兄妹仲がいいって、すごいいいことだよね?
「ごめん先輩! ボク、リンクを追わないとっ! 先輩達もまたモンスターパレードの時みたいなことになってるかもしれないから、ちゃんと情報収集した方がいいかも!? 今度は冒険者ギルドで全部ってわけにはいかないだろうけどっ!!」
ダンッ!
慌てて閉めた扉が当たって大きな音を立てる。
「リンクねぇ……」
「あーやだやだ。面白がって広めたのはいいけど、末永く爆発しろってんだ」
「あ゙~っ! 俺も彼女ほしー!」
慌ててリンクを追い、そう言い残しながら研究室を出た。グリエンタールのマップスキルでリンクの居場所は把握できるから、見失う心配はないにせよ……ほら。もうリンクは魔法学園のある王城区を抜けようとしている。
商業区のど真ん中辺りまで、マップスキルに映し出されるリンクの印が高速で動き続け、ある場所に到着すると印が止まって動かなくなった。
うん。ボク、プトレマイオスのアジトってどこか知らないんだよね。リンクに案内するって意図は無かっただろうけど、とてもありがたい。転移眼でリンクの状況を把握すると、大きな商業施設が目の前に見える。平日の早朝に大型商業施設ともなれば人がいないわけもなく、朝の市場かよってくらいの人がごった返しているのが見て取れた。
大型商業施設って言っても、色んな種類のテナントが色とりどりに店を出しているような複合施設ってわけじゃなくて、主には経営している商会が推進する方向性にまとまった店舗が、一つの施設に支店を置いて集まっている感じで、どうやらここは朝市やら冒険者用の装備や道具を揃えたりっていう、一般向けと言うよりは冒険者向けに作られた商業施設らしい。冒険者ギルドを始めとした色んなギルドの出張所まである。冒険者向けってことは護衛クエストも請負が盛んなようで、馬車の乗り合い待機所にはたくさんの人が乗り降りしているところが視界の端っこに映っていた。
ちなみにボクはこんな場所になんてきた事がないどころか、こんな施設があることすら知らなかったんだけど。リンクの印を追う分には転移眼の視界として追う事は簡単にできるようだ。まぁ実際ここは王都内で、グリエンタールのマップスキルは街に入っちゃえば街ごとマップが更新されるからね。自分が行った事のない場所に知っている人がいる場合、そこに転移眼を飛ばしたことってなかったんだけど、マップが開いてれば視界に移したことのない場所でも転移眼は飛ぶようだ。こういう実験も、本来ちゃんと特殊魔法課の講義が進んでいたらやっていたのかなぁなんて思うと、ちょっと日常が恋しくなっちゃったりもするよね。
流石に人混みを全速力で走り抜けるわけにはいかないリンクが施設に速足で入っていく間に、ボクも空いてる部屋を探して学園を歩く。人前で突然転移スキルを使うのはさすがに抵抗もあるし、そうでなくとも自分のスキルなんて人に見られないに越したことはないからね。
商業施設最上階
一階はあんなに人でごった返していた場所も、何の店も出店していない最上階の早朝ともなれば人気もあまりないようで、まだ薄暗い中をリンクが一人で歩いていく。人が居ないわけではないようで、通り過ぎていく扉の隙間から明かりが漏れていた。
一番奥にある一際大きな部屋の前に立ち止まると、リンクがキョロキョロと視線を空へ動かす。
「ごめん、待った?」
「見てたんだろ?」
「……」
ちょっと言ってみたかっただけなんだもん。
こんこん。
リンクが珍しく部屋をノックしながら身嗜みを整えている。顔には出さないようにしてるみたいだけど、ちょっと緊張してる……のかな?
