ボクはイオネちゃんを貶めます!
色々あったけど一夜が明け、今日は待ちに待ったイオネちゃん道連れの日だ!
シルと二人でファッションを着飾り、イオネちゃんは1人制服という状況をわざと作って、イオネちゃんの購買意欲を高めてあげる。
ちなみに今日のコーディネートは、
シルは空色のシャツに、後ろにリボンのついた白いロングカーディガン。その上に申し訳程度につけた胸部だけ鉄製の軽装備をつけている。そのため、ロングカーディガンが前の空いたフィッシュテールスカートのようにひらひらしている。もちろんちゃんと下にはショートパンツを履いているよ?
ボクのほうは、昨日は少し薄着すぎたのかと反省して、絹のような肌触りの白いベルトワンピースに短めの空色カーディガン。着ている枚数も厚さも昨日と変わらないけど、透けてないからいいよね?
昨日、暴漢のおっさんたちに買ってもらった装備の1つである、丈夫で可愛いポーチを腕にぶら下げている。腰のベルトに括り付けられるように合わせてもらってあるんだけど、別に今日は手も空いているし腰に括る必要もない。
ポニーテールの結び目に白いリボンもつけてきた。
「ふ、二人とも私服なんてずるいです……」
寮の前で待ち合わせていると、イオネちゃんが恨めしそうにしながら合流した。
これからものすごいお金を使わされるのがわかってしまっているだけに、素直に喜べないのだろう。
「ちょっと先にいいかしら?」
シルにそう言われ、王都に降りたボクたちは街中をシルに続いて歩いた。
最初は前にドレスを買ったアルカンシエルという大きなお店に行くのだと聞いていたけど、方向が違う。
……
あれ? ここは……
すたすたと歩いていくシルを目で追いながら、足が止まってしまった。
冒険者ギルドに着いたのだ。
すると、シルが振り返り足が止まってしまったボクの左手を強引につかんで引っ張る。
両開きの押し戸がぐぐっと音を立てた。
昨日のテーブルについつい目が行ってしまう。
どうやらあのおっさんたちはいないようだ。
胸を撫で下ろす。
「レティ、昨日ギルドに来たのに登録もせずに帰ってきたのでしょう? 登録くらいしていきましょう」
そう言いながら一直線にカウンターに引っ張られた。
自分から足が前にでてくれないのだ。
「ついでにイオネも登録しちゃったら? それとも、もうしてある?」
「いえ、私も登録はしたことないんです。依頼は出したことが何度かあるんですが……」
「そう、それならついでにしちゃいましょう。今度3人でクエストでも受けてみるのもいいわ」
そう言われてシルを見ると、目があった。
ギルド前に着いてから、多分ボクはずっと下を向いていたのだろう。
思わず笑みがこぼれた。
重りでも引きずっていたように動かなかった足が、ふっと軽くなった。
「うん!」
思わず出た声が、ギルド内に響く。
うわっ恥ずかしい。
イオネちゃんと冒険者ギルドの登録を申請し、冒険者登録証を発行してもらった。
ポイントカードのようなもので、特にこれといった機能もないそうだ。
冒険者は3段階に分類付けされており、単純に登録冒険者・一般冒険者・上級冒険者の3つ。
「S級とかA級とかそういうランクじゃないんだね……」
そんなことを口走ったら、
「何それ?」
なんてシルから率直に聞かれたので、前世知識のような冒険者ランクを説明してみた。
「はぁ? そんな細かい階級、誰がどうやって管理するのよ? テレパスやコミュニケイト系魔法を扱える魔法士が国や、ひいては世界中に何人も常駐させられないと無理じゃない。そんな貴重な人材ならもっと国のために仕事がたくさんあるわ」
本気で何を言ってるの? というニュアンスで言われた……。
た、確かに言われてみれば、前世ほど通信が発達してる世界でさえ、殆どの資格はそこまで大したランク付けなんてなかった。職業の資格で言えば、それぞれが一般資格・上級資格くらいなもので、後は複雑な特別資格が横に広がるだけ。
