こんなはずじゃ、なかったのに……
「……それでも、私は反対です」
「ママ……」
重い空気の中、口火を切ったのはママだった。
……説得には、足りなかった。
当然、親の同意が得られなければ、未成年であるボクが戦場に出ることなど認められるわけがない。どんなに国の偉い人が認めてくれようと、親がダメと言えばダメなのだ。
「皆を護りたいだなんて……。あ、貴女はまだ子供なの…………あっ……貴女じゃなくたって、いいじゃない! シルヴィア様はすごい方なんでしょう? どうにかしてくれるわよ! 貴女じゃなくったって、すごい人はいっぱいいるんでしょう? どっ……どうして? わっ……私たちはっ……貴女にこんなことをさせる為に笑顔で学園へ見送ったわけじゃないっ!!!」
ママから大粒の涙が零れて、机を濡らした。
パパがママの背中をさする光景が滲んで、目の前の両親の顔もわからない……。
親が子供の前で泣く姿なんて、どれだけのものだろうか。
言わなきゃいけないことはいっぱいあったはずなのに、涙と鼻水だけが溢れてきて、言葉なんか一つも出て来てくれない。
「俺は……」
泣きじゃくるママを落ち着かせて、パパがボクに向き直る。
ママの嗚咽と呼吸が家の中に響いて、ボクも鼻をすするのに精いっぱいで。
何がしたかったのか、自分でもわからなくなってきちゃったよ……。
「俺は、お前が武闘会とやらで華々しく舞っている姿を見ていない。リルが帰ってきて、様子は聞いたよ。リルは怖がっていたけど、俺はちょっと誇らしくもあった。男親と女親の違いかもしれないけどな。……この村から魔法学園の学園祭に行ったのは、リルだけじゃない。それに最近領主様がこの村の税金を見直してくれてな。色んな人が村に来ているよ。……その中に、ここがお前の実家だと知って挨拶に来た家族もいたくらいだ。……この村は、どんなに安心か。ってな」
そう……なんだ。
魔法学園の学園祭は国内でもビックイベントだし、見ている人は少なくない。それにボクは全種解禁ルールで優勝してるから、ちょっと気になって調べた人も少なくないんだと思う。ちょっと調べればすぐわかるんだよね。異例の平民推薦入学者だなんて、目立つだろうし。
「……うん」
パパともいっぱいしゃべりたい事はあるのに、ボクも整わない呼吸が言葉を口から出す事を許してくれなかった。せり上がってくる嗚咽で息をすることが精一杯。
頭もぐちゃぐちゃで、何も考えが纏まらない。これって決めて、すぐに周りの人達を説得してまわったシルは、どんな魔法を使ったのかな……。
「それを言われるたび、今度は俺もな。……後悔したんだよ。俺たちは学校なんてところ通ってないんだ。どんなところかなんて知らなかったから、もしかしたらお前が……こんなに大変な思いまでするくらい、酷いところなんじゃないかって! そんなところに娘を、娘達を送り込んじまったのかって!」
顔を上げると、多分ボクの視界が滲んでるせいじゃなくて。
パパの顔もぐちゃぐちゃだった。
「……ち、ちがっ」
落ち着かないと。
落ち着かないと!
落ち着かないと!!
違うんだよパパ! そんなことは全然なくて、むしろみんなすっごいいい人だった。だから護りたいのに、それが伝えられない。
「…………でも、お前はお姉ちゃんだから。生まれてから全っ然手間もかけさせてくれなくてさ。俺達には過ぎる子だから。お前が俺たちの両手の間に、ずっと収まってるような。そんな子じゃないことくらい、わかってたさ。……なぁリル」
まだ呼吸の落ち着かないママが、パパの胸に顔を預ける。
なんかもう、水分の出るところ全部から水が出て止まらない気がするよ……。
「お前を、待ってくれてる人が……いるんだろ?」
「っ! ………………う、うんっ」
「ちゃんと、帰ってくるんだろ?」
「…………うんっうんっ」
「なら、やれるだけやってみなさい。俺とリルは、お前の帰ってくる場所を護っているから」
「っ……っあ゛り゛か゛と゛う゛ハ゛ハ゛ァ゛…………」
「………………本当はっ!!! 俺も嫌だぞ。娘を戦場に送りたい親がどこにいるってんだ! ……はぁっ……はっ……もうちょっとはお前もっ……俺達に手を……掛けさせてくれよ……」
「……ご、ごめんな゛さ゛ぁぁぁい゛」
正直……自分でも信じられないくらい泣いた。
3人で泣きはらして一晩は実家で寝て。
翌朝、目を腫らした3人は、朝の挨拶以外に声をかけることをしなかった。
パパもママも。心の大部分では納得なんてしてくれていないだろう。
前世では迷惑しかかけられないような親不孝者で、今世でもこんなに困らせている。ボクはこの世界に女の子として生まれてきて、28年間男として生きてたところで、当然今は自分を女の子だって思ってる。
でも、実際ボクの考え方って、前世の28年の意識を参考にしてたんだなって。昨日パパの話を聞いて少し考えたりもした。
女の子としての幸せ……
かぁ。
ママに言われたことを思い出す。
今まで逃げ続けてきて、追いかけ続けてくれた人の顔が浮かんだ。
この戦争が終わったら、ちょっと進展しても……いいかなぁ?
なぁんて。