ガチャ
部屋が開くと
「は~いっ……あれ。れてぃーしあちゃん。それと……王子? どうしたの? こんなに早くに」
出迎えてくれたのはウルさんだった。
「あ。ウルさん。お久しぶりです!」
「どうも。ウルさん、フラ姉いますか?」
「ん? フラならまだ今日は来てないけど……」
そう言いながらウルさんの視線がボク達の学生服に移る。
「ん~。学園に行ってないなら、幹部会議室かな? 今三星全員いるから、お兄ちゃん達に捕まってるんじゃない?」
「フレ兄もいんのか!?」
最近リンクも王城で王様たちと会議続きで、あまり市井の方には出ていないみたい。フレディさんが帰ってきてるのも知らなかったらしい。かくいうボクも、フレディさんとやらを存じ上げはしないんだけど、フラ先生には2人のお兄さんがいるってのは知ってるからね。予想はつくってものよ。シルもハウトさんの事上のお兄さんって言ってたしね。
「案内しようか?」
そう言いながら扉から出てきたウルさんが、思いのほか可愛い格好をしていることに気づいた。ピンク色の可愛いエプロンに、同じ柄の可愛いミトン。やっぱり歳は相当に考えられてるのか、子供用みたいな可愛さじゃなくて、可愛いもの好きな大人が好むような料理用具って感じだ。
「……? あっああ。わたしもこれから出店する用のお料理作ってたの。よかったら後で顔出してね。朝ごはんくらい食べていってよ」
ちょっと失礼なことを考えてると、考えてるだけなのにいっつも誰かしらから咎められる……なんてことはここでは無いようで。咎められなかったことになぜか自分で罪悪感を感じてると、扉から出てきたウルさんがそう言いながら後ろ手に、腰を少しまげてにこっと笑って見せた。
ぐぅ、この人本当に30台かよっ……!!
くっそ可愛いんですけど!?
むしろ娘まである。
うわ。捗る。
そんな妄想を一人で繰り広げていたら、ウルさんとリンクが先に行ってしまったようで、慌てて後を追った。小走りでリンクの隣に追いついて横顔を覗いてみるも無表情。さっきのウルさんに興味ないとか、リンクって実は枯れてるんじゃないの? 大丈夫かな。
……う。
なんて考えてたら、リンクの視線だけがボクと合った。文句を言いたそうなので知らないふりをしておきます。そうだ。リンクは賢王の一族でした。
「ここだよ」
そう言われて案内された部屋には、暗い通路に扉の中から光が漏れ出ている。
「よかったね。いるみたい」
こんこん
とウルさんがノックして扉を開ける。
……と、そこには信じられない光景が繰り広げられていた。
一つのソファーに並んで座る兄妹3人。
妹が真ん中に座らされ、1人の兄が妹の頭を撫でながら、もう一人の兄が妹の顎クイをしております。なんだこの光景。面白すぎるでしょ。
嫌がる妹。
暴れる妹を簡単に説き伏せる両脇の兄2人。
「ぷっ。せんせ~、何してんの?」
「……げぇ……レティーシア。お前何でここに……」
本気で嫌そうな声が漏れるあたり、本当に見られたくなかったらしい。
まぁそりゃそうだろうけど、ボクだって弟と妹を持つ身としては、先生のお兄さんたちの気持ちがわからないでもないんだけどね?
「お、おい。勘違いするなよ? こいつらが異常なだけなんだからな!?」
「ああ、やっときたね。君……えっと名前は……」
嫌がる先生をいなしながら、ハウトさんがボクたちに気づいて顔を向ける。フラ先生が暴れてるにも関わらず、相変わらずの身のこなしで何の被害も受けていないのは、やっぱりかなり凄いことなんじゃないだろうか。
「レティーシアです」
「ハウト兄!」
「あぁ、そうそうレティーシア君。とリンクも。久しぶりだね」
先生が暴れるのをハウトさんが片手で押さえつけてるところを興味津々に見つめていると……
「ぶっ殺す!」
我慢の限界を迎えた先生が精霊武装を発動し……
部屋が炎上した。




