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守りたい命と、犠牲の狭間で。

シトラスの腕って、一体どうなってるのかな?


よく聞く悪魔のスキルの一つに、腕や手といった体の一部が変化するっていうのがあるのは知ってるんだけどね。大きくなったりだとか、爪が伸びたりだとか。

それでも一般的に悪魔の手って言うと大体左手の事で、悪魔が戦闘で主に使ったり、器用に操るのは大体左手だったりするんだけど、シトラスはどうやら左手だけじゃなくて全身の一部を武器の如く扱えるらしい。

全身の一部って、それってつまり全身じゃん。って思うかもしれないけど、全身を一度に武器として扱えるなら最初から一部を大きくしたり特徴化したりなんかしないだろうから、消費魔力量の関係なのか、それともスキルの制約上の話なのか。とにかく、全身を武器化できるみたいなんだけど、それが全て同時にできるわけではないらしい。

もちろん腕や手だけじゃなくて、足だったり胴体だったり頭なんかも含めて。


腕が太くて大きくて硬くなったり、逆に細く鋭くなったりだとか。結構自由自在で武器要らず。そりゃ便利そうではあるんだけど……。まぁこんなスキル? みたいな特徴を持っているのであれば、基本的に武器を持って戦う必要が無いわけで、シトラスは余程の事でもない限り武器を持って戦ったりしないわけなのよ。むしろ武器を持つって事は制約が生まれるわけで、シトラスからすれば弱体化に他ならないわけなんだけど……。


ただ、そうとはわかっていても、よ。

刃物がシトラスに突き立てられている様を見るのは、精神衛生上かなり怖い。特に、今までならこんなに怖くは無かったことだとしても、相手の力がボクの想像を遥かに超えるような相手であれば何が起こるかなんて想像もできないわけで、いくらシトラスが戦闘に特化した悪魔だとしても心配にならないわけがないのだ。




シトラスに武器を捕まれた女の子が、シトラスから鎌を強引に引っ張り上げ奪い返す。それだけでも腕力がシトラスと対等かそれ以上ないとできないんだけど。

奪い返してからそのままシトラスを切り付けに掛かかり……シトラスの右腕がまたもや鎌を止める。まるで金属と金属がぶつかったような、甲高い音が辺り一面に響いた。


柄ではなく、刃を。

しかも腕で受け止めるのだ。


蹴りがシトラスの空いた腹に入ると、2人の距離がまた空いた。

蹴りを食らったシトラスも、ダメージを受けた様子はない。




心配しているのがルージュ達にも伝わったのか、ルージュの手が肩に掛かるのを感じたことで、自分の肩が少し下がった。緊張で固くなっていたことに自分でも今気づく。


シトラスとシエルは、ボクからしてみれば第2の弟妹みたいなものなんだよ。

そんな家族にあんな仰々しくて禍々しい赤い鎌が振り下ろされたら、怖くてたまらないでしょ。普通に……。


「あぁ……? へぇ貴女もしかして……あっ、なるほど。飼い主はあの子かぁ」


ふぇ!?


戦闘中の小声が、なぜか綺麗に聞こえてくる。

鎌を受け止められて硬直した姿勢のまま、ぬめっとした動きで赤い瞳がボクを一直線に捉えて……目が合ってしまった。

目が合った瞬間、ものすごく薄ら寒いような気配を感じてしまい、思わず目を反らしてしまった……。全身の毛が逆立つような感覚。


ガチャガチャと鎌を奪い合う力加減と、女の子の声のトーンが釣り合っておらず、シトラスの怒っている表情と女の子の嗤う顔が隣り合って、余計不気味に際立つ。




飼い主ってことは、シトラス達が契約精霊なことはわかるのだろう。ボクを護るように構えているルージュとシエルを見ていれば、明らかにボクがこの中でルージュ達にとって特別だってことは分かるだろうし、どうやって判るのかは知らないけどシトラスが精霊なんだって判るのであれば、戦い方から精霊種族も予想がつくということになる。


「ふふっ」


そう不気味に嗤った女の子が鎌をパっと手放すと、シトラスの手の中からも鎌が消えていた。魔法創造物なのか、そういう特殊な効果を持った武器なのか。

そのまま女の子が後ろに少し下がると、初めてシトラスとの距離が開く。


静まり返る中、女の子の視線がボクを捉え、その間にシトラスの後ろ姿が導線を切るように入ってくる。




「主様。今のうちに。あれと接敵するには時期尚早かと。この場はすぐにでも転移を」

「……え?」


ルージュのその言葉に、一瞬自分の耳を疑ってしまった。

ルージュ達がいれば、あの地獄のようなモンスターパレードだって生き抜くことができたんだよ!? それなのに、1人の女の子を前に撤退を進言されるだなんて思ってもみなかった。


「……ルージュ達がいても?」


逃げるのは簡単だ。

相手の女の子はまさかボクが転移を使えるだなんて知りもしないだろうし、転移の阻害に動かれることは無いだろう。

……でも、逃げるのであれば……諦めなければならない。


「ええ。あの者が一人であればこの場を切り抜けることはできるかもしれませんが……。あの者は首魁ではありませんので」

「……え……? ええ……!?」


ちょ、ちょっと待って……貰うような時間が無いのは分かるんだけど……


まず、ルージュが「切り抜ける」って言い方をするってことは、戦闘が上手くいったとしても、倒すに至る確証は無いってことだ。ルージュ達が3人いて相手は一人。そりゃボクっていう弱点があるにはせよ、ルージュが相手の力量を間違えるとも思えない。


さらに首魁ではないってことは、もっと上がいるのだ。

あのレベル以上の仲間が最低でも一人はいるってことは……。相手側の仲間がここに来た時点でゲームオーバー。


……そっか。……諦めるとか、護るだとか。

そういう次元の問題ではないのだろう。

ここが強制敗北イベントの分岐点なのかもしれない。


「………………お兄さん」


自分でもびっくりするほど心無い声がした。

どこか俯瞰したような、まるで他人が出した声を聴いているようだった。

固まって動かずにいてくれたお兄さん達の、リーダーと目が合う。


「………………ごめん。なさい……」

「これを」


ボクの言葉を待っていたかのようにすぐに投げ渡された書簡を受け取る視界の中


また急激に近づいてくる赤い瞳と

シトラスの必至な顔が……


世界の向こう側に消え


視界が急激に開けた夜へと移り変わった。

岩場で、見渡す限り何もなく綺麗な星空が空一面を照らしている。




カルセオラリアの入り口だった。




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