姫騎士隊にも隊員のカラーがあるんだよ
報告書に記録。
被害状況の把握と物資の確認。
人員の配備と戦況の確認。
物資・人員の輸送手段に索敵。
戦略予想図に予想戦力……
なんて、それはもう事細かに記載された書類が積み上げられていて、それを確認しながら今の状況と示し合わせて修正していく。1つ終われば新しく3つ重なり、終わる気配はなく。かと言って疎かに出来るはずもない。その一つ一つの数字から違和感を探り当て情報を導き出し、新しい情報を数字からまるで創り出すかのように推測し、まるで現地で起きている事を見ているかのような予測の元、新しい指示を出していく。
無駄足ならそれでよい。
何も無かったという結果が得られるのだから。
そこに予想通りの結果が訪れたのなら、良いことなら利用し、悪い事には問題が大きくなる前に即時対応していく。もはや予想や予測を超えた予知の範疇を書類と指示のみで進めていく……とか言うちょっと人類かどうかすら怪しんでもおかしくない仕事が目の前で為されていた。
「うげぇ……ナニコレ意味わかんない……」
「来たわね」
いつものごとく、真後ろにこっそり転移んで働きぶりを観察しながら、難しい書類を覗き込む。あまりの理不尽さに思わず感想が口をついたところで、驚きもしないシルがさも当然かのように答えた。まぁもうこの振り返りもされない感には慣れたけれども。
「うん。久しぶりだね、シル」
「ええ。もう3ヶ月も……って貴女、少し太ったんじゃない?」
「はぁ!? 久しぶりに会って突然何を言うの!? ガタイがちょっと良くなっただけだからね!? 全く! 太ってなんかいないんだよ!? どちらかと言うとボクはスレンダーな方だと思うなっ!」
「ええ。冗談よ。それにしても本当に……この3か月間によく装備の上からわかるほど身体を作ったわね。ハウトの提案では近接戦闘能力は二の次ってお話ではなかったの?」
「ああ、うん……それね……確かにそんなことも言ってたね……」
「うん? ところで、そのハウト達は? 一緒じゃないの?」
ロト国 南東部
辺境の街シュバーラ
戦場地よりロト国土の中央側に数十KM移動した場所に位置する都市。
シルは今この街にいた。
今のところグルーネ国としてはフリージア・カルセオラリアとは表立って戦争をしている立ち位置には無いんだけど、ロト国との戦時協定の元、ロトへの支援を行っている。こっちが負けたら今度はお前らが困るんだから協力しろよ? ってロトやグルーネからしてみれば当然の話で、そこに拒否する理由も無ければグルーネが協力しない理由もないからね。
もちろんこの事についてフリージア・カルセオラリア側が知らないなんてことは絶対ないだろうし、協力しているなら当然フリージア・カルセオラリア側からしてみれば敵視して当然ではあるものの、まずはロトに勝たない事にはグルーネと戦争を始めるような状況にはならないし、そもそもこのロトとの戦争で勝利さえ納めてしまえばグルーネを潰すなんてその後に考えればよい事でもあるし、フリージア・カルセオラリアはロトに勝てたら当然の様にグルーネに攻めてくるのは目に見えてるんだよね。だって単純な軍事力だけで言えば一つの国として一番大きいのがロトで、次に文明や魔法開発による発展で危険なのがグルーネ。ロトを落としたのであれば、後はグルーネをどうにかしてしまえば、力で人間の世界を牛耳るには足りるんだから。
そうともなればグルーネ国側としてロトが戦争に負けるなんて事態になられることが一番困るわけで、シルがロト国内に遠征隊を引き連れ出張って支援に回っているのも、なんとしてもロトにこの戦争を押し返して貰わなきゃいけないわけだからだ。
ロト国側としても、フリージア・カルセオラリアが戦争ルールを完全に無視して独立した部隊をロト国内に送り、戦闘地域とはなっていないはずの町々を襲って回っている事に後手後手となっていたところ、情報力・戦闘力・指揮力が段違いに統率のとれた遊軍が防衛に回ってくれることで大型の戦場が有利になりつつもある。
ただ、もちろんボク達がある程度急いできたと言う事実は、ロトによくない事が起こっているってことなんだけど。
「多分そろそろ街中に入ってきてると思うよ。ボクだけ街の外から一旦転移眼で中の様子を探って、そのまま何ともなさそうだったから転移んで来ちゃっただけだから」
「それならすぐに場所を移すから、そっちにハウト達を案内してくれる? 集まり次第すぐにでも会議を開くわ」
「あ、うん……そんなに急を要するほど悪いの?」
「……悪いでしょうね。一手遅れたら真っ逆さまよ。姫騎士隊の皆が各地で頑張ってくれているけれど……ここからはスピードと桁外れの戦力が必要なの。だから貴女達なのよ」
「わ、わかったよ。じゃあハウトさん達を誘導してくるね」
「ええ、お願い」
そう言い残し、書類をその場に残してシルが席を立つ。
すると部屋の外に控えていた姫騎士隊がすぐに入ってきて、書類を片付け始めた。
「フィリシア。作戦室までお願いね」
そう言い残してさっさとシルが部屋を出て行ってしまった。
「ええ。承知しま……え? レティーシアちゃんじゃない。久しぶり。もうこっちに着いたのね」
「あっ。フィリシアさん。モンスターパレードの時以来ですね。お久しぶりです」
「……聞いていたとはいえ、国外の。それもこんな状況で姫様と同じ歳の子を軍に迎え入れるなんて、少し複雑ね」
「なんか結局、自分から好きで顔突っ込んでるようなものなので……。気にしないでいただけると嬉しいです」
「そこを気にするのが大人の仕事なのよねぇ。って今更私が言ったところでしょうがないんですけど。……それで、フォーマルハウト様も来ていらっしゃるのよね?」
「ええ、もう街中にはいると思いますよ」
「じゃあ、これと……これ、それにこの書類を先に彼に渡して、目を通しながら作戦室まで来てもらってもいいかな?」
「承知しました」
「貴女も姫様も……後方にいるうちに戦争は……終わらせないと、ね……」




