A wise man things it more advantageous not to join the battle than to win.
「これは……どこからの情報か? まるで今まさに見てきたかのような内容で、それも……これはさすがにちょっと……発生日が今日の、しかも数時間前とは……」
「シルヴィア様……こ、これではあまりに荒唐無稽です。私共の内部でもこんな話はまだあがってすらおりませんよ?」
「ええ。当然。その通りでしょうね。今得た情報ですもの」
「「…………」」
シルヴィアの、さも当然といった態度に2人の顔が曇る。
ロト国側の2人が感じる疑問も当然で、俺だって今まさに敵国の内部を調査中に得た情報が、まるでその場で見ていたかのような内容のものをロトの国内の、それも戦場からしてみてもかなり内部にあたるようなこんな場所で纏められて報告されるだなんてことが、本来であれば信じられるわけがない。
ここからフラ姉のいるフリージアの首都ノミノアまで、何の障害物も無しに直線で走ったところで山を越えるのもあって、休みなしで魔法使って走り抜けられる奴でも半日くらいはかかるだろう。それが途中に紛争地帯があり、敵国へ侵入するともなれば安全を考えれば数日は掛かってもおかしくはない。というか、最大限の安全マージンとって慎重に行ったとすれば、数週間は掛かってもおかしくないような道なりとなるだろう。
そこを例え向こう側から使者が危険を冒して走ってきたのかもしれないとは言え、シルヴィアが報告を受けて情報をまとめて資料を作成して人を集め終わった、その数時間前の出来事がこんなところで報告されるとあれば、気が触れたか揶揄われていると思ったほうが自然なくらいだ。
しかもそれを踏まえた予測と対処法、そして今後転換すべき方針が一挙に並んでいて、緊急性も含めて荒唐無稽も甚だしい。そうとっても全く不思議じゃないと思うのは大いに理解できる。
ただ、俺にはこれができるだけの方法に心当たりがあるからな。さっき一瞬声が聞こえていたのは、重要な情報を得たことでわざわざシルヴィアに報告しにきたんだと考えれば腑に落ちるし、確かにこんなことが起きてれば緊急性の高い話で方針の転換が必要なのも頷ける。
まさか行方不明となっていたものが吸血鬼となって襲ってくる?
そんなことが起きえるなんてことになれば一大事どころじゃない。
しかもそれがグルーネの、さらには上級冒険者だなんて。
エーレーメンってクランは俺個人としての面識はないとは言え、名前くらいは聞いたことがあるようなクランだ。プトレマイオスほど大きいとは言わんが、冒険者であれば大抵の者が知っていて当然程度には知名度のあるクラン。相応に能力だって高いだろう。
これが起きてしまうのであれば半年前にフリージア・カルセオラリアが引き起こしたと思われる、この報告書に列挙されている各国の事件による行方不明者と、まだ把握できていない、無限ともとれる数の総数がフリージア・カルセオラリア側の国土とは別の場所から一挙にロトを攻めてくる可能性がある。……だなんて、今更突然こんな場所で言われたところで誰が手放しで信じられるっていうんだよ。
当然、俺と提案者本人であるシルヴィア以外の3人はこの資料に関する情報に困惑気味で、ロト国の2人に至っては懐疑的ともとれる顔をしている。この先へと議論を進めようとするシルヴィアに、ついてこられていないのも当然と言えば当然なんだが。
反対についてこれてはいないが、ルヴィナーク家の人間がラインハート家に異を唱えるわけもないし、シルヴィアがこんな重要な情報に対して、裏も取れないないような人物であるかどうかなんて、常識以前の問題として認識しているが故に微塵も疑いもしないだろうエスペラントのおっさんは、困惑はせど疑問は持っていない。
そしてロト国の重要ポストにいる2人が、グルーネのシルヴィア・エル・ラインハートという人物がどんな人間なのかを知らないはずもない。が、その情報力・入手方法・時系列と内容の質を踏まえても、あまりの突飛な情報にさすがに混乱はしているようだ。
「ごめんなさいね。当然皆様が今起きている情報をどのように入手したか、本当のことなのか、信じきれないことに確証となる物的証拠等が欲しいことくらいは理解しておりますが、この情報に関する入手経緯や情報経路は当然、重要機密事項に該当し、この場でお話することは叶いません。ですが、その情報として確かなものがあるのにも関わらず、今動かなければ確実に私達は後手に回ってしまいますわ。そうなってからでは遅いことくらい容易に想像もつくというもの。それを踏まえ、今後どのような決断を持ち、迅速に動いていただけるのか、それを決めていただく会議でもありますの。グルーネ国といたしましても、ロト国に被害が及ぶことは望んでおりません。何卒ご英断を」
シルヴィアの真っすぐな視線に、ロトの2人が混乱から頭を振り払い考え込む。
「私は……早急に対処すべきだと思います。シルヴィア様を始めとしてグルーネ国からの支援が迅速に得られたことで、我が国の情勢は、比較的混乱が少ないまま一旦安定するまでにこぎつけられました。それも、シルヴィア様の情報力が群を抜いていたからこそ。どんな情報網をお持ちなのかは当然我らには判明しないものの、それも当然のことかと考えますドズン将軍、如何なさいましょうか?」
「………………あいわかった。我が東の国境を回ろう。クイネ、ここは任せる。……シルヴィア様。他国である我が国の内部防衛を一部担っていただくこと、多大に感謝しかありませぬ。ここは甘えさせていただくとしよう」
「いいえ。この援助は協定によるものですもの。ご安心ください」
迷ってるロト国の2人と、それに付き従う人間たちが明らかに混乱しているのに対し、まるでそれが当然であるかのようにグルーネ側の人間には混乱が見られないのは、思っているよりもロト側から見て信じられない光景だったようだ。
シルヴィアの言葉に対し、回答を待っているのはロト国の2人にだけであり、グルーネ側の人間に情報の信憑性について腑に落ちている人間が多いことが、ロトへの信用につながったのはあながち見当違いというわけでもないだろう。
そこに、ロトが落とされればグルーネが危うい話が出てくることは無い。
売れる恩は、高く売りつけておくに越したことは無いのだから。




