シルのわがまま
皆様。しばらくぶりです。
と言ってもさすがに間が空きすぎまして、未だに確認していただいてる方がいるのか不明ですが、大方全ての過去の投稿を改稿し終わりましたので投稿を再開いたしました。
投稿頻度は不定期として再開させていただきます。
ただ、改稿の際に色々と手直しをしておりまして、特に直近20話くらいは全く別の内容になった回もあります。大分空いたことも踏まえまして、是非とも読み直しをしていただければ幸いです。
ですが、話の流れ的には変わっておりませんので、もし覚えていてくださるようでしたら、このまま進めていただいてもそこまで問題はないかもしれません。
「それで、話を戻すのだけれど」
ティオナさんの襟首を引っ張ってボクから引き離しながら、シルが話を戻した。なんだかその光景が主人とペットみたいに見えて微笑ましいんだけど、ティオナさんってこの国の王女様なのよね……。
「突然、どうしてそう思ったの? 何か、見えるものでもあった?」
「ああ、いや。見えてるものが信じられねぇのもそうなんだがな。転移者ってのは歴史上賢王だけじゃないっぽくてね。そりゃ平民上りでこんな能力持ってりゃ、賢王の物語と結びつけてもおかしくないってもんだろう?」
さっきから皆が話している素振りからすると、ハウトさんには人の潜在魔力みたいなのを知覚できるような魔法なのかスキルなのかを持ってるのかな。
そういう前提で話が進んでる気がする。
まぁ転生者・転移者についてなんかは、今まさに戦争してるフリージア・カルセオラリア同盟の中心にいる人も転生者だってことをボクも知ってはいるけど、この情報はルージュ達が調べてきたことで、多分シルにも報告が上がっていないと思う。戦争関連に関して今のところ関係が無いからね。
とは言え、ボクだって賢王とその人を含めて転移・転生者がたった3人っぽっちだとは思っていないわけで、過去……もしかしたら現在、他にもどこかにいるのかもしれない。
「そうなの? そんな情報、聞いたことがないわね」
「今聞いてて分かる通り、俺たちの知らない単語を扱ってるってこたぁ何かしら元居た世界にルールがあるんじゃねぇか? 確か賢王が側近の5人に転移の話をしたってのも、かなり後って話だったよな?」
「ええ。……そうなの?」
シルと目が合う。
転生者であることを隠したかった理由……かぁ。
別に前世にルールがあったわけじゃない。でもなぜか生まれたそばから前世の記憶があって、大人顔負けに頭が働いちゃったらこうなっちゃうんだよね。
だって、親からしたら自分の子供が誰か知らない奴の記憶持ってるだなんて気持ち悪いかもしれないし、最悪捨てられる心配だってしちゃうわけで……。それが親じゃなくったって、こいつ何言ってんだ? って感じじゃない? 頭おかしいと思われるよ。普通。そんなことわざわざ言いたいと思えないのは、確かにボクの思考回路が最初から成熟していたせいなのか。
「ううん。ルールなんてないよ。……ただ、異世界転生は結構あって、なんて言うか……こうするべき? みたいな常識みたいなのは植え付けられてたかも?」
「ふぅん。……その話は今度詳しく聞くとして。やっぱり賢王とレティのいた世界から来た人達は、何か特殊な力を持っているのかしらね」
「ん? こいつも賢王と同じ世界から来たなんて、なんでわかるんだ?」
「前に話したことがあるのよ。賢王の逸話と同じ世界だ。って……え? 違う世界もあるの?」
「そうなのか!? いや、当然ここじゃない世界なんていくらでもあるんだろうよ。ある……んだよな?」
この世界にはパラレルワールド的な話は広まっていないらしく、かといってボクだって異世界転生なんて作り話でしかないって前世では思ってたわけで持ってる知識なんて皆と大して変わらないんだけどね。
「ねぇねぇヴィンフリーデはわかる? 今の話」
「いえ、全く……」
ティオナさんとヴィンフリーデさんが考える2人を傍観しながらしゃべっていると、はっとなったシルが顔を上げた。
「……また話が逸れたわね」
「あ……あぁ。悪い。……なるほどなぁ。今度フラと会ったら話をしてみるか」
「ええ。楽しみにしているわ」
こういう目を細めて嗤う時のシルって、なんか悪巧みしてる時なんだよなぁ。
「じゃ、戻りましょう。あまりサボっていられる時間なんてないのよ」
そう言いながら踵を返して戻っていくシルに、3人が無言で歩き出す。
あれぇ……。ボクってば、実はハウトさんに紹介もされてないから実際名前も知らなければ、なんでハウトさんに突然任されたのか、更にはなんでここに連れてきてさっきの魔法を撃たされたのか……なんの説明も、結果どういうことになったのかもわからないままなんだけど……説明不足はこの世界の常識なのかな? なんだろ。それとも、もしかしてボクの頭の回転が悪すぎてわからないだけなの……?
