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命を助けることが善意ばかりだとは限らないんだよ?

「お、おい……。な、なんだ? これ。新種の魔法……なのか? すげぇな……」

「ハルト将軍の隠し玉か? そんな部隊いるなんて聞いたこともねぇが……」

「いや、そういえば確かそんなような噂を聞いた事が……」


勝手な憶測が飛び交っているようだけど、ボクがまだロトの人間じゃないってことはこのお兄さん達には伝えてないんだよね。

まぁあえて言う必要もないことを、自分から言う必要もないんだから。

わざわざ言わないけどね。


あ、それとその将軍、なんか隠してる部隊いましたよ?

お部屋の中にね。







フローデン・ハーグ郊外


流石にロトで重要な工作員を任されるような人達であれば、追いかけられたりしてさえいなければ、全力疾走で街を抜けるのに2分も掛からなかった。

さっきまでボク達がいた場所に向かっていた追手も、こちらまで向かってくる様子もないようで、ひとまず安心といったところ。これ以上は魔力の消費が激しすぎるから、どこかでクリアの魔法は解除せざるを得ない。


本当ならせめて国境を抜けるまで、視覚だけでも維持しておいた方がいいのは確かなんだけど、何かね……。こう……途方も無く嫌な予感がするのだ。

こういう時のこの世界って、もうなんか義務かのようにフラグとか回収し始めるし。

恋愛シミュレーションならせめて対人のフラグだけ拾って欲しい物だよ。


まぁとにかく、魔力は極力温存しておきたい。




ボクがカルセオラリアの首都であるフローデン・ハーグに難なく潜入できたように、ここの地形は首都を抜けると山道が続いたり道の脇には林が生い茂っていたりと、視覚的には結構隠れやすい地形なんだよね。この人たちだって、ここまで潜入してくるようなスキルはあるわけだし、ここまでくれば一安心なのは確か。まぁボクに至っては、地形なんてお構いなしに、クリアの魔法で全て情報を遮断して潜入してるんだから関係ないんだけどね。


人里を離れて一息つく。

ここまでくれば流石に大丈夫かな?

首都が見えなくなる場所まで来たところでクリアの魔法を完全に解除。驚いたことに、ここまでで脱落したような人は今の所いないようで一安心かな。


ま、あとやることといえば。


「さ、皆さん。とりあえず、ここに横一列に並んでね?」


「ん?」

「ああ?」


今のこの状況下でボクにそういわれれば従わざるをえない皆が、ハテナマークを頭に浮かべながら横一列に並んでくれた。ニコニコ顔で一番右側のお兄さんの前に立ちます。


ぱちぃん!!!


「ぶべっ! いてぇ!? な、何すんだよ!!」

「はい次-」


ぱちぃん!!!


「うおぃ! ぶっ!」



「お、おい! なんだ!? や……やめろって!」

「あ。動いたらもっときっついのが後ろからくるから」


動きかけた1人のお兄さんがふと後ろに首を回すと、3倍くらいに膨れ上がった右腕を後ろに引いたシトラスがいつでも襲いかかれる準備をしております。


ニコニコしてて楽しそうだけど……あれ、手加減する気ないでしょ。

折角お兄さん達、ボロボロになるまでこんなにがんばって街を抜けられたのに、こんなところで死んじゃうなんて可哀想だね。……大丈夫だよ? 動かなければ……ね? ほっぺたがちょっと痛いくらいで済むからね?


「……ねぇお兄さんは背が高いから屈んでくれる?」

「……」


「ね? お兄さんはなんで殴られてるか判ってる一人だもんね?」

「……」


何も言わないお兄さんがボクの目線まで背を合わせてくれました。


っはい!!!


ばっちぃん!!!!


無慈悲にぶん殴ります。

いや、手加減とかしないから。

グーじゃないだけありがたく思って欲しいくらいだよ。


「あーもう、手がいたぁい」

「お、おい……なんで俺等殴られたんだ? なんか呪詛にでもかかってたのか?」


「ああ、お兄さんは~……単なるとばっちりだよ。連帯責任って奴? 他の皆に理由は聞いてみてね?」

「……はぁ? な、なんでだよ? おい……」


わかってるよね? って言われたお兄さんに詰め寄るけど、答える気は無いそうです。

答えないのが正解だからね。

よくわかってらっしゃるようで何よりだよもう。




「さて、気も晴れたことだし、ここからなんだけど……」


3人程何故殴られたのか未だに納得できていないお兄さん達を加え、林山道から少し逸れた場所に陣を敷いて座り込む。

まさか火なんか焚けないから薄暗い林の中、湿った地面が気持ち悪い……。

まぁそんなこと言ってる状況じゃないんだから、誰も文句は言わないんだけど。


元々首都にすら明かりが点いていなかったような国の、それも街道や道端すらもはずれた雑木林のど真ん中に明かりなどあるはずもなく。林の中は、月明かりが少し照らすだけで不気味な雰囲気を醸し出している。




