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まぜるな危険!

言われてみればその通りかもしれない。


少し前にルージュがボクの魔法を補助してくれた時、ものすごい省エネで高火力な魔法が成立したことがある。あれって、ボクはルージュがルージュの能力を持っているからこそ出来ることであって、ボク一人では成し得ないことだって勝手に思ってたんだけど、きっとその思い込み自体が間違いだったって事になると思うんだよ。


ボクのグリエンタールさんの能力には『魔力知識』っていう派生スキルがあるんだけど、Lv5で魔力構造の応用ができて、Lv7で術式の応用までできる。……そして、Lv10で()()()()ができるのだ。


ボクは今まで魔法構造を前世の知識とリンクして理解し、それを組み合わせることで応用してきたわけなんだけど……。じゃあ組み立てってなんだったの? って話。


いわば、魔法構造っていうのは数学で言うところの『公式』みたいなものだとして。『公式』の成り立ちを理解し、それを現象に合わせて応用する。ここまで出来ていたことに満足してしまっていたのだ。一番肝心だったはずの魔力知識Lv10の部分を一切使えていなかったことなんだよね。


ボクは前世じゃ学生にすらなれなかった。悲しいかな万年病室に縛られ、まともに学校に通ったこともなく、勉強は全て通信と呼ばれる個人授業。そこに“勉強をする”なんていう行為以上の興味を持つ意識自体が生まれるわけも無く、当然数学の公式は覚えるものであって、公式の成り立ちや意味なんかを理解して自分で『組み立てる』ものじゃなかったのだ。


その前世の思想を受け継いでいるボクに、当然そんな発想がでてくるわけがない。


でも、世界が変われば必要な勉強方法がそもそも違う。

前世では、勉強をして学力をつけること自体が、将来の就職や知識と言った自分の糧となったんだろうけど、ボクが今この世界で学ぶべきことは就職のための学力じゃないんだよね。

本当にボクが真っ先にやらなきゃいけなかったことは、魔法構造(公式)がなぜそうなり得ているのかの研究だったってこと。数学者の位置として『研究』をすることこそが正しかったのだ。


要するにハウトさんはこう言いたかったのだ。


「なぜ魔法構造が理解できて魔法術式まで応用ができるのに、その研究をしないのか」と。


前世の知識で応用ができる気になっていたボクは、その知識にばっかり頼っていて、魔法構造自体の理解や研究をしていない。この世界での魔法構造の本当の意味を理解していない。


だから、ハウトさんが見せてくれた歪な魔法構造が、発動できることを理解できるのに、自分で色々実験して組み立ててみよう! なんて発想がでてこなかったのだ。


別にボクが冒険者を目指そうが、シルの隣を目指そうがそんなことはどうでもよくて、目指す魔法の頂を決めてから鍛える魔法を選び、それが決まるからこそ、どんな体作りをしなきゃいけないだとか、どんな能力を伸ばさなきゃいけないだとかが決まってくるはずで、本当であればそれが決まっている段階が魔法学園の入学当初であることが望ましかったんだと思う。


まぁ、今更そんなこと言ったってもう過去には戻れないんだけど。


「……お前、家名は? どこの出身だ?」

「へ? いえ、まだありませんけど……あはは……」


色々納得する部分もあったりで頭の中をフル回転させていると、痺れをきらされたかのように話しかけられた。

家名の話はちょっと思い出したくないんだよなぁ……。だってここ王城で、その家名を申請するしないって時に起こったリンクとのこと、思い出しちゃうんだもん。あれから逃げ出したままだから何にも考えてないし、そういえば王様に家紋とやらを作ってもらうって話になって、クロイツデーモンオークから採れた魔宝珠を渡したっきり何の音沙汰もないし。なんかこのままこの話、どっか行っちゃわないかなぁ……行っちゃわないよなぁ……。


「無い? ……ん? ああ、そういやお嬢が拾ったのって平民上がりだって話だったか。つか騎士位将軍職まで陞爵(しょうしゃく)したんじゃなかったか?」

「あ、いえ、その~……何と言いますか……」


「まだ何も申請してないのよね」


突然シルの声が聞こえ振り返ると、暗い廊下を照らす月明かりに黒髪が輝きながらコツコツと足音が近づいてきていた。


「あれ、シル。会議はいいの?」

「貴女達が一向に戻ってこないんじゃない。ティオナもヴィンフリーデまでいて、何をしているのかしら? レティの事、任せはしたけれどまだ会議終わってないのだけれど?」

「も……申し訳ございません……」


ティオナさんとヴィンフリーデさんが、“あっちゃあ”という顔と“しゅん”とした顔で両対極なリアクションをしながら目をそらす。


「それで? レティの家名なんて急ぐことでもないでしょうに。何を気にしているのかしら?」

「いや、違ぇよ。家名なんてどうでもいいんだが……ああ。ってことは、こいつは転移者か?」

「え? ……あっ」


何にもそんな話なんてしていないのに、突然言い当てられて思わず驚きの言葉が口をついてしまった。別に隠さなきゃいけない事でもないんだけど、あまり人に言いふらさない様にしようねってことになっていただけに、ハッとして口を紡ぐ。

その仕草だけで正解だと言っていることをその場の全員が理解したであろうことは、とりあえず気づかないふりでもしておこうかな……。


ま、まぁ?

変な人に知られて困るからあまり言いふらさないほうがいいよねってことで最初にシルとイオネちゃんと話し合ってただけであって、この場にいる人達はシルの側近中の側近なわけだし。知られて困るような人達でもないんだよね? ……ね? そうだよね?


「ええ。そうよ」


チラチラとシルの顔を伺っていると、意外にあっさりとシルが認めた。ボクの心の中の問いかけに答えたわけじゃなくて、ハウトさんへの質問の答えだけど。

シルが言ってもいいと判断した人なのであれば別に隠す必要もないんだから、ハウトさんに向かってウンウンと頷いて見せる。


「……なるほどな。どうりで歪なわけだ」

「え? 転移者って!?」


納得するハウトさんとは裏腹に、ティオナさんとヴィンフリーデさんがびっくりして見せる。そりゃこの2人にも説明するようなタイミングも無かったし、シルがわざわざ言って無ければ知らないだろうしね。特にティオナさんはシルと同じ賢王の一族なわけで、やっぱり転移者って言うと賢王と賢王が成した功績っていうのが連想されるのは仕方のない事かもしれない。


「せ、正確には『転移者』じゃなくて『転生者』なんですけどね……?」

「転移? 転生? 何が違うのかしら」

「賢王様以降、そのような話は聞いたことがありませんね」


驚いた2人の顔が、なんとなくモンスターパレードの時の記憶と合致してきたのか納得したような顔に変わり、見つめられる2人と近い距離で目が合う。ちょっと照れるんですけど。


「へぇ~……。その転生者って言うのだからこんなに真っ白なの? ちょっと羨ましかったのよね。あら? まつ毛も眉毛も。全部真っ白なのね……綺麗」


ヴィンフリーデさんよりはティオナさんの方が、やっぱり興味は強いみたいで、あわやちょっと間違えたらキスしちゃうんじゃないかって距離で体中を観察された。

べ、別にいいんだけど、男の人がいるところで服を引っ張って中を見るのはちょっと恥ずかしいんですけど……。


「い、いえ。その……真っ白なのは病気と言いますか……。転生とは全然関係ないと思います……」

「あら、それは残念。その転生者って言うのになれれば、私も綺麗になれると思ったのに」




久しぶりに外見について触れられた気がする




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