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魔法学園の制服は、可愛いんだよ?

「……悪いな。そうと分かったなら俺もこんなところで書類作業なぞしてはられんのだ」


そういいながら立ち上がる将軍が、部屋の隅にまとめてあった荷物を手に取り始めると、ゴトンと机の上に袋の塊を置いた。


「報酬だ。誤情報の詫びも入れてある」

「……うん? 報酬なんてあったんだ」


「ああ。もう、渡せない奴らの分も一部含めるが、残りは遺族に渡さないといけないからな。情報の価値的には少ないが許せ」


まさか罪人よろしくここまで連れてこられて、半強制的に戦時中の対戦国の中枢まで派遣させられたわけで、いいように使われるだけだと思ってたんだけど、そうでもないらしい。違法入国罪の免除が報酬なんだと思ってたんだけどね。


「うん。じゃあ貰っておこうかな」


お兄さん達が本来貰うものだったと聞けば、これはご遺族さん達に全部渡してって辞退するのが正解なのか、それともこれを貰わないことがお兄さん達への冒涜になるのだろうか。

国の宗教や矜恃で変わる常識を、ボクが知る由もない。

将軍が貰っておけというなら、貰っておいた方がいいのだろう。


「ああ、それとこれもな」


そういうと、ハルト将軍がごわごわした将軍服の懐から小さなものを取り出すと、ボクへと手渡す。将軍の座っていた机とボクの立っている扉のど真ん中にはソファとテーブルがあって、既に出立の準備が整っていたのであろう将軍がこちら側に歩いてきてボクの胸に押し付ける。


セクハラか?

とか一瞬思ったけど、至って真面目そうな顔をしているあたり違うのだろう。

……違うよね?




少し丸みがかっていて、下は平らになっている小さな箱

まるで指輪のケースのようなんだけど……?

っていうか、それそのものな気がするんですけど。


ボクがその小さな箱を受け取り、そのまま次元収納に仕舞うとハルト将軍の顔が不思議な物をみるように驚いてみせた。


「開けないのか?」

「え? うん。開けたほうがいいの?」


まぁ普通なら聞かれる前に報酬だって言われて小箱渡されたら開けるだろうけど、今はハルト将軍も急いでるだろうし、ボクもこの後報告もあるし。そもそも単なる指輪なんてこんな状況でボクに報酬として渡さないだろうから、説明とか聞いてる時間もないよね? って思っただけなんだけど。


「いや……それでいいならいいか」


ちょっと困ったような難しい顔をしながら、扉を出て行こうとする。


「なぁに? 婚約指輪でも入ってた?」


くるっと振り返りからかってみる。

この人薬指に指輪つけてるんだけどね。


「馬鹿言え」


そういえば、この世界にも婚約指輪みたいな伝統があるんだね。




バタン


とボクが入ってきた扉が閉まると、居心地の悪い視線を感じる。

この部屋の中にいるのはボク以外に4人。

誰も視界には映らないけど、ボクのクリアみたいな魔法とは根本的に違って、どちらかというとスキルの認識阻害の類なんだと思う。さっきみたい認識させようと思えば目の前に見えるようになるあたり、こういう部屋で暗殺みたいなのを防ぐには相当優秀なスキルだと思う。まぁ逆としての利用価値も高いだろうけどさ。


「あ~……お邪魔しましたぁ……」


小声でそう言いながら扉を開けた瞬間、ふと脳裏に過ぎった。


「……」


どうやら将軍に転移スキルのことバレているらしい。

そうでもなきゃ、いくら護衛みたいな人が部屋にまだいるとは言え、部屋主が来客よりも先に出ていかないよね? しかも、扉の前にいてボクが出ていくことくらい予想もつくだろうに、扉が閉まっているのだ。なんとなくそんな気がするのも、あながち間違いってわけでもない気がする。

転移しているところを見られた記憶はないけど、どっちにしろグルーネでもそこまでバレてないんだから、こういうスキルか魔法かなんかが使えるのかな? 程度ではあるだろうけどね。


まだ用事もあるので砦の外へ転移で出ると、町はもう明かりがまばらなくらいの深夜になっていた。人通りなんかも殆ど無くて、消えそうな蝋燭の明かりだけがゆらゆらと揺れている。


「さすがに、もう冒険者ギルドも開いてないかぁ」


夜が深けて誰もいない静かな夜に、独り言って寂しく耳に残るよね。

一度冒険者ギルド戻るつもりで来て見たものの、クランの人達が待っていてくれることもないだろう。そもそもギルド自体もう閉まってるんだし。変な連れ出し方をされたせいでちょっとモヤモヤするけど、仕方ないか。




ロトから見てグルーネは、これから日が昇ってくるであろう方角からすれば、真逆の位置。

……なんとなく、転移で戻りたくなかったボクは、ゆっくりと歩き出し……自分でも気付かない間に走りだしていた。


なんでだろ。

転移で安全な自分の部屋に、簡単に帰れるって言うのに。

外の風が、なんだか気持ちいい。


「あ~ぁ。雨、降ってきちゃったなぁ……」




本当であればすぐにでも帰って、すぐにでもシルに色々話しておいたほうがいい事ばかりなんだろうね。この時間なら帰ればシルも部屋にいるだろうし、起こせばすぐに起きてくれるだろう。今カルセオラリアで起きている現状を鑑みれば、報告は一刻でも早い方が本当はいいんだろうけど……。


