あれれ?おっかしぃなぁ。
シルはやっぱり忙しくなってからは学園に顔を出す機会が減り、ボクもなんだかんだロトでクエストしたりなんかしてたせいで外出が多くなっていた。そういう理由で結局のところ矢面に立たされたのはイオネちゃんだった。
モンスターパレードで家族や親族、友達や大切な人を失った人たちがいて、それに続くように戦争が隣の国で始まってしまったり。このままだとグルーネも危ないよね……なんて、暗くてしょうがないようなニュースが続く中、突然降って湧いた第一王子の色恋沙汰は学園という青春時代を謳歌する少年少女には恰好の玩具となったわけだ。
もちろん面白おかしく取り上げられる中には、面白くもおかしくもなく、むしろ憎悪と嫉妬が渦巻く人だって少なからず居はしただろうけど。
ボクとシルとイオネちゃんが入学当初からなんだかんだ一緒にいたのは事実で、それはとっても仲がいいんだけど……いいよね? 仲。うん。
友達と言うか大親友っていうか? まぁそれはそうとして、じゃあボクだけがシルに認められたからって注目されていたかって言うと、そうではない。イオネちゃんだってボクと同じ特待生なのだ。シルが仲良くしてる時点で他の貴族の人達も注目していただろうし、何よりイオネちゃんにはボクみたいにマイナスの要素が無いのよ。
この学園ではかなり珍しいとはいえ男爵家は一応……って言ったら失礼だけど貴族だし、王子2人と一緒にいたりして注目を集めてヘイトを稼いでいたどこぞの色んな意味で真っ白な平民とは違って、自分の分をわきまえて接していたため多くのお嬢様方からのヘイトを稼ぐことも無く、努力家で何より可愛くて常識人。
そんな彼女がボク達以外に友達ができないはずもなく、しかも取り入りたいけど高嶺の花だったシルと、渦中の本人であるボクが隣からいなくなったとあればイオネちゃんに人が寄るのは、今考えれば自然なことだろう。
ボク達がいない間に色々苦労を掛けたようだけど、少し見ない間にシルはどうか知らないけど、ボクとしては面識のない人とお友達のように話している。そこに悪意がないのならむしろ歓迎すべき話だからいいんだけどね。
う~ん。
結局話をしなければしないで学園中から玩具にされ続けるらしい。それなら逃げてないで早めにご挨拶とやらに行っておけばよかったって、ちょっと後悔もするけど、彼氏の親にご挨拶とかもうご結婚ですか? なんて思っちゃうのはボクだけなのかな? それも相手は王様だよ? 王様。
別にリンクと付き合ったところで、ダメなら別れちゃえばいいとか言った事もあったけど、ボクだってそこら辺、王族と婚姻を結んでおいて、おいそれと離婚出来るだなんて簡単に考えているわけでもないし、心の準備ってものがさぁ……ね。やっぱ必要だよね。
とりあえず生暖かい目で見つめてくるシルを見なかったことにしながら、イオネちゃんに少し大きめな声で“現状なにも進展はないよ”って伝えておく。
聞き耳を立ててたであろう周りの人達が『な~んだ』みたいな残念顔をしながら視線が外れたことに、ちょっと納得いかない感情を抑えながら、午後は講義へ。
午後の講義はいつも通りの次元魔法課。
後期にもなってくると、同じ系統の講義を集中的に受けている人たちは中級講義の実践編まで進んでいる人が多い。それどころか本当に少ない種類に絞っている人なんかは、もう専門の研究室に入る入らないの段階まで進んでいる人だって出てくる頃なんだそうな。
ボクはと言うと、特殊魔法課の講義が次元魔法課の単位を兼ねてくれるから、割と重点的に次元魔法課の講義を取っている人と進度が変わらないことろまで来れていて、中級の実技あたりに。
中級の実技ともなれば初級とは全然違って、覚えることも増えるし、知らない事だって学ぶことができて楽しくなってくるところ。
半開きの窓から兵科の活気のある声が流れ込んでくる。
時たま研究科棟あたりから爆発音なんかが聞こえてきたりもするけど、もう皆慣れたもので、大して気にする人もいなくなってきた。
あ、実技って言っても、全部が外でやるわけじゃないんだよね。
得に次元魔法って単一次元魔法を扱える人なんてほとんどいないわけだから、元素魔法や神聖魔法との併用になるわけで、室内で行われることも多いのよ。
