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先生に教えてもらった事がボクのすべてだよ。

「はぁ? ……んなこと、ラインハート公爵様が認めるわけねぇだろ……」


リンクが何を慌てて研究室を出てきたのか。

それを理解させてくれるだけの反応がフラ先生から返ってきた。


「そりゃ叔父様だって認めるわけはねぇって俺も思ったけど……シルヴィアが今朝やってた会議って、公爵会議ってわけじゃないんだろ? そうだよな。ハウト兄」


「……あぁ。そうだ。お嬢は今、ご両親を説得しに向かっているよ」


今までとは全く違った怒りでバンッ! っと焼け焦げた机を先生が叩くと、燃えて脆くなっていたのか机が簡単に崩れ落ちた。


「はあ? なぜだ? なぜシルヴィア(あいつ)が戦争なんかに出る必要がある? 確かに今回は大ごとになっちまうのかもしれねぇが、現状はまだロトとカルセオラリア側の戦争だろ? そりゃあいつの頭がありゃ便利は便利だろうが……人との戦争に出すには、あいつの要るポジションはあまりに……酷過ぎるだろう……」


苦虫を噛みつぶしたような顔で、絞り出すように声を出す先生がボクの目から離れない。


ああ。そっか。ボクは何も理解していなかったのか。

フリージアやカルセオラリアに潜入して見てきた光景を知っていたのにも関わらず、それをシルに報告するっていう行為がどういう事なのかを。……何も。わかっていなかった。




いくらどんなに天才であったとしても、ボクと同じ歳の女の子。

しかもボクみたいな前世の記憶があって、実は精神的な経験年数がたくさんあるってわけでも無い。

そりゃ前世含めたところでボクなんかシルと比べれば精神的な大人度合いで言ったら負けちゃってるのは自覚してるけど、精神的なものってそういう話でも無いじゃない? やっぱり生きた時間に比例した経験の積み重ねっていうのは大きいと思う。

そこにシルが必要とされる場所を思い浮かべれば、必然的に答えが出てきてしまう。そこにかかる重圧が。覚悟が。責任が……どんなに大きいものなのか。


「ハウト……なぜお前が止めなかったんだ? お前に止める気があれば止められただろ」


さっきまでの兄弟喧嘩とは打って変わって、本気で怒っているのがわかる先生の腕が、初めてハウトさんを捉える。


「そりゃ俺だって最初はそうしたよ。でもできなかったんだよ。お嬢側から俺に話が来る時点で、誰からも止められることなんかわかってるあいつが、何の準備もしてこないわけないだろ? 情報戦と弁論じゃ議論にすらならんかったんだよ。そこにこいつだ」


そう言いながらいつの間にか先生の手から逃れ、隣まで来ていたハウトさんに肩を抱き寄せられる。


「こんな潜在能力の塊みたいな切り札持ってこられて、お嬢に姫騎士以外にも力があることを証明されちまった。ティオナもヴィンフリーデもお嬢の気持ちを汲んで納得しちまってんのに、いつも傍にいるわけでもねぇ俺が引き止められるかよ……」

「この子、そんなにすごいのかい?」


ハウトさんに肩を抱きかかえられたまま、反対側からフレディさんが近づいてくる。まるでさっきまでの先生のポジションにいるみたいで、なんとも落ち着かない……。


「俺を納得させるのに足りる程には、な」

「へぇ……こんな綺麗で美しい子に戦いなんて、似合わないけどなぁ……」


さらさらと髪の毛を掬い上げられ、優しく梳かれる。

慣れてる手つきだし、男の人にこんな近くからまじまじと見つめられることなんて無いから、ちょっとドキドキするんですけど。……ね、ねぇリンク。そこは睨んでるんじゃなくて、助けてくれてもいいんだよ……?


「じゃあやっぱりシルヴィアを止めることは……できないんだな」


少し悲しい表情になったリンクが、ぽつりと呟いた。


リンクはシルが心配で、あんなに真剣な表情で研究室を飛び出してここまで来たって言うのに、ボクは何をしてるんだろ。

シルの気持ちを理解することもできないまま、知らない間にハウトさんの説得にまで使われちゃって。


でも、だから悲しいかって言われると……別にそういうわけではないんだよ。

だって、必要としてくれたってことだもん。シルが自分でやらなきゃいけないと思った時に必要ともされない事の方が悲しいわけで。そこを間違えるわけにはいかないもの。




でも、そもそもの話。

シルがわざわざ戦争に参加したがってる理由はなんだろう?