……このメンツ見てるとそれもありえそうで怖いんですけど。
「で? ……ええ。……だから? ええ。それでいいわ。進めて頂戴。……ええ。そっちはこれをお願い。この件は2人で協力できるわね? あと貴方の件だけれど……」
シルが会議をやっていた部屋に戻ると、一斉に人が押し掛けた。押し掛けたって言ってもちゃんとシルが席に着くまでは待ったんだけど、それ以降が異常だった。
いやね。ボクだってシルのスペックが異常なのはわかってはいるつもりだったけど……それにしてもこの状況は理解しかねるんだよ。
だって、ラインハートの人達がシルに纏めた作戦の相談やら、情報の報告なんかをし始める際、他の人が話をしているのを全く気にしないのだ。
じゃあどうしてるかって、押し掛けた人たちが一斉に報告をはじめ、押し掛けずに部屋の奥でまだ話していた人たちも、押し掛けた人たちの報告が終わらないうちにスタスタと歩いてきたかと思うと、勝手にそのまま話し出す。
それに的確に答えているらしいシルが全て内容を把握して返す。
なにこれ。シルってもしかして神様だったの?
いや、そういってくれたら多分、普通に信じるんですけど。
「ね。こんなの見たら、ちょっと頭がいいって持て囃されてた自分が嫌になっちゃうわよね」
シルの後ろで立つボクの横から、ティオナさんが話しかけてくれた。
ティオナさんはリンクやアレクが憧れていたくらいすごい人だったわけで、嫁いで家を出たとは言え、その王女がなんで公爵をまだ継いでもいない単なる公爵令嬢に仕えているのかわからなかったけど……そういう事なのかもしれない。
「誰でも出来ることは一流。ですが誰にもできないことをさらっとなさる。姫様こそ、この国の宝です」
ヴィンフリーデさんのその言葉に2人でうんうんと頷きながら、会議が進んでいくのを眺めていくと、少しずつ人が部屋から出て行った。やるべきことが決まったらその時点で動き出す。なんともラインハート家っぽい。
しばらく経つと、いつの間にか部屋にはシルと、護衛のティオナさんとヴィンフリーデさん、それとボクの4人しかいなくなっていた。ハウトさんも忙しなく色んな人と話をして、いつの間にか部屋から出て行っちゃったらしい。
「ふぅ……」
「お疲れさまでした」
ヴィンフリーデさんが椅子を引き、くるっとこちらに顔を向けたシルの額には大粒の汗が並んでいて、前髪が顔に張り付いていた。もう季節も秋で、まだ早朝の地下なんてむしろ寒いくらいなんだけど、そりゃあんな何十本あるのかわからない神経の使い方してれば、消耗もするってものだよね……。
「聞いてたわよね?」
「聞けてるわけないよね?」
さも聞き分けられて当然。みたいな顔でボクに話しかけるけど、あんなことできるなんて話、ボクの元居た世界でも歴史上聖徳太子さんくらいなものだよ? あの人も転生者で、シルが聖徳太子の生まれ変わりなんじゃないかって疑ってるところなんですけど。
「そう。ハウトから進言があったのだけれど、今度は後方部隊に配属されることになったから。詳しい話はハウトを捕まえて頂戴」
「あら残念。今度は一緒じゃないのね」
「姫様。レティーシア殿も……その……戦争に駆り出すのでしょうか?」
「……ええ。人では無いのなら。ね? レティ」
「……うん。何もしない方が、出来ない事が……辛い事もあるって知ってるから」
人じゃないなんて嘘。
頭で理解しようとしたって、原因をその目で見てきたボクが割り切れるとは自分でも思えなかった。
でも、じゃあ人と人との争いだからボクは王都の中心で縮こまって、シルが、学園の皆が危険な目に合ってる中、ただ待っていられるだろうか?
そんなの辛すぎる。




