使い方次第って、ほんとそうだよね。
「フッラアアアア!」
むぎゅ。
「うげぇ! ハウトてめぇ、なんでここにいんだよっ!!」
「……」
ボクが遊軍としてシルの元で働いていると、どんなに優秀な人たちがシルの周りに揃っていたとしても他の人達にはないアドバンテージが存在する。
どんな敵地に居ようが、どんな未開の地に居ようが、どんなに複雑なダンジョンの内部に居ようが……知り合いであれば当然、むしろ知り合いとかいう認知さえしていなくとも、会ってさえいればその人が生存している限り、どこにいるのか詳細にわかっちゃうってこと。
グリエンタールのマップスキルによるマッピング機能自体は、行ったことが無い土地の詳細を映し出すことはできないけど、そこにもし知り合いがいた場合、人物マーカー自体はまだ行った事がないせいで映されていない真っ暗なマップスキル上に存在はしてるんだよ。だから、その人物を探したいのであれば、行った事がなくともその人がいる方角くらいは判っちゃうわけで、それなら既存の地図を見たりして大体の位置は予測できるわけだし、それを参考にしてどんどん近づいて行きさえすれば、今度はグリエンタールのマップスキルが更新されていって、結局マップスキルが土地の詳細を映し出すまでに接近したところで、その人が詳細に、どこにいるのかまでわかっちゃうって寸法なわけ。
これってボクが知り合いとさえ認識できてさえいれば、行方不明者だとかクエストに出て帰ってきていないなんていう要救助対象がいたりしたときに、その人達を探しだすのにこれ以上ないってくらい重宝されるスキルなわけなんだよね。今回みたいに戦争時だとか作戦時に遊軍として出ている自由度高く動きまわるような、作戦部でもどこにいるのか把握しづらい、特に国軍以外の冒険者や協力者っていう戦力を探し出すにはもってこいのスキル。
これがあるだけで作戦の幅はかなり広がるし、もし合流対象が事故にあったりしていて、合流地点に来られなかったとしても、ボク側からはどこにいるのか分かるわけで。それが分かるだけでも、何があったのかって予想を立てたりするのに大いに役立ったりするわけだ。そういう確実な情報が1つわかるだけでも、立てる計画の成功率はものすごい変わってきたりする。
今回の場合、フラ先生たちのベガパーティは、予定を超えて敵国の内部までに至っていたわけだけど、そんなの関係なく直接、直線的に先生たちに合流することが出来ちゃってるわけだしね。
色んなスキルも使い方次第で、マップスキルっていうのがレアで重宝されるって言うのはこういう場面を迎えるとよく分かるってものだよね。
自分で自分のためだけに使っていたらダンジョン構造の記録くらいにしか使わなかったスキルも、こうやって大きな範囲で使うと、とてもじゃないけど代用の効かないような利便性の高いスキルへと変化したりする。
そんなこんなでフラ先生との合流を任されたボク達アルタイルパーティは、ベガである先生を目指してフリージアの首都、ノミノアへと向かった。当然の話だけど第一王子で王位継承権1位であるリンクだけは敵対している国の敵陣ど真ん中であるフリージアまで潜入すなんてことが許される訳もなく、アルタイルパーティと言ってもハウトさん、セレネさん、ボクに、フィリシアさんが貸し出された4人の少数パーティ。いざって時にはボクの特殊魔法で乗り切る必要がでてくるから、少数であった方が安全だったりするのだ。
プトレマイオスの人はハウトさんとセレネさんだけで、これをアルタイルパーティーと呼んでいいのかは微妙なところなんだけど、そもそもベガ・デネブ・アルタイルはパーティーリーダーが象徴になってるからね。プトレマイオスの冒険者活動中じゃなくても、ハウトさんがリーダーをしてる活動中はそう認識された方が周りが認知しやすいって話らしい。
闇が明け始めて空が明るんでくると、静かで何の動きもない街並みが寂しいような寂れたような空気を醸し出している。
ボクがある程度フラ先生のマーカーを頼りに首都内を探していると、突然ハウトさんが抜けだしフラ先生に抱き着きにいってしまった。
いつもいい様にされちゃってるお兄さんと先生の関係だけど、今回はそのいつもとは違って避けることも抵抗することもできない先生が組み敷かれ、顔だけで抵抗する様に、ハウトさんの嬉しそうだった顔が真顔に変わっていった。
