モンスターの表記は暗い赤なのです。
誰かが統治してるなら『未開拓地』っていう呼び方はおかしいよねって思うじゃん? でもまぁ人類が到達していない地域っていう意味では間違ってなくてね。
“未開拓地”だなんて呼び方されていはいるけど、人類は実際、その土地に足を広げてはいるんだよ。特にグルーネなんかは領土の相当部分が未開拓地と面しているんだから、一番調査に力を入れている国の一つで、それはロトだって一緒。
ボク達冒険者という職業の一つには、未開拓地の調査っていう仕事がある。
上級冒険者の集まりであるフラ先生のクランの人達をあまり街で見かけないように、その大半は未開拓地の調査を行っていたりするんだよね。もちろんモンパレが群を為してくるような方角なんだから、中途半端な冒険者にはこんな調査が依頼されることはないんだけど。
ボクとしては会った事もないんだけど、フラ先生の兄弟であるお兄さんの2人は、年間の殆どの時間を未開拓地の調査で過ごしているっていうのは割と冒険者界隈でも有名な話で、実際ボクも前に先生やクランの人達に聞いたことがある。フラ先生曰く、兄の2人は先生よりも冒険者として優秀らしいし、先生のクランで見かける人が割と固定的なのも、未開拓地の調査に同行しているメンバーは簡単に行ったり来たりなんかできないわけだから、当然といえば当然なわけだ。
最近ではそのお兄さんのうちの1人が王都に戻ってきていたらしいんだけど、先生がボクに紹介とかしてくれたわけでもないから面識がないんだよね。
まぁ別にいくら自分の講義を受け持ってくれていて、クランの人達とも仲良くさせてもらっているとはいえ、関係性としては学園の講師と生徒なわけだもんね。先生が生徒に自分の兄弟を紹介するなんて、相当仲がよくったって中々しないだろうし、おかしいことじゃないからいいんだけど。
先生曰く。
『自分の実力だと、未開拓地の踏破は難しいから外へは出られない』んだとか。優秀な冒険者ほど、自分の身の程をわきまえてるって言うのは本当で、冒険者は1つの判断で命を落としかねないわけだし。
まぁつまりは、トップクランのリーダー格でも難しいだなんていう土地の調査が早々に進むわけも無く。人類の知りえないどこかの誰かに統治されていて、領土を広げようと進出してしまうと危ない土地を総じて未開拓地と呼んでいるわけ。
それが人類よりも知恵のある生物なのか、それとも単純に強さが突出している生物なのかはわからないけど、今グルーネやロト北部に設置してある国境線を越えてしまうと危険度が跳ね上がることになるから、人類の統治する国と国との間を抜けるよりも、未開拓地の方へ抜けて行く方が実は申請とか警備が厳しかったりする。
モンスターパレードが毎年同じ時期に決まって攻めて来るのも、つまりは理由があるってことなんだよね。……どうやら、未開拓地の向こう側にいる統治者とやらも、今までのモンスターパレードなんかの規模を見る限りでは人類を滅亡させたいような侵攻は無かったし、もしかしたら楽観的に考えればそれができない程度の戦力なのかもしれないし、それこそ興味すら抱かないほど人類なんて矮小な存在だと思っているのかもしれない。そこの真実は未だわからないまま。それを調査してるわけなんだしね。
って! 今はそんな未開拓地云々なんて言っている場合じゃないんだよ!