戦争警戒令が発令されていても、基本講義はそのまま開かれている。
一部の生徒を除き、まだそこまで実務が忙しくなる人なんて、爵位を継いでいるわけでも無い魔法学園の学生にはそこまでいないし、何より魔法学園という場所が兵士を育成する場所の一つなわけで、戦争中に兵士が訓練を怠ることが無いのと同じで、魔法学園の講義も止めるべきではないのだ。
「ねぇ、レティーシアさん」
「はい?」
講義の最中、面識のない人から声を掛けられた。
見知らぬ人ではない。同じ講義を受けているんだから、何度かは顔を合わせたことはあるんだけど、話したこともないような男の人。
「この魔法術式がうまく起動しないんだけど、どこか魔法構造の取り入れ方が間違ってるかな?」
そう言いながら、魔法術式を記録した媒体が目の前に映し出される。
魔水晶に登録するのはその構造や術式を秘匿する為であって、実際魔素を用いれば構造でも術式でも空に映し出す事はできる。ルージュを召喚した時みたいに、魔法構造や術式として成り立っていれば、後はそれぞれ発動させるだけの魔力を流し込めば魔法としての効果が得られるわけだ。
「あ、えっと……」
「あ、それ私も私も~」
名前も知らない男の人の急な質問にびっくりしながらも答えようとすると、それを見た他の生徒が寄ってきた。何が何かも判らないうちに囲まれてしまう。
ちなみに講義中ではあるけど、これも実技の一環。講義だからって、生徒同士で疑問を解決しちゃいけないなんてことはないんだよ。
「この魔法術式だと、こっちの構造とこっちの構造で同じ記述があるので……」
「ふむふむ。なるほど」
「術式に組み合わせるには、構造の意味を捉えて構築しないと……」
「あ~だからこっちとこっちじゃ接続が違うんだぁ」
「ですので……」
「へぇ~なるほどねぇ」
最初に魔法術式を見せてくれた男の人に続くように取り囲まれ、なぜかボクがそれに答えていく。進度的に1年生が多いのは確かだけど、そこに上級生も含まれていた。
「教えることは自分の復習にもなりますから、理解が深まります。良い事ですよ」
囲まれているボクを見て、講師が助けてくれるのではなく促してくる。
なぜだ。
「そりゃそうだよ。君、魔法構造を構築できるんだろ?」
「……へ?」
またいつもの癖で疑問が口でも吐いていたんだろうか? 突然目の前の先輩らしき男の人にそういわれ、思わずそんな声が出てしまった。
「いや、流石に皆わかるでしょ。学園祭のトーナメント見てれば、君が特殊魔法を持っているだけじゃなくて、自分で魔法構造や魔法術式の記述ができるんだなってことくらい」
「……あ、はい……」
魔法構造や魔法術式の構築は、グリエンタールのスキルリストにもあるように、そもそも才能を持つわけでも無ければ、未だ解明されきっていない分野なのだ。ボクがフラ先生に教えることがあるように、そもそもこの世界の科学知識では魔法構造の解明には至らないから当然なんだけどね。
まぁ、そりゃあ……そうだよね。
あんだけ人前で辞書に載っているわけもなく、誰も見たことのないような魔法をばしばし使ってたら、誰でもその答えに行きつくってものだ。
実際見たことのない魔法は特殊魔法ってことで隠し通す事もできたんだろうけど、それにしたってボクが学園祭のトーナメントで使っていた魔法は多様過ぎたようで……。自分たちが扱える特殊魔法なんていう技能なんかより、皆からしてみればボクが魔法構造・魔法術式の構築ができるって事の方が重大なことだったらしい。
実際、ボクの特殊魔法だと思われている設置盾なんかより、絶対零度の方が皆に与えた衝撃が大きかったらしく、それも凍結と言う事象をすぐさま消し去ったことから、分かる人には分かってしまったのだ。そしてここは魔法学園。ここに通っている時点でエリートさん達なわけで、そのほとんどが“分かる人”なのである。
「でさぁ~、これってなんで次元魔法が必要なワケ? 意味わかんないんですけど」
「いや、それよりもこの魔法術式に組み合わせる次元魔法の強度は……」
「ねぇねぇ。イオネちゃんって彼氏いるの?」
「あはは……えっとぉ~……」
もうバレてるなら仕方ない。
一つ一つの質問に答えていく。
おい、ちなみに最後のやつ。
イオネちゃんに彼氏はいませんよ!
面白そうだから手伝いますけど!?




