これからのこと。これからのボク。
皆と一緒に驚いた顔を見せていたシルと目が合うと、シルの眉間に皴がよってジトっとした目が色々と訴えてくる。
「レティ。お説教は後にしてあげるから、報告を続けてくれる?」
えぇ!? そんなぁ!?
って顔を返して訴えてみるも、ボクとシルの向いている方向が一緒なのだ。
シルが前を向いてしまうとボクの訴えは虚しく空を切るしかないらしい。
……ギルドに派遣されてロトに行ってきた先でいいようにこき使われて、なんか最後に渡された指輪で怒られるとか……。今度のはボク、全然悪くない気がするんだけど……!?
「シ、シル……あの……」
「続きよ?」
「あ、はい……」
有無を言わさない圧に負け手元の資料に戻ると、誰に促されるでもなく席を立っていた皆がそれぞれ、自分の元居た場所へと戻っていく。指輪は王様の手元で指輪ケースに戻しておいてあり、ボクが仕事を完遂しない事には戻ってはこなさそうだ。
その後は、今まで聞く耳を持たなかった貴族も何故か……というか、明らかに指輪効果でボクの報告をまともに信じてくれるようになり、一つの報告に十も二十も質問が飛んでくるようになった。
なぜかそれでも指輪の事に触れられないことが恐ろしくもあるんだけど、ボクもセクハラされながら押し付けられただけで何が何なのか知らないので答えようもない。
現状のフリージアとカルセオラリアの予想戦力なんかがルージュ達の仕事で纏められていて、それを自分でも驚きながら読み上げていく。
今更ながらに信じられないと驚く人たちと、それぞれ何かを考えこむ人たち。
一通り資料を読み終え、ボクが応えられる質問にはボクがルージュの支援を頭の中で聞きながら答え、国政やら国庫やら軍備やらと国に携わるような、ボクにはわからないことに関してはシルや王様が応えつつ質疑と応答を終えると
「ありがとう。下がっていいわ」
とシルに言われたので、リンクの横へ戻る。
リンクが何やらニヤニヤしてるってことは、まぁ指輪の件は取り返しのつかないようなミスをしたってわけではないらしい。もしなんかやっちゃってたら、前にラインハート領で王様に会った時のように『やっちゃった顔』をするだろうしね。うん。
主導権がシルに移ると、討議の中心はシルへと戻り、また色々と難しい話を踏まえて会議が進んでいく。それぞれ座って会議に参加している貴族の人達が、後ろに立っている護衛の人達と相談を始める光景が見受けられるようになった。
議論は白熱し、すっかり日も登りきったところで一旦お開きとなった。
「どう思ったかしら?」
王城には、それは多くの貴賓室であったりという来客用の部屋が存在する。今回みたいな国の重鎮みたいな人が集まる会議があれば、休憩室としてそれぞれに一部屋ずつ振り分けても余りあるほどで、そのうちの一つへとシルが歩いていくのについていくと、部屋の中へ入り扉を閉めて開口一番、そう聞かれた。
「どうって?」
指輪の事でいきなり怒られるものだと思ってたから、ちょっと戸惑ってしまう。
「今日の会議のこと。それと参加していた方達の印象よ」
そう言われ、今までの光景が頭を過ぎる。
「ん~……なんか、他人事だなぁって。まぁ、まだロトとフリージア・カルセオラリアの戦争なんだからグルーネは直接関係ないって思っちゃうのもわからなくはないのかもしれないけど……」
別に、皆が皆そうであったわけではない。
けど、特にシルに対してあまり良い感情を持っていなさそうな人たちは、ルージュが作った資料に目を通しても、そこまで深刻に受け止めていたとは到底思えなかったのだ。
途中でハルト将軍からもらった指輪を見た途端ちょっと態度が変わったとはいえ、国王を含めた一部の人達はかなり問題として大きく受け止めていたわりに、その人たちが最期まで白熱するようなことがなかったのは、いくらボクでもちょっと気になった。
「ええ。その通りね。最初に訂正しておくけれど、今日集まっている貴族達が国の中枢ではないから、あれをみて失望するのはだめよ。どちらかというと今日は、私をよく思っていない方々をご招待しているのだもの」
「え? そうなんだ……」
なんで?
