sinfonia eroica
「並列構造 音楽魔法交響曲術式 英雄奇譚!!」
光の鍵盤が無数に私の周りに集まり、そこから光の管が空へ向かって流れて行く。
自分で作曲した音楽を魔法に乗せ、魂魄を刺激する。それが私の持っている私だけの特殊魔法。曲調や曲に込めた思いで魔法の質が変わり、味方へのBUFFから敵へのDEBUFF、直接的な音の塊による攻撃もできれば振動を利用した地形を含む範囲魔法と、その質の幅は多岐にわたる。
ただデメリットもあって、音楽を鳴らすという事は得てして隠密性が失われるということと同義であるわけで、私が広域にBUFFを配ろうとすればするほど、多くの敵が集まってきて、それも音の中心である私は集中的な攻撃を受けてしまうわけなの。
もちろん特殊魔法が使えるからって基礎である元素魔法や次元魔法、神聖魔法が使えないなんてことは無いから、並列で魔法を使って自分で対処することだってできるし、むしろ基礎魔法は得意な方なのよ。私程綺麗に魔力を扱える人なんて、正直見たことが無いって自負してるくらいだもの。まぁ、次元魔法を単一で使ったり、突飛な元素魔法を自分で編み出すような、あの真っ白な子みたいなことは私にはできそうにも無いけれど。
とは言え、私にヘイトが集まると最初からわかっているのであれば、対処のしようもあるわけなのよね。複数人への持続的で途切れることがなく、範囲や効果が判り易いBUFF魔法って言うのは実際珍しくて、かなり重宝されるから大規模な戦闘であればあるほど私に付いてくれる護衛や戦力は多くなる。相手の戦力も私の周りに集まるにあたり、ここが主戦場になるんだから護衛兼主戦力が集まるって感じなんだけど。
ただベガパーティで言えば、この大男一人いれば割と護衛に関してはなんとでもなっちゃうのよね……。
「ぬぅん!!」
キンキンッ!
高い音が何度も鳴り響いた。
私を襲いに来たであろう青白い爪が、吸い込まれるようにホーラントの方へ向かい弾き飛ばされる。殺傷能力の明らかに高そうな鋭い爪が、単なる肉体に弾き返される音が金属音なのがなんとも気持ち悪いんだけど。
ぐしゅっ
「よっと」
腕ごと弾き返されて硬直している白い吸血鬼達の胸から一斉に剣が生え、消えると同時に赤い血が勢いよく噴き出した。いつものごとく中心にいるホーラントが真っ赤な血を浴びながら嗤っている。その向こう側からアルトの顔が覗いた。
「これでやっと今日8体かぁ。フラの方に連携の強い個体が集まってるみたいでさ、ちょっと今は近寄れないから、精霊武装が解除されたら一気に決めたいんだけど……」
「うむ。吸血鬼は戦地に集まっているが故、こちらへの援軍はそこまでこないであるな」
「それを見越してここまで来てるんだから、そうでもなければ困るのよ」
演奏は体が覚えてるから、意識が会話に向いても止まることはない。
「ふら……」
ウルの心配そうな声が聞こえる。
夜ともなれば吸血鬼の街は、光源を嫌うのかどこも真っ暗闇となってしまい、精霊武装を顕現させているフラは光源と化す為、遠くからでもどこにいるのか一目瞭然。更に言えばどんな状況なのかも見ていてすぐにわかってしまうほど。
いくら精霊の力を借りていて、私のBUFFが届いているとしても……。
ここまで3か月間を戦い抜いてきた疲労と怪我の蓄積、そして思い通りに進まない精神的な焦りも合わされば、相当なストレスが溜まりにたまっているのは見て明らかで、味方を寄せ付けないその戦い方がすべてを物語っているようだった。
こんな時にフレディ様やハウト様がいてくれたら……そう考えてしまうのは、チームメイトとして失格だろうか。
「ん。第2隊の方も殲滅が終わったみたい。後はフラが相手をしている吸血鬼パーティをどうにかできれば、ノミノアは制圧できそうね。……よかった。少しは依頼書を超えられているかしら」
私の魔法は音を発生させるだけじゃなくて音を操ることができる。条件さえ整えば離れているパーティメンバーからのメッセージを受け取ることもできるってわけ。
「しかし……戦況はよくないであるな」
「フラは何を考えているんだい? 明らかに僕達を遠ざけるような戦い方をしているけど、あれじゃ吸血鬼を守っているようじゃないか?」
そう言われてみれば確かにアルトの言う通りで、この街にはベガとしてよく組むパーティあるフラを始めとした、私、リードリヒ夫妻、ホーラントの5人パーティと、第2パーティとしてもう5人の計10人が戦闘要員として戦っている。
さらに、今フラが戦っている青白い吸血鬼は5人で、フラがあきらかな範囲攻撃を止めて連携している相手を孤立させていきさえすれば、待機している9人がそれぞれを殲滅できるはずなのよ。だってこれまで3ヶ月の間に倒してきた吸血鬼の数は軽く3桁を数えるんだもの。残り5体であれば、個体としては確かに今までとは比べ物にならないくらい強そうとは言え、どうにかなるレベルなのに。
「誰か何か……作戦とかは聞いてないの?」
私の質問に沈黙による答えが返ってくる。
ヴィシュトンテイルの家訓なのか知らないけど、このクランのリーダー共は自分たちの頭の中で完結して、メンバーに大事なことを伝え忘れる傾向にあるのよね。最近最愛の旦那様は注意をしてたらかなり改善されては来ているものの、あの男と女が入れ替わっても判らない様に似ている一番上の兄と妹は、何度言っても聞きやしない。
「まずいね……」
アルトが向こう側の空でぶつかる赤い光源を見つめながら呟いた。
百体以上もいた吸血鬼のうち、最後に残っている5体。
その百体の中で一番強いであろうその5体を何故か全て受け持ち、耐えているあの赤い光源は、このままいけばあと数分もしないうちに崩れるだろう。
「メル!!!」
その時だった。
光源から大声が飛んでくる。
「敵にリフレインだ!」
……え?
リフレインはだって、BUFFなのよ……?




