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悪い事って続け様に起きるって、よく言うよね。

「……申し……す…………はい…………」


物音が聞こえた気がした。

なんだろ。

夜中にふと目が覚めた。


自分で自覚しているあたり少し恥ずかしい話なんだけど、ボクって寝たら起きないタイプらしいんだよね。よくユフィとジークにぶーぶー言われたくらいだから、きっと相当なんだと思うんだよ。それでもボクから言わせて貰えば、起きたいと思った時間に起きられる事をすごいと言って欲しいくらいなんだけどね? ま、まぁ……たま~~~にくらいは、ちょっと寝過ごしたりとかしちゃったりなんかも? しないとは言わないけど。


とは言え、確かに自分の記憶を辿ってみても、深夜の暗闇の中で目を覚ましたことって今まであまり記憶に無い。……むしろ初めてかもしれない。

ベッドの下でひそひそとした話声が聞こえてくる。この程度の物音で目が覚めるなんて事、今までなかったのに。


「……申し訳ございませんが、すぐにご支度をお願いします」

「……ええ。わかったわ」


シルの静かな声が聞こえると、それを合図に今までそこに()()()()()()()()()が消えていくのを感じた。

まるでシルが寝言でも言っていたんじゃないかってくらい、シル以外にそこにいるはずの誰かの気配っていうものが全く感じられなかったんだけど、明らかにシルのではない女性の声が聞こえていたのだ。さすがにあれがシルの寝言だったらすごいでしょ。どんな夢を見てるのよ。


「……」


シルがベッドの外へ這い出て立ち上り、ボクの様子を覗っているのを感じる。


……こういう時ってなんでだろうね?

咄嗟に目を閉じて寝ているフリをしちゃったんだよ……。

別に悪いことしてるわけじゃないのにね。

そりゃ……ちょっと聞き耳は立てちゃったかもしれないけど、部屋の中で話をしてたのはシル達だもん。ボクに聞かれたくない話ならこんな所でしないだろうし。


「起こしていかなかったら怒るかしら? ……まぁでも、この子寝たら起きないのよね。起こしたことにしましょ」


……なんとなく理不尽さを感じて眉をしかめそうになるけど。

重要なのはそこじゃないんだよね。


深夜に叩き……起こされはしてなかっただろうけど、寝ているところをこんな時間にわざわざ起こされて、こんな時間にシルが出かける支度をし始めている現状で、さらにボクを起こしていこうとする状況って?

なんだと思う?


《始まりましたね》

《感じるの》

《膨大な悪意を》




……ですよね。


精霊にも種族があって種族によって基調とされる色が違うように、精霊によって司る感情っていうものがあるらしい。

例えば炎の精霊なら基調とする色は赤で、司る感情は情熱。


みたいにね?

わかりやすいでしょ。


司る感情っていうのは、その精霊の原動力になったりするわけで。

炎の精霊さん達からすれば、契約する人間を選定する時には激情型の人を選んだりしやすいってわけ。

……まぁ、確かにフラ先生はそっち系の人だから、契約している精霊の属性が炎って言われると納得しちゃうよね。


そうなれば当然、悪魔という精霊が基調とする色は黒で、司る感情は怨念や憎悪と言ったものになるわけだよね。

あ……ちなみに、別にボクが特別怨念やら憎悪っていう感情を持っているってわけではないんだよ? ルージュ達がボクと契約したのには別の理由があるわけであって、ボクが呼び出して契約してくれって頼んだわけじゃないんだからね!?