そう思ったけど、ボクが聞いていい事なのかわからなくて聞くに聞けない。
「とても判り易かったでしょう? あの人たちは賢王がグルーネという国を改革した際、粛清の対象となった貴族家の子孫よ。あからさまに私……と言うよりも、賢王の子孫のことを嫌っていたでしょう? まさか王族にあからさまな態度をとるわけにもいかないから、まだちゃんとした貴族でもない私にはなおさら」
「粛清?」
「ええ。以前、貴女に賢王がこの国の王になったって話をしたことがあったけれど、賢王って元々平民の出だったのよ」
「うん。聞いたね」
確か、魔法学校に平民が入学するってことが賢王を思い出させるだとか、今の王族を含めたシルやフラ先生の先祖が賢王だとかっていう話。
「おかしいと思わない? 平民が王に成るなんて」
「え? ……あ~うん。まぁ、言われてみれば確かに?」
既に起きた史実であって確定した事象なんだから、誰がどう思ったところでどうにもならないわけで。そういうものだと伝えられたことに大した疑問を持つことも無かったけど、言われてみれば起きようのないことではある。
「だってそうでしょう? そもそもの話、国が豊かであればわざわざ平民が王に成る必要なんてないじゃない? どうしても王様になりたかったんだなんて夢物語を言われたところで、まともに運営されてる王国が認めるわけがないし、平民がどうにかして国王に成れたとして、その後誰が国を運営するのかしら。国の運営をしていた方々を蹴飛ばしておいて、出来るはずないわよね」
「……そりゃうん。まぁ確かに。……でも賢王が王様になったってことは、そうじゃなかったってことなんでしょ?」
「その通り。平民が王様になるってことは、クーデターが起きたって事なのよ。……本来なら、クーデターが起きて例えばその指導者であった平民が王族を乗っ取ったなんてことになってしまったところで、それこそ国の運営なんてまともにできるわけないのだけれど。……そこが賢王のすごいところよね。膿を出して、使えるものは平民であろうが貴族であろうが、何でも使って国を立て直したらしいわ」
「じゃ、そこで使い潰された貴族って言うのが?」
「そ。さっきの方たちのご先祖様ってこと」
そもそも腐りきっていて国を侵食していた貴族家は、クーデターが成功した時点でもう貴族ではなくなってしまうのだから。それでもまだ能力があるとして賢王には認識される程度ではあった貴族だから、今でも御家が残っているんだろうけど。とは言え、そりゃシルや今の王族は嫌いだよね。だって賢王の一族だし。
「でも、笑えたわね。貴女、よくそんな切り札用意してたじゃない」
思い出したかのようにくすくすと口に手を当てながらシルが笑う。
どこが切り札なのかは知らないけど、まぁ何が切り札だったのかはわからなくはない。……っていうか、シルってば笑うどころか睨まれた気がするんですけど?
「いやいや、これが何かボク、何も説明されてないんだよ? っていうか、なんなの? これ」
「あら……? そうなの?」
ハルト将軍に渡された時、魔素を感じたから勝手に魔道具か何かかと思ってたんだけど。魔道具であればグルーネに戻ってから調べればある程度どんなものかは判りそうだし、あの時は将軍も忙しそうだったから色々聞かなかったんだけど、聞いておけばよかったな。
「それにしても貴女、いつロトの将軍位元帥様なんかと面識を持ったの? また何かやらかしてきていないでしょうね?」
「……え?」
将軍位元帥様って何のことよ……
「その指輪。ロト国との友好の印で、グルーネでも王様である叔父様、唯一人しか持っていないような代物よ?」
「友好……? ……王族!? え? ハルト将軍って人だよ? 将軍だよ? 将軍」
ボクだって騎士位将軍みたいな地位を一気に与えられたわけなんだから、なんかシルやみんなの思い描いてる人が同じ人だとは到底思えないんだけど……
「ええ。だからハルト・ジ・ブレンズガスト様その人で間違いないわよね」
「……????」
どうやら人違いじゃないらしい。
フルネームなんて知らないし、そりゃなんか軍部でお偉い人だとは思ってたけど……。にしたって、そんな大層なもの、ほいほいボクに渡してよかったの……?
「まぁ、いつもの事よね。何があったのかしら? 話してみてくれる?」
いつもの事として納得されるのは、ちょっとボクとしては納得がいかないんだけど。とは言えボクだって何も知らないのだ。そんなことでお説教されたとして、ボクだって反省のしようもないわで。一から簡単に説明していく。
「なぜ、相談しなかったの?」
一通り話し終えると、シルが怒ったようにそう呟いた。
勿論、本当ならそんな危険な場所へ行くのにボク一人の判断で色々するより、転移のスキルだってあるんだから先にシルに確認を取ることだって可能だったとは思う。
じゃあなぜそれをしなかったのか?
前回のモンスターパレードの時に、シルの命令を無視してロトの国内に違法入国していたことを突っつかれていい様に使われたから?
冒険者ギルドの依頼とは言え、ロトにいって今度は軍に捕まってしまって。怒られると思ったから?
……どちらかと言うとそうではない。
格好をつけたかったのだ。
特殊なスキルや魔法しかないボクが出来ることって、明確に限られている。
その中でボクの周りに沢山いる本物の天才達に見栄を張って、対等な場所に立っていられるためには……せめて自分の能力で出来るだけの結果を持ち帰らなきゃ、自分の価値を自分で信じられないから。
「ご、ごめん……」
「……」
シュンとしながら俯いて上目遣いに顔を覗き込むと、シルと目が合う。
「……ま、いいわ。今回は思っていたよりもあの方達にダメージを与えられたわけですし。何より今回は怪我もしていないようですものね」
「あ……うん」
ボクの心配をされているのだと知り、少し後ろめたさも感じてしまう。
あの黒白髪の女の子の目が、ボクの目の前にドアップで映る光景が一瞬脳裏に浮かぶけど、危なかったなんて今更言えそうにもない。
「……ちょっと。なに? 危ない事もあったのかしら。次から危ない事する前に、絶対私にとまでは言わないから、フラさんですとか、リンクだっていいわよ。誰かに相談くらいしなさい。」
「……あはは……はい。わかりました……」
笑ってごまかすボクと、細くなっていくシルの目が合うことは無く。
項垂れながら頷く。
「それで。先ほどの話に少し戻るようだけれど。グルーネが腐っていたころ、その腐らせていた貴族達が媚び諂う先って、どこだと思う? 国が崩壊してしまう程に腐っているとわかっていて、自分さえ良ければいいと思っていたのだから、崩壊しても次の当てがあったってことよね?」
なんだか諦められた空気を感じたけど、そう聞かれればグルーネの立地上一番最初に思い当たる相手は……
「……ロト?」
となるわけで。
「そ。だから、貴女のそれ。あの方達にはとてもじゃないけど無視できない物なのよ」