「お前、魔力の一滴も残ってないじゃないか。……はぁ。お嬢の想定もここまでくると狂気めいたものを感じるな……。ここからはちゃんと安全地まで戻って一旦全員、回復に専念だな。わかってるな? お前が責任を持っている命は、お前のものだけじゃないからな」
本来であれば自分の魔力が一滴も身体に残っていないとなれば、昔のボクみたいに昏倒しちゃったりするんだけど、先生の中にはフレイドラさんがいるからね。ボクの中にルージュ達がいることで魔力量の絶対値が跳ね上がったみたいに、フラ先生とフレイドラさんは主従契約はしていないとは言え、宿主としてフレイドラさんの魔力を借り受けることもできるわけで。フラ先生の魔力が一滴も残っていなかったとしてもどうにかはなるわけだ。……まぁそれって、昏倒はしないってだけの話で、戦えるかどうかで問われたら戦えるほどの状態じゃないって話になるんだけどね。
ハウトさんには、人の『本質』を見抜くスキルがある。
その本質っていう部分は割と多岐にわたっていて、簡単に言ってしまえば『他人のステータスを盗み見るスキル』だ。ただそれだけなら最初から他人のステータスを見るスキルって言えばいいところなんだけど、ボクたちが使っている魔水晶に登録されているステータス閲覧用の魔法で表示される自分のステータスとは違って、ハウトさんはその人が自分で認識できていないような内面や才能なんかも詳しく見れちゃったりするのだ。当然そこまで覗き見るのには相当心を許していないと無理らしいんだけど、ハウトさんが“見た”おかげで自分の能力を開花させた人も少なくないらしい。
「わかってる。これからどうやって引き返すかってのを皆で話し合ってたところなんだよ」
「ええ。ハウト様。フラをこんな状態にまでしてしまって、ごめんなさい。でも、ここの吸血鬼を昨夜殲滅できたばかりで……。ここから戻るにしても少し休憩も必要だったのです。そこに都合よく……ハウト様達が……あ~……」
「……都合がよかったわけでは、なさそうであるな」
「……みたいね。ここまであの子の掌の上だと思うと、ほんと、なんか嫌になっちゃうわ」
「まぁ、シルヴィアちゃんだけの力でも……ないってことなんだけどさ」
そう言いながら、久しぶりのイケメン紳士様と目が合った。相変わらずの爽やかイケメンで、可愛い嫁が隣にいることにあまりムッとしなくなった自分に気付く。うん。ここは可愛く笑っておいてあげよう。
ほら、ボクにも彼氏できたし? 余裕ってものができたんだよ。ボクってば元カレとだってずっと仲良くしていたい人だし? ……まぁアルトさんはそもそも元カレでもないどころか、ボクはリンクが初カレなんだから元カレなんて人は存在すらしないんですけどねっ!!!
「よかったです。先生も皆も、間に合って。シルからはもしかしたらかなり無茶してるかもしれないからって聞いてたから……」
「……あ~~~……可愛くねぇ~……こちとら、あいつの指示を超えてやるつもりで死ぬ気でここまで来たんだぞ。それすらあいつの頭の中かよ~。あんなのに教えさせられる魔法学園の講師なんて、ほんと気が知れねぇよなぁ」
「私もここに来るまでずっと思ってたけど、あんた学園の講師なんて向いてないわよ。さっさとやめてこっちの仕事に専念しなさいよ」
「うっせ」
ボクとしてはよく会うベガパーティのメンバー5人のほかに、会ったことのない人が5人の計10人がベガパーティとして一緒にいたわけだけど、そのプトレマイオスのクラン長であるハウトさんであれば、それは当然全員知っているみたいで、それぞれにクラン長としてハウトさんから指示が出された。
ベガである先生よりも上からの指示になるわけだし、何より救助に向かってきたクラン長から更新される指令ともなれば、断る理由だってないわけで全員が素直に従っていく。
消耗していた武器や防具、消耗した道具や医療品、食料なんかをボクが転移スキルで補填して渡す。前もってプトレマイオスのアジト兼商業施設に足を運んでいたおかげで、ベガの人達が欲しいものを正確に交換したりすることができ、準備するだけであれば僅か日が昇って数時間といったところで完了してしまった。
「お前、便利を通り越してなんかずるいよな」
ボクを育ててくれた先生にそう言われると、なんかやるせないものを感じるんですけど。