カルセオラリアの首都フローデン・ハーグの場所は、ロトとの国境から見て東南の位置に存在している。ロトの東にあるアマツと、その真南にあるフリージアを挟んで、更に南下した位置。


「お、おい……なんでなんだよ……」


とばっちりを受けたお兄さんは放置しておくとして……。

ボクが今取れる選択肢は大きく分けて2つになる。


情報をこの場で全て聞き出して1人で帰還するか、お兄さん達を安全な場所まで送り届けるか。

そのどちらにせよお兄さんたちが持っている情報とやらは、あるだけこの場で貰っちゃうに越したことはないんだけどね。


そしてお兄さん達が取れる行動も2つ。

このまま北のアマツへ迂回しながら抜けていくか、それとも直接フリージアを通り抜けてロトを目指すかになると思う。


実際のところ、直接ロトを目指すのは現実的じゃないとは思うんだよね。アマツを目指して国境を越え、そこからロトに渡るのが一番現実的で一番安全な道のり。その道中にフリージアの国境をまたぐとは言え、その道中に主要な都市も無ければ、大した距離でもない。もっと安全に行くのなら、それこそフリージアも迂回してアマツからロトへ戻るのが一番安全ではあるだろう。


直接ロトへ抜けることが現実的ではない理由は、どこぞの国の工作員がフローデン・ハーグから逃亡した事が、既にカルセオラリアの元住民だったとみられるヴァンパイア化した人達にばれているのが確実だから。

追われてたんだし当たり前だよね。

もちろんそんな場所に危険を冒してまで潜入していたとなれば、彼等が一番最初に疑うのはロトの工作員だろうってことになるのが自然だし、次点で疑われるとすればグルーネの工作員となる。そうともなれば、北へ抜けてきてしまった今のこの段階で、西側のロトへ続く経路は塞がれてしまっているか、最低でも警戒されている事を予想するのは難しくもない。


ちなみに今ボク達がいるフローデン・ハーグの北側は、視界の悪い林山道になっていて、ここからは西に抜けるにしても、北へ抜けるにしても、当分視界の悪い林を抜けていかなくてはならない。

そんな視界の悪い場所で、もし待ち構えているさっきのヴァンパイアたちに見つかっちゃったりなんかでもしたら……?

そうなれば、お兄さんたちはバラバラに逃げるしかなくなり生存率はかなり下がる事になってしまうだろう。


それでもロト側へ直行する選択肢が消えないのは、今のこの状況はロトの密偵としていち早く国に報告する必要があるから。

まさか国民の全員がモンスター化しているだなんて事態は、さすがのロトだって想定もしていないだろうっていうのは、ハルト将軍がボクにフローデン・ハーグの調査に危険が少ないだろうって判断してた辺りから予測もできるし、もしそうなのだとすれば、想定していた戦争の規模とは全くと言っていいほど変わってしまい、状況が一変する話となる。もし報告が遅れることでロトがフリージア・カルセオラリア軍の規模を誤り後手に回るようなことになってしまえば、国の存亡を揺るがす大惨事を招きかねないのだから。


本来戦争に参加してくるはずのない一般の国民が、戦闘能力をもった兵として参列してくる可能性がでてくるだなんて、誰が想定するだろうか。

……なんかそこまで想定しそうな娘を知っているような気はするけど、それは置いておくとしてね。


そうなってしまってからでは遅いわけで、いざふたを開けてみたら桁が違いました! だなんて事態になってからでは対処のしようもない。そんな状況で悠長にアマツを経由しながら迂回している場合でもないのがお兄さんたちの心境。


そう考えると、どれだけ危険だろうとしても、お兄さん達としては直接ロトへ抜けるルートしかないって話になるんだよね……。さっきまで生存意欲を見せていた一番若い彼でさえも、アマツを抜けて安全に戻ろうだなんて言い出す雰囲気もない。




「まず第一に、ボクが皆を置いてハルト将軍に情報を持って帰る。正直これが一番お兄さん達の任務としても確実だし、ロトに情報がたどり着くスピードも可能性も極めて高い」

「じゃあ……」


諦めている表情でリーダーのお兄さんがボクに任せようと出てきた。


「でもボク言ってなかったけど、ロトの人間じゃないのよ。お兄さん達から情報をいただいたら、ロトに帰還する必要も無ければ、予定もないのよね」

「……は?」



一斉にお兄さん達がフリーズしてしまった。

本当は情報とやらを頂いてから言うつもりだったんだけどね。


まぁ……そりゃこうなるよねぇ。

こんな危ない場所まで助けに来てくれるような人が、他国の人間だ。なんて、誰が予想できるんだよって話だもん。




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