「各街のギルドごとに管理できないの?」
「できるけれど、それならもう町の兵役所があるじゃない。冒険者ギルドである必要はないわ。冒険者ギルドが必要なのは、世界共通で指標化できるランク付けだもの。それぞれの領や町の場所によって変わる仕事内容でランクが上げ易かったりしてしまったら、辺境の村なんて誰も来てくれないわよ?」
……確かに。この国だけでさえこんなに広いのに、通信技術は科学が発展していた前世の世界に比べたら相当低い。魔法があるため一定の通信手段はあるが、一般家庭にインターネットや電話なんていう便利なものはないのだ。
そんな世界で、それぞれのギルドが勝手にとは言わずとも、支部ごとの采配で冒険者ランクを管理なんかしていたら、難易度の低い場所でランクを上げた冒険者と、難易度の高い場所でランクが上がっていない冒険者。後者のほうが本当は遥かに能力が高いだろう。
「え、じゃあ冒険者ランクってどうやってあげるの?」
「ギルドで売ってる世界共通ガイドブックに試験資格と受験場所が載ってるわよ」
「あ、私去年ガイドブック買ってるので、寮に帰ればありますよ」
「え!? イオネちゃんも冒険者ギルドに来たことあるの?」
「あ、私は冒険者登録はしていませんでしたけど、実家にいた頃、近くのギルドに依頼は出したことが何度かありますので、ガイドブックが必要なんです。依頼難易度はガイドブックに準拠しなくてはいけないので」
「ちなみにグルーネだと昇格試験は基本年1回。国の中でも大都市の3箇所で一斉に行われるわ。王都だけは年に2回あるから、レティとイオネは昇格したければチャンスは多いわね」
「へ~、一般冒険者の試験資格って何?」
「ん~、一般の試験資格ってなんだったかしら? 受験する日から過去1年間の依頼成功率が9割以上、それと依頼達成数のうち、難易度E以上の依頼を50回以上、F以上を25回以上で、筆記3種を80点以上と試験費用銀貨1枚だったかしら? 確かそのくらいよ」
「難易度?」
「さっきイオネも言っていたけど、依頼を出す方はガイドブックに準拠した依頼難易度を設定して、それに見合った報酬を出さないといけないのよ。薬草の採取なら薬草のレア度にもよるけど、A~Cぐらい? 大体難易度Eっていうと結構危険なレッドウルフの群れの調査だとか、オルトベアーっていう4,5メートル級の熊型魔獣の討伐とか。それを1年で50回以上こなしてやっと受験資格の1つね」
「オルトベアーって村にいた時に1度討伐隊を見たことあるけど、兵隊さんが30人くらいいたよ!?」
「そうよ? 普通の兵役所の兵隊ならそのくらいの人数出すわよ。死人を出したくないもの」
「それを1パーティで討伐しなくちゃいけないの!? しかも年間50回も!?」
「それくらい冒険者制度って厳しいのよ。レティがさっき話してたようないい加減な制度じゃ、本当に困った時に任せられる人がわからないもの」
それは確かに大変だ。
最初の登録冒険者は、さっき貰ったように単純に冒険者として登録しましたよ。という証明だけで、冒険者証は紙切れで身分証としても扱われない。一般冒険者からは魔水晶が内包されて身分証になるらしいけど、確かにそんな試験を潜り抜けてくるのなら、相当な人数が弾かれるのだろう。
「ちなみに、上級試験なんてもっと大変よ? でも、上級にはそれぞれ功績によって冒険者証に稀少魔宝石が埋め込まれるの。この魔宝石っていくらお金があっても買えないくらい稀少なんだから! 私も欲しいのよ!」
珍しくシルの目が輝いている。
次期公爵候補筆頭のシルが買えないものなんてあるんだ……。
ボクが想像していたより冒険者ランクは簡素だったけど、逆に本当に世界は、その世界で回っているんだなと強く実感したりもした。
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