはいるんだけど。なんて言うかタイミングがね……。


「? なんのこと?」

「それ、ちょっと前にも全く同じことをフラ先生にも言われたの!」


「それはそうでしょうね。貴女の事を知っていれば誰しもがそう思わずにはいられないもの。だって貴女一人がいるだけで、何十人が何日もかけて、命を危険に晒しながら遂行しなきゃいけないことを、僅かな時間でほぼ完璧に情報の齟齬すらも無く完遂できちゃうのよ? ずるいじゃない。……その間に起きえたであろう手遅れにも、時間さえ間に合うのなら対応できることは大いにあるでしょうし。何より、そこにとんでもない特殊な諜報能力を持っていて、自分だけで危険回避も、探知も、侵入もできて、どんなところからでも逃げられちゃうなんておまけ付きよ? 今までのように学園生活のまま平和な時間を過ごしていられたのなら……そこまで頼ることもなかったのでしょうけれど。こんな場面ではほんと、狡いと思われても仕方ないんじゃないかしら。貴女の力。……ま、知らない人には気味が悪いったらないでしょうけれどね」

「むぅ」


少し悪い顔をしながら褒められるとか、なんて言って良いのかわからないから、なんていえばいいかわからない返事をしてみる。いや、褒められてるんだよね? 大丈夫?


「ま、頼りにしてるってことよ」

「……うん」


ある程度フラ先生との講義やクエストの合間に能力の開発をしていて、こういう事ができるねって確認をしてきたことをやってみているだけで、実際ボクの力の使い方については、先生やシルが『こういう事ができるんだから、ここでこう使ってこうやってきてね』って、ボクの使い方を示唆してくれてるから、十分に発揮できてるってだけなんだけどね。

自分自身、色んな事ができるのは嬉しいことだし、そりゃ一人のグルーネ国の村民として全部を貴族の人達に任せてのほほんと暮らしてた世界線なんてのもあったんだろうけど、皆のためになれるって言うのは……やっぱり嬉しいよ。


「じゃ、戻るね。ハウトさんにロトが他国側から攻められてるって話、しちゃってもいいんだよね?」

「ええ。一応、報告する際だけでいいから、フラさんには聞かれないようにしてくれる? ハウトがちゃんとコントロールできるのなら、もちろん知っておいてもらうに越したことは無いのだけれど。……あ、あとまたこれも。お願いできるかしら」


そう言いながらつい最近見たことのある白い封筒に視線を渡された。いつもシルが使っているようなラインハートの家紋はどこにも見当たらず、それどころか封筒自体に何も書いてすらいない怪しい封書。


「ハルトさんのとこ?」

「わかってるじゃない」


こんな怪しい手紙、忘れる方が難しいってものだよ。




「はーい、お邪魔しますよ~」


声が消えている事を確かめながら、部屋に誰もいないことを目視で確認してみる。当然そんなことする前にグリエンタールで確認済みではあるんだけど、一応ね? まぁ部屋の中に誰もいないってだけで、部屋の外にはいっぱい人はいるんだけど。


慌ただしく動き回っているような状況で軍部総司令官である元帥の部屋の中に怪しい手紙だけ突然置いてあったら……? そりゃ警戒もするし捨てるに捨てられないってもんでしょ。


実際、数日前に発覚したエーレーメンクランの吸血鬼化に関する情報だとか、そこから予想されるロトへの懸念情報などが纏められた手紙は、前に同じ状況でここに置いておいたけんだど、今ここには無いみたいだしね。


怪しいからって手紙を見ずに捨てられちゃったりしたらそれはそれで困るけど、この警戒態勢にある国内の軍部本陣ど真ん中で、それも中枢人物の机の上に手紙だけ置いていけるような人物に心当たりがあるであろうあの人なら、まず捨てるなんてことはしないだろうし、何よりそんな状況を裏返して思考を巡らせれば、状況も相手に伝わっちゃうってわけだ。


むしろボクじゃなくてちゃんとシルが手順を踏んでここに情報を持ってきたんだとしても、面と向かってハルトさんにその現状を報告したところで、外国のいち公爵の娘でしかない女の子が持ってきた、こんな荒唐無稽な話を信じるのか? なんて議論がロトの軍部内で持ち上がってしまえばもう手遅れ。議論なんか始まっちゃったらもう大変なことになっちゃうところを、元帥であるハルトさんが突然、どこから仕入れた情報なのかわからないけど、こういう事を直接言いだしたとすれば、部下である軍部の人達は元帥独自の情報ルートがあるってことで納得せざるを得なくなっちゃうわけで、とっても効率的。


しかもハルトさんからしてみると、誰に売りつけられた恩なのかが一目瞭然なわけで、いざこざを避けて国のお偉いさんにがっつり恩を売りつけていくスタイルは、流石シルとしか言いようがないまであるんだけど。


まぁ見えてない聞こえてないにせよ、こういう所には長居しないに限るよね。


「お邪魔しました~」


ペッと手紙だけ乱雑に置いて、部屋を後にしておきます。




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