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Schicksals - Sinfonie

剣戟と鳴り響く爆音。

暗闇の街が、所々で赤く光り風が舞う。


星の光もない暗闇に浮かぶ人影は、むしろ何も見えない暗闇より明るく見えさえするかもしれない。鎧を着た赤髪の剣士が白い影を追い、その後ろには5体の白い影が赤髪の剣士をさらに追い、多数の白い影と一つの剣士が幾度となく交差し、火花を散らしては離れてまた交差する。


そんな街中を不気味なほどに綺麗な音楽が鳴り響いている光景は、端から見たらどんな幽霊都市に見えるだろうか。まぁ、冒険者ギルドに所属している冒険者であれば、今ここでどこの国のどこのクランが戦っているのかが一()瞭然ともとれるわけなんだけど。


「チッ。こいつら奥に行くにつれてどんどん統率が取れ始めて……おいっ! 曲が途切れ始めてんぞっ! ホーラント、メルの支援に……ってもう行ってんのかよっ!! こんなところでやりたくもねぇけどしゃーねぇっっ!! フレイドラっ!」

『こんなところで私を顕現させた(使った)ら、光源に蟲共が一気に寄るわよ!?』


「んなこたわかってんだよ! 精霊武装っ!!」


全身から噴き出すように炎が沸き上がり、辺り一面を照らすと、それまで白く見えていた影が炎に照らされオレンジ色に輝きながら一斉に集まってくる。もう既に交差とは言えない無数の青い連撃が炎を切り裂くかのように何本も奔った。


「っ!」


さっきまでとは打って変わって反撃の余裕すら与えられない。無数の白い影が一つだけ光り輝く赤い戦士に向けて群がっていた。それでもダメージの量が割合と比例して増えないのは、集団対個人の場合、個人と一瞬を交えられる数には限りがあるからではあるものの、数が増えればその一瞬は途切れることを知らず、いつかは個人に限界が来てしまうことなど火を見るよりも明らか。……と言うかこの場合その()が限界を迎えるんだけど。


ブツ……ブツ……と幾度となく鳴り止みながら続いていた演奏が


「金剛不壊!!」


の男の大声を合図にまた大音量を掻き鳴らし、暗闇の街を席巻する。それを機に火の子ではない赤い滴をまき散らしながら白い影を捌く光源に、援助の影がいくつも現れ白い影を切り落として行った。


「フレイドラ、戻るぞ」

『無茶しすぎよっ! このままじゃ目的を見つけるまでに壊れちゃうわよ!?』


一つしかなかった光源が失われ、また暗闇の都市の各地に音楽と剣戟、爆撃の音が鳴り響いた。




「フラっ! 大丈夫!?」


街を通過するたびに、それぞれの身体に傷跡が増えていく。フラだけじゃないとは言え、一番無理してるのは目に見えて彼女。神聖系治癒魔法を使えば傷は癒えるはずなんだけど、あまりに応急処置ばかりが続ければ身体にも限界ってものがあるのよ。最高級のヒーラー兼バッファーがいるとは言え、このまま突き進めば誰かが欠けてもおかしくはない状況。


「……はぁっ……奴ら、どんどん知能が上がってってんな……つーより……いや、このままじゃ目的を果たせない。作戦を見直すか」

「ええ。賛成よ。やっぱりシルヴィアちゃんの指示書通りに戻りましょう?」

「それが良いであるな。これ以上戦果を求めても、戻れなければ意味はないのである」


「はぁ………はぁ………」

「ふら、これ、食べられる?」


呼吸をすることすら辛そうな顔で、渡された肉の塊を無言で口にすると、噛みづらそうに何度も咀嚼しながら飲み込んでゆく。するとみるみるうちに傷跡から流れる様に出ていた血が止まり、開いていた傷口が視覚的にわかる速度で塞がっていった。外に残された血が行き場をなくし、流れて落ちる。