色んな情報が集まってきている中、一番グルーネの危機を知っているから? それならそれを皆に伝えればいい。って言うか、むしろハウトさんがシルに協力しているところを見ると、もう皆に伝えているんだと思う。伝えるべき人にいかに今の現状が危ないかを伝え、どう対処すればいいのか。そういうのを大人である軍の中枢部の人達に伝える。それがどんなに信じられないような情報であっても、ちゃんと信用されるくらいには、シルの信頼は厚いはずなのだから。


そしてハウトさんがシルに協力しているって事実がもう、それを為した証明だと言ってもいいと思うんだよね。だってこの人、冒険者からも国軍からも一番英雄視されてるような人なんでしょ?

この人の存在以上に周りを説得できる人なんていないんだろうし。


じゃあシルがそれを為して尚、自分が戦場に出ることに拘るのはなんでだろう。責任感が人一倍強い子なのはもちろん知ってるけど、それ以上に賢い子だから。周りに心配かけたりだとか、気持ちを汲んだりだとか。そういう事にはいつも人一倍気を使っているのに。


……考えても答えは出ない。

そりゃ本人に聞かなきゃわかんないもんね。


でも、シルがどうして欲しいかってことが判るくらいには……

一緒に過ごしてきたつもりなんだよ。



「ハウトさん。ボクは何をしたらいい? リンクはこれからどうするの?」

「……は? 俺は多分王城で親父の業務を引き継がされるんだろうが……まさか、お前……っ!」

「おいレティーシア。お前もいつかはこういうことを経験するのかもしれねぇけど、今の話聞いてただろ? お前が戦争に出て良いわけがねぇだろうがよ。前にも言っただろうが。戦争は軍の仕事でお前ら学生の領分じゃねぇよ」


ボクの言葉を理解したリンクと先生が、少し怒った顔で止めに入ってきた。

当然今の話聞いてたもん。こうなることくらいわかってるよ。


「でもボクはシルの切り札なんでしょ? ハウトさんの予定ではボクがシルの護衛に就くことが大前提でシルが戦争に参加するんでしょ? そうしないとシルが危ないのに、ボクだけ学園に残って何をしてろって言うの?」

「なっ……それは……ハウト、お前がっ」


ボクも先生を困らせたいわけじゃないんだけど。

ごめんね、先生。


「だからボクはハウトさんに預けられたってことなんだよね? シルが壊れない様に、責任。とってくれるんでしょ?」

「……ふぅ……。なんだ? 今の魔法学園の生徒ってみんなこんなに頭回んのか? フラ。こいつもまるでお嬢みてぇじゃねぇか」

「こいつはまたシルヴィアとは違う意味で特別なんだよ!」



「わぁったよ。お前はこれから俺が預かる。今回のロトへの援助遠征には間に合わなくとも、本格的なグルーネの戦争参戦までにどうにかしてやる。ついてこれるよな?」

「もちろん」


そのために、ここにいるんだしね。


「ハウト兄」


ハウトさんがボクを見据えて顔つきを変えると、間にリンクが入った。

そう来るだろうとは、思ってたけどね。


「わりぃんだけど、俺もどうにかしてくれよ。シルヴィアもレティも参加すんなら、もう一人増えても変わらねぇだろ?」

「変わらねぇわけねぇだろ。お前は第一王子だろうが。シルヴィアは俺を納得させるためにちゃんと準備をしてきたぞ? お前は何を以って俺を納得させる気だ?」


そう聞いてる時点で、ハウトさんもリンクの参戦を視野に入れてるんだろう。

まぁ王様とか、そういう人達そっちのけで第一王子とか言う国の最重要人物が戦争に出る出ないの話進めるとか、もう訳わかんないんだけど。


「引けないだろ。男として」


真っすぐ見つめ合う2人。ハウトさんの視線がちらっとボクを向いて戻る。


「青いねぇ」

「リンク! ハウトお前ら!」


先生が慌ててるけど、リンクに引く気がないこともよくわかっているのか、それ以上追求することもなかった。


「ま、お嬢の推定通りに事が運んだら、この戦争失敗した場合はこの国滅びんだろ。それなら未来の天才達も、今を勝ち取ってもらわないとな。未来に何も残ってないんじゃ、意味ないだろ?」


ボクとリンクが一緒に頷くと、フラ先生が項垂れる。


「ああもう! フレディ! あたしらはあたしらで、やることやるからなっ!?」



「ああ。フラちゃん。一緒に頑張ろうね。……この子たちの未来を守ってあげないとね」





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