ボクの心が、まだこの広くて寒い風のどこかを彷徨っている気がする。

心と体が離れてどっかにいっちゃったみたい。


今だけは、少しだけ1人でいたい。

そう思ってしまったのを察したのか、ボクの影から3人の気配がふっと消えてしまった。


なんでだろうね。

察してくれるこの天気が、雨でボクを責めてくれるのが……。

なんだか……ありがたく感じたりもする。




……



……



……




結局、ボクがグルーネに着く前に夜は明けてしまい……。

今日からまた1週間が始まって学園にだっていかなくちゃいけないのに、こんなびしょ濡れのままじゃどうにもならないから、結局転移で直接寮まで戻る。


お風呂場に転移して扉から少し顔を出すと、ベッドの中にシルの姿は既に見えなかった。もう日が昇っている時間なのだ。きっと生徒会かお城の会議に出ちゃったのだろう。


「レティ」

「っうわぁ!?」


ベッドの方を覗き込んでいると、逆側から声がして思わずびっくりしてしまう。


玄関の薄暗い空間にシルが立っていた。

雨が降っているせいか、まだ日が昇りきっていないのもあるのか……。

薄暗い空間に黒髪の長い女の子が立っているって、軽い程度ではない恐怖だよ!?


「シ、シル! いたの? びっくりしたじゃん……」

「いたわよ。今日はこれから王城で会議があるのよね」


「うん……? いってらっしゃい。なんだか大変だね」

「そうなのよ。丁度よかったわ。貴女も来なさい」


「……へ?」


まさかお城の会議に来いなんて言われるとは思ってもいなくて、理解するのに脳が一旦停止した気がする。モンスターパレードの時に報告で顔を覗かせる程度の事はあったけど、あれは本当に単なる報告だけだったし。そもそもボクが会議に顔を出しても、なんの意味もないんだよ……?


「シャワー浴びてからでいいわ。(わたくし)は先に行っているから。王城の会議室よ。(わたくし)がいる場所、貴女ならわかるでしょ?」

「う……うん……。まぁ確かに判る……けど……」


なんでだろ?

なんだかシルの空気も少し重く感じるのは、ボクが所謂ブルーってやつだからなのかな? 自分の空気が暗いから、見える景色も暗くなったりしちゃってる的な?


「それじゃ、ちゃんと来るのよ」


そういい残して、シルが扉の向こう側に消えていってしまった。

なんでこのタイミングで会議に呼ばれるのかな?

シルが出ている会議って言ったら、そのままこの国の中枢で行われている会議で間違いないはずだし、ボクに用があるとも思えないし。


「…………さっぶ」


まぁ来いと言われれば行くしかないわけで。

ボクもシルに報告したいことがあったんだし、丁度いいといえば丁度いいんだよね。



転移でシルのいる場所に行くのであれば、ボクが急いで支度をする必要はそこまで無い。少しゆっくりシャワーを浴びていると、気を利かせてくれていた影の中に、3人の気配が戻ってきているのにふと気が付いた。


お湯にあたって見上げる先に、魔導具のまん丸い光が見える。

ルージュの召喚陣と同じ光なのは、これが魔素による自然な光だからかな。

優しい光。

少なくとも、ボクにはそう感じる。


「……赤い……魔法陣ねぇ」


本当に赤い月っていうのが血法の魔法陣だったのかは、実際見たわけじゃないからわからないんだけどね。もしもそんな大きな物体がカルセオラリアの空に浮かんだとするのであれば、やっぱり近隣諸国で観測すらされていないってのはおかしいと思うんだよね。だから逆説的に魔法陣の光なのであれば、自分達が見上げた空一面に写るだけだから。そこまで遠くで観測されていないって言うのにも説明がついちゃうんだよねぇ。


でも……そうなるとさ。あの時言われていたバルハリトの脅威って、聞いた話が本当なら人類が絶滅するくらいの脅威って話だったわけなんだよね。ってことは、血法って言うのが魔法とどのくらい違うのかはよくわからないけど、魔法陣の大きさが同くらい大きかったと仮定すると、同じくらいの魔力を持ってたってことになるわけで。


そう仮定すると疑問なのは、あの白黒髪の女の子がバルハリトなみの脅威だったのか? って話と、そもそもそんな極大魔法使ってやることが国民のモンスター化なのか? って話なのよ。

あの時あの女の子がどれだけ本気だったのかはわからないけど、バルハリトが最初に召喚された時ほどの脅威を感じたとはどうしても思えないし、だとしたら国民をモンスター化させる為に魔法使ったって話になるんだけど、何のために?


生きてる国民が強くなるのはわからなくもないけど、あれじゃ戦争に勝ったところで勝った後、何も残らないじゃない。




「ふぅ……」


シャワーを浴び終えて制服に着替えると、シルが王城の一室に入っていくまでグリエンタールを確認しながら待つ。あんまり早くに移動しすぎても、後を追っている間に色んなものをすり抜けたり避けたりしなきゃいけないから、結局のところシルが目的地っぽいところに、ちゃんと着いてからボクが移動した方がいいからね。


まぁピースが揃わないうちに判らない事であーだこーだ考えてもしょうがないし、それにボクのお仕事的にはピースを揃える方であって繋げる方ではないわけで。無駄なこと考えてるよりも、そのピースを渡すためにシルを追う方が建設的だよね。


とりあえず魔法で姿を消しておいてっと。


王城の会議室かぁ。

転移ばっかり使ってると、運動不足になっちゃうかな?




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― 新着の感想 ―
[一言] ロトでの偵察依頼の報告を終え、ハルト将軍に報酬を口実に指輪を渡され遠回しな告白を受けたレティ! だが、レティの鈍感とロトの告白なんか知らないから全く気が付かない。 いやレティは密偵さん達を見…
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