一国がこんな事になっている事の方が重大なことなんだから……
「うわぁ~……」
グリエンタールを開いて街マップを確認してみる。
おびただしい数のモンスター表記が重なっていて、グリエンタールのマップ自体がモンスター表示の赤で染まっているのを見ると、軽く背筋が寒くなってくる……。スタンピードのレベルじゃない。軽くモンスタパレードってくらいの量のモンスターが、どうやらそこかしこにいるらしい。
ルージュも危険は少ない様なこと言ってた割には、全然そんな感じしないんですけどねぇ……。
今ボクのいる大通りでは、視界の中にはモンスター化とやらに失敗した肉片や死骸が大量に転がっていて、それを片付けているモンスターは見えるものの、そこまで大量のモンスターが見えるわけでもない。それなのにグリエンタールのマップ上にこれだけの印がでているってことは……。
「地下?」
「そうですね。大量に」
廃墟と化している首都と、明らかに開発されている地下。
正直、わざわざこの下まで潜りたいだなんて気にはなれないんですけど。
「ねぇルージュ。まだモンスターに成っていない、人の気配みたいなのって探れたりする?」
「それでしたら私よりもシエルが得意かと。代わりましょうか?」
「あ、うん。お願い」
こういうのを念話って言うのかな?
声を通さなくても意思の疎通が成立するのはとてもありがたい。
別にクリアの魔法で音も姿も魔素の流れも全部遮断した所で、場所とか時間を決めて集まったりだとか、現地の物に何か暗号を書いて意思疎通を図ったりする事だってもちろんできなくはないんだけど、ボクと契約悪魔ちゃん達の間だけであれば姿が見える必要も無ければ声が聞こえる必要すらなくなってくれる。
魔覚とやらを遮断してもどこにいるのかなんとなく感覚で分かっちゃうし、離れ離れになったとしても契約悪魔ちゃんからボクへは一瞬で移動できるし、ボクだって行ったことのある場所であれば転移できるわけで、こそこそ移動している間に見つかるなんていうリスクがものすごく低かったりするんだよね。
グリエンタールと白亜のスキルは別枠だから、こんな相乗効果が生まれたのは、ボクが偶々ルージュと契約できたおかげなんだけど。
ありがたや。
あ、ちなみに魔覚を遮断するクリアの魔法は、ものすごい魔力回復量を削られるみたいなんだよね。自分一人に掛けるだけで、ルージュが外に出ているとほぼ魔力回復量がなくなってしまうくらい。
だからシエルが外に出るには、ルージュが交代しないとボクの魔法回復量はマイナスになっちゃうってわけ。だからルージュは影の中へ戻ってくれたんだよ。
実際2人が外に出ていたところで、そもそも2人とシトラスのおかげで魔力量が莫大に増えてるんだから、そこまで長時間でもなければ大丈夫ではあるんだけど、何が起きるかわからないような敵地のど真ん中で魔力消費を抑えておくに越したことはないわけだし。
あと、ルージュ達が割とボクの魔力が消費されるのを好まない傾向にあったりもして、3人が出てくるのに気を使ってくれてる面もあったりとかもするんだけどね。
「はいです!」
どうやら出てくる前からルージュにクリアの魔法を掛けてもらっているらしくて、声は頭の中に聞こえるけど姿や気配などは見えなかった。
すると、一瞬青い光が辺りに奔る。
「シエル。よろしくね」
「あ。モンスターになってない人……いますね」
「……はっや。1人?」
「いえ。複数人が一箇所にいます!」
この国へ来て一晩。ここで何が起きているのか正直全くわからない。
ルージュやシエル達は予測をつけてはいるみたいだけど、契約精霊の性なのか確定事項以外は聞き出さないと教えてくれないわけで、って事はまだルージュ達の中でも分からない事があるってことだ。
それでも、こんなモンスターの溢れている中で生きている人が一箇所に集まっている場所があるとするなら、絶対そこには何かがあるはず。
ハルトさんっていうおじさん将軍にも『人を見つけてくれ』って言われてるし、目的地はそこで間違いないだろう。
「よし! そこいこ!」
「あ~……ちょっとまずいですね。どうやら追われているみたいです」
頭の中で話しているせいか、どこら辺に行けばいいのかがなんとなくわかる。
つくづく便利よのぅ……。
「急ぐよ!」
「はいなの!」
……っえ?!
シトラス?!