この街に入ってすぐに戦闘が始まってしまったものの、鎮圧までに慎重を期して3日と言う長い時間を要した結果、クランメンバーの誰一人をも欠ける事無く鎮圧することはできた。

でも、街を一つ経るごとに思い通りの結果が出せずに、ついにはフリージアの首都であるノミノアに着いたところでこの先の計画を見直す事を余儀なくされてしまったのだ。

プトレマイオスとして動いている私達に対して、国軍の指揮権を持つシルヴィアちゃんから指令を受けることは無いけど、最愛の旦那様(フレディ様)経由で渡された目的依頼書には、カルセオラリアへの侵入までの指示の記載がなかった。シルヴィアちゃんの依頼書に記載が無いという事は、目的がカルセオラリアには無いか、もしくは私たちの実力ではカルセオラリアまでへの侵入は難しいということになる。

……依頼書を見る限りではカルセオラリアまで侵入することはできないと読んだ内容ではあるんだろうけど、プトレマイオスのベガパーティとして、これからアルタイルとデネブが戦争の真っ只中に向かうのであれば、何も結果を持ち帰られないこと程辛い事はないのよね。私にも気持ちはわかるけど、それでも文字だけで先を見通すこの依頼書に頭じゃ理解してても、心が納得いかないのはどうしようもない。


「……サンキュ。吐き気が引いてきたわ」

「ちょっと血を流しすぎてるよ。あるとくんが応急で造血魔法をかけたけど、スープ作ってるから。それ飲んでもう少し安静にしてて。絶対だよ? 守れなかったらほーらんとくんの抱擁の刑だから」

「……ぬぅ……」




冒険者クランとして動いている限り、国からの依頼書はあくまで参考程度。強制的な効力は発揮しないし、そもそも内容を守らなきゃいけないことも無い。とは言え、あの天才軍師ちゃんが異常なほどの情報量を得て予測されているこの依頼書が、どういう意図をもって、どれほどの精度のものなのか、予想することは難しくはなかったわけなんだけど……とは言え、実際限界が見えたところでこの現実を突きつけられると、ちょっと信じられない未来予想図だったわけなのよ。


依頼書以上の成果を求めた結果、急いでフリージアの首都まで来て結局撤退を余儀なくさせられてしまったのだ。指示書通りにもう少し慎重に進めば、フリージア全土を探索することはできそうではあったものの、それにかかってしまう時間は半年もの月日を消費してしまう。

やっとの思いで3か月間を敵地で過ごしてここまできたわけだけど、これから戻ってしまえば、結局半年でフリージアを調査し目的を終えることは難しくなってしまうだろうことは……私なんかよりもフラが一番よく理解しているかしら。


「悪ぃんだが、お前らもう少しだけここで粘れるか?」

「え!? こんなところにいたら、いつかどこかで決壊するよ!?」


ウルの眉が八の字を描く。一番最初に壊れるのは、明らかに提案者であるフラであることは、この場の誰もが理解をしているから。


「……何か、掴めたの?」


そんな素振りなんて無くても、ベガである今、フラが意地だけで無謀なことを言い出すはずもない。希望だけが口をついた。


「わりぃ。確証はねぇんだけどな。ここを護ってるあの吸血鬼どもにちょっと用ができたんだ」

「吸血鬼に……?」


一旦排除はしているものの、当然全滅させられるほどの人員を動員できるほど、こんな敵地のど真ん中に潜入している人数は多くはない。1対1であればまだしも、連携を取り始めて一人を落とすのにも相当厄介になってきた相手は、まだこの都市に相当数残っているし、これから時間を掛ければどんどん近隣の都市から集まってきてしまうだろう。


その吸血鬼をずっと何日も相手取っていたフラが、まだ用事があるというのなら……。

私達は付き合うしかないのよね。


全く。あの人との可愛い子供を育てることがこんなに遠く感じるなんて……。誰が想像できたかしら。



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