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Nothing so much to be feared as fear.

「将軍……我々はいい様に使われているのでは?」

「……お前、敵の本国へ間諜を送り込むとして、どんな魔法があると思うか?」


「へ? スキルではなく魔法、ですか? 魔法……ど、どんな魔法でしょうか。人を操るとか、気配だけじゃなく姿を完全に消せるとか……?」

「姿を消す……か」


なるほど。確かにスキルで気配を極限まで消すことはできても、姿形そのものを消し去ることはできないからな。もしそんな魔法があって、それで姿を消せたとして……では、どのようにしてノミノアで起きたことが、今ここまで明確に情報が渡るのだ? 飛行生物を使って情報を伝達しているのか……? それにしては内容が精密で動きが迅速すぎる。そこから予測できるのは、姿や気配すらも消せるような魔法で潜入している間諜が、遠くに声を飛ばせるような術があるという事になる。


そんな魔法があるとすれば、すべての国のすべての機密情報が抜かれてもおかしくないような話だ。


「ちっ……厄介な……」

「何かおっしゃいました?」


「いや、なんでもない。それよりも先行させた部隊から何か連絡はあったか? もうそろそろ国境までたどり着いてしまうぞ」

「いえ……それが誰も戻ってこないんですよ」


「……あ? それはおかし……ぐぬっ!」

「将軍!!」


我の額をめがけて高速の物体が、遥か彼方から飛んできた。

不意打ちに思わず一瞬対応が遅れてしまうが、気が付く分には問題はない。……問題なのは、我が攻撃を受けたという部分ではないからな……。


「おい……! 即時築陣! 対遠距離物理・防御陣形を取れ!!」


号令にフルプレートに大盾を持ったガードナーが陣を敷きながら前へ出る。騎乗していた我や周りのライダー達が防御陣形に合わせてそれぞれが地に足をつけ、ガードナーの後ろに回った。構えた盾の列が、彼方から飛んでくる無数の矢を防ぎ、鈍い音をまき散らしながら地面へと矢が落ちていく。


「2陣前へ! 敵ソルジャーが来るぞ!」

「了!」




ロト国内へとフリージアとカルセオラリアのモンスター共が攻め入ってきたのが約3か月前。その3か月前の時点では、我は防衛線の最前線にいた。あいつらの兵隊を平野からこちら側にそれ以上入らせるわけにはいかないのは当然のこと、国の守りともなれば堅将と謳われる我が出ないはずもない。


しかし、あの時襲い掛かってきた無数の青白いモンスター共は、どいつも同じような戦闘方法で爪や身体を武器としており、剣や弓なんてものを装備しているやつなんぞ一人もおらんかったのだ。それ故にこちらが力押しでどうにかなった部分もあっただろうに、モンスターがモンスターの力で弓を射るなど、シルヴィア殿の新情報でも聞いていなければ即座に理解できはしなかっただろう。


ロトの東から現れたモンスター共……。こいつらは、フリージアとカルセオラリアの国民を犠牲にしたモンスターではない。この局面で先陣を切ってくるような相手となれば……。元々の人間としてのステータスが相応に高い連中かもしれないな。


堅衣装纏(けんいそうてん)


皮膚の外側に固い感触。

いつもの感触を感じながら、急に広がった目の前の戦場を確認する。


弓の波を縫って、人間の動きじゃない青白いモンスターが割り込んできていた。


「弾き返せ!」


ガードナーの上や横を柔軟に越してこようとするモンスター共を、ソルジャーがそれぞれ待ち構えて打ち取っていく。


「ライダーとドラグナーは再騎乗せよ! ここから当たるモンスター共は、先日に当たった奴らとは別物だと心得よ! 次の波を防いだら後衛を荒らせ! 『地竜の陣』我が正面に風穴を開ける! ソルジャー隊は正面に続け!」

「了!」


兵士の返事が重なり、奇襲を受けて浮足立っていた空気を振動が吹き飛ばす。


獣化装纏(じゅうかそうてん)


弓の波が()()()()()()()()。ガードナーの重なり合う盾のど真ん中が打ち合わせたかのように開き……


「吸血鬼風情が!! 武器などを取ったところで我を止められると思うなっ!!!」


弓を弾き返しながら突っ込んでくるとは思いもしなかったであろうモンスター共は、想定通り硬直したまま餌となり、我の手が()()()()()砕かれ、血と肉をまき散らしながら吹き飛んでいく。

吸血鬼の前衛として控えていた軍勢のど真ん中を突っ切り、後陣で弓を構える吸血鬼の群れへと、そのまま突っ込んだ。


後ろでは部下がモンスターと全面からぶつかり合った怒号が鳴り響き、モンスターの絶命の音が我の心に高揚を促す。


ぐちゃ


見えない我の爪に成す術もなく切り裂かれ、弓が折れる。

青白い爪が我の身体を切り裂こうとし……弾かれ折れる。


この吸血鬼共にも表情があるのだな。

折れた爪を見て丸くしていた目を、顔ごとそのまま握りつぶした。


まだ動いている腕を捥ぎ、改めて心臓を貫いてやる。

吸血鬼は頭を飛ばしてもしばらくは生きているのだ。

確実に絶命させるためには、心臓を潰すのが効果的である。




我の防御を抜ける手合いはいないようだ。

しばらく遠距離武器を持ったモンスター共を潰しながら、後ろを振り向くと、既に殲滅戦へと入っている。こちらの被害は……そこまで多くはなさそうだ。


我が国境の偵察へ連れてきた兵が、約100程。

そして、今奇襲を受けたモンスター共の総数も同じ程度であった。


これも偶然なのか。

それともあのグルーネの悪魔の想定通りなのか。


……想定通りなのだとすれば、今当たったモンスター共はまだ序章にすぎないのだろうな。


「……今は味方ではあるが……」


前も後ろも。

嫌な気が漂っているようで、纏う獣の毛が逆立つようだ。



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