話が少し逸れちゃったけど、もちろん悪魔が喜びだとか悲しみを理解できないって言ってるわけじゃなくて、そういった自分の種族が司る感情は、感じやすい体質みたいなものがあるらしい。

戦争なんていう負の感情しか産まれないような大きな戦闘が始まれば、悪魔ほど感じ取りやすい精霊も他にいないって事になるだろうね。


「……シル、待って」


寝てるフリをしてる場合じゃなさそうだから。

ここでシルを1人で送り出したら、後悔してしまう。

なんかそんな気がする。


「あら? 起きていたの? 珍しい」

「ボクも行くよ」


「ええ。じゃ、先に行っているわ。……ねぇ、行き先や時間をわざわざ指定して伝えなくてもいいのって、とても便利ね」


ふふ。とシルが笑ったことが少し意外で、見惚れてしまった。


「え? ……あ、うん。それは……何よりだけど」


まるでボクが起きていて、付いて行くって言うのを予測していたかのような流れるスピードで了承された。別に渋ってもらいたかったわけでもないからいいんだけど、シルにとってこの状況は予想の範囲内だったってことだよね。一体日常的にどれくらいの量のシミューレーションを頭の中でやってるんでしょ……。


シルがこそこそとベッドの下で話し始めてから、ボクの様子を見て部屋を出て行こうとするまで、ほとんど時間は経っていない。

うん……ねぇ。なのになんでもう着替えが終わっているの?

しかも、シルが着ているのはいつもの学生服ではなく、軍服だよ?


軍服なんてクローゼットの奥深くに仕舞ってあったはずなのに。


この服装を見るのは、モンスターパレードの前日以来かな。

モンスターパレードの当日は鎧を着ていたからね。その下には着ていたのかもしれないけど、シルってば意外と暑がりだから。案外鎧の下は下着しか着けてないとかありえるかもね……。

……まぁ、そういうのはご想像にお任せするんだけど。


服装を見る限り、シルがこれから向かう用件は明らか。

そうだとしたら、行き先や時間どころか用件すらも伝えられもしないボクってどうなんだろ。結構そこら辺結構重要なことだと思うんだけど、伝えないってことはシルがいる場所に、とりあえずは姿を見せずについていけばいいんだと思う。

なんでか知らないけど、シルってばボクが転移してても、居るか居ないかくらい把握してるみたいなとこあるし。……ほんと、なんで?


ま、まぁ……誇ってればいいのかな?

伝えなくてもわかるでしょ?

以心伝心ってことだよね!





「っほい。追いついたよ」


ボクが着替えを颯爽と終わらせシルの位置を確認してみると、まだ学園を出て少しの場所にいた。今回はシャワーを浴びるほど時間も無ければ必要もそこまでないし、ゆっくりする意味もない。どこかへ着くまで待つ必要も無いからすぐに転移で追いかけた。まぁ、ボクの場合忘れ物とかあってもすぐに取りに戻れるしね。


とりあえず姿は見えない様に。見せてもいいのか、見せなくてもいいのかなら、とりあえず見せなければ問題ないわけだし。


「あら、もう着替えたの?……ってああ、そうよね。今回は姿は消さなくてもいいわよ」


そう言われるのであれば、わざわざ消す必要もない。


「ほい」


クリアの魔法を消そうが消すまいが、辺り一帯が真っ暗でそもそもあまり見えないんだけどね。


「貴女、よくそんな格好で寒くないわね」

「仕方ないんだよ!? まだ追加の毛皮、加工してもらいにすらいけてないんだもん!」


「追加の毛皮……? そんなもの手に入れたの?」

「あ……うん……」


「そう……」


いつもならここで

「また危ない事ばっかりして、女の子がすることじゃないわ」

みたいなことを言われるんだけど、どこか上の空を見ているよう。シルが寝ぼけている所は見たことないから、寝ぼけてるわけじゃないんだろうけど……。


「……シル、もしかして緊張してる?」

「……そりゃ緊張もするわよ。今回もミスは許されないのだから。はぁ。今年はどうなっているのかしらね。美味しい人材が手に入ったかと思ったら、国の危機が次から次へと。これじゃプラスマイナスで換算したらマイナスよ。マイナス」


「美味しい人材……。う~ん、ボクに言われても知らないからね……」

「ご先祖様には申し訳ないけれど、この国もそろそろ……潮時なのかもしれないわね」


「……へ?」


あれ? 


それってどういう意味……?






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