当たり前のように置き去りにされます。
祝1周年!
「あ、あの……えっと……こ、こんにちは?」
「は?」
「えっと、いえ、その……ご、ごめんなさい……」
静かだった会議は打って変わって。
シルが席を立ち、目の前にあった大きな机に広がる地図を指差しながらあれこれと指示を出していくと、部屋の中は雑踏に包まれ始めた。所処では怒号まで飛び交っている中、部屋の空気に完全に置いてかれているボクとお兄さんの2人だけまるで違う世界にいるかのようで……。
いつもだったらシルがあれだけ動いていれば積極的に手伝っているであろうティオナさんとヴィンフリーデさんも、ボクから一歩引いた場所で動く気配もない。
……そこにいるんだから、なんか紹介してくれるだとか……ね?
してくれても、いいんだよ?
って上目遣いでティオナさんの目を見ると、半笑いで目をそらされた。
これはよく見るね。
知ってて言わない奴だ……。
「あ、いや違ぇんだよ。お前、なんだ? フラんとこの研究生なのか? 本当に?」
「え……? あ、いえ、研究室に入っているわけじゃないんですけど……」
実は先生を呼び捨てで呼ぶ人って、かなり少ないんだよね。
そりゃ、爵位の高いお家のご令嬢なんだから当たり前といわれれば当たり前なんだけど、それに加えて本人の実績に対する敬意みたいなものも含まれるんだから、まず学園内で先生のことを呼び捨てにできるような人がいないのは当然の事、冒険者としても超一流なだけあって気性の荒い冒険者の人達だって呼び捨てにしているのは仲間内くらい。それも仲間内でだって一部だもん。相当少ないんだよ。
ボクの知ってる限りでは、先生のクランであるプトレマイオスのメンバーの人達とか、そういうごく一部の仲がよさそうな人達くらい。
もちろん立場上、上位にいる人達が仕事上の都合で呼び捨てにくらいはするだろうけど、それを含めても片手で数える程も居ないと思う。
って事は、先生と同じクランに所属する冒険者さんってことなのかな?
まぁシルもフラ先生も同じ公爵家だし、賢王の一族ってことは元をたどっていくと、そこまで遠くないところでぶつかるんだろうし、ラインハート家にヴォシュトンテイル家に属する人が仕えていてもおかしい話ではないと思う。
顔から始まって、視線が少しずつ下に降りていく。
首元、胸、腰、足の先まで一通り一瞥されると、また顔まで視線が戻ってきた。ここまで不躾な視線を送られてるのに何も言えないのはおじさん恐怖症のせいなのかな?
困っている顔をしているはずなんだけど、ティオナさんもヴィンフリーデさんも、何かを自分から言ってくれる気はないらしい。
……ヴィンフリーデさんが何も言ってくれないなんて、珍しいというか……。なんか不思議な気持ち。
「あいつ、魔力なんて回復したのか? なんも聞いてねぇけど」
「……?」
「いえ、全然まだですわよ」
答えたのはボクではなく、ティオナさんだ。
「あん? じゃあなんでこいつなんだ? ……あいつじゃどう見ても専門外もいい所だろうに」
「あら、どういう風に見えますの?」
「魔力強度だけで言やぁ未開拓奥地にいた領主が怖くなくなるな」
「へぇ……そんなに」
ティオナさんの声のトーンが一段階下がる。
ボクにはなんの話をしてるのかよくわからないけど、ボクの事を言われてる事くらいはわかる。それでいてティオナさんの目が細くなって声が低くなれば、怖さしか感じないんですけど。
たじたじしながらボクの視線が2人を泳いでいると、ティオナさんの表情がぱっと明るくなった。
「ま、そうでしょうけどね。一度レティちゃんの魔法性質を見たら、流石にその目がなくてもわかりますわ」
「なのになんでフラが?」
「貴方がいなければそんな事わかりようがありませんもの。この子の魔法の実用性を見出すのに、ベガ様以外に適任がいなかったってのが実際のところでしょうね。最悪学園側にも、貴方達がフラの後ろにいるって計算もあったんじゃない?」
「俺等がかぁ? 国になんてそうそういねぇんだから、学園の仕事なんか手伝ってられっかよ。だいたい、あいつに任せたら折角こんな魔法の才を持ってるのに戦士にでもなりかねんだろうに……」
「あら。意外と動ける魔法士になんて育っちゃって。同年代じゃ敵なしらしいわよ? ……魔法を含めれば今すぐうちの隊に来てもエースでしょうね」
「動ける魔法士? なんだそりゃ。無駄もいい所じゃねぇか」
「……え?」
お兄さんとティオナさんがボクの頭の上を通して話をするものだから、なんとも居たたまれない気持ちになってくるんだよ……。
ボクはまだ16歳なんだからね!
これからティオナさんくらには成長するはずだよね。
……一般的に女の子の成長が止まる時期だとか、ティオナさんがボクの年のころにはあれくらいの身長があっただとか、そういうのは知っていても知らないフリをしておくんだけど。
いや、実際のところなんて知らないんだけど。
「おい、お前」
「ふぁい?!」
2人を見上げながら首を左右させていたら、突然頭を鷲づかみにされた。
掌でかっ。ボクの頭がすっぽり納まるんですけど……。
「ちょっとこれ、登録してみろ」
そういいながら光の術式で指先に魔法陣が映し出された。
魔法陣を読み解ける人って、確かものすごく少ないって聞いてたんだけど、ボクがこういうのを読めるのもクランで共有とかされてるのかな?
「……? 単一光炎術式? 何これ」
思わず口をつく。
光も炎も同じ元素魔法構造とは言え、それを2つ同時にキャストするのなら、単一じゃなくて二重構造になるはずなんだけど……?
魔法陣で表示されているからわかりやすいだけなのかもしれないけど、この魔法構造だと光魔法と炎魔法の陣が丁度半分で繋がっているような陣になる。
これを魔法構造として魔水晶に登録するとなると、こんな非対象な構造であれば、普通の魔法ならよければ失敗して起動しないか、悪ければ暴発して大怪我してしまうはずなんだけど……
やけに綺麗に纏まっている。
多分これ、成功するんじゃないかな。
「あぁ。お前、やっぱり魔法陣が読めて魔法構造で構築できんだな」
「え? あ、……はい。一応……」
あれ。知らずに出されたのね。
「登録は?」
「できました」
「流石に嬢ちゃんが手放したくないって空気だしてるだけあって優秀だなぁ。じゃ、ちょっと地上にでるか。ティオナとヴィンフリーデも付いてくるんだろ?」
「ええ。もちろん」
あれ? なんでだろ。
この2人はいわばシルの一番近くにいる護衛なのに、こんな簡単にこの場を離れてもいいのかな?
降りてきた地下への階段を、まだ自己紹介もしてもらっていないお兄さんの後ろについて今度は登っていく。1階部分まで出てくると、まだ向こう側に月の光が差し込んでいた。
「じゃ、この窓から空へ向かってさっきの魔法を撃ってみろ」
「? ……はい。『光炎光束砲』」
《主様》
え?
《火力の調整を》
……え?
更新ペース落ちてます。
この機会にちょっと文章直したり色々見直してみたりしようかな。
筆が進み始めたら、戻せるなら毎日更新に戻したいところなんですけどね。




