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外の世界はこんなにも恐ろしいのに。

うわぁ……。


廃墟化していた街を、怪しい空気の漂う中心部に向かっていくにつれ、どんどん増えていく肉塊と人の姿であったであろう成れの果て。

肉塊ですら人としてのパーツを色濃く残し、そのパーツのすべてが未だに()()()()()あたり、旧モノブーロ村の惨状よりも余程精神的に堪えるかも……。


カルセオラリアという一つの国。決して新興国でもなければ、そこまで小さな国というわけでもない国の首都が、こんな惨状下にあるだなんて……。今戦争をしているロトの人達でも、誰がこんな状況を想像できるだろうか。しかも2国間を跨いで突然の大変革と言っていい出来事が、ものすごいスピードで起こっているわけで。こんな異常事態、少しでも予兆なんかを観測できていたとしたら、わざわざルージュ達が直接この地まで偵察にきて状況を確認するまでもなかっただろうし、ロト国にだってもっと直接的な行動がみられているはずで、ボクがこんなところに行ってくれだなんて言われることもなかっただろうに。


そう考えると、もしも今の惨状を誰かが意図して起こしているものだとするのなら、シルやルージュ達ですら完全に意表を突かれたと言うことになる。


「あまり直視なさらないように」


やっぱり、ボクの精神が不安定になったりするとルージュ達にも何か影響がでたりするんだろうか。毅然を装っていても、ルージュ達にはわかってしまうようだ。

モンスターパレードの時は、殺らなきゃ殺られるっていう覚悟を持ってモンスターを殺していたっていうのもあったし、その時にでたモンスターの死骸は、軒並みルージュやシエル、シトラスが受肉の材料として消費しちゃったし、大小無数のモンスターがあまりに大勢いたせいで踏み潰されてミンチになっていくものだから、残骸は残っていても、それが元々どこのパーツで、どんな形状をしていたのかまで、ありありとわかるような形で残されていなかったんだよね。


もちろん戦後処理をしながら後片付けをしていた人達には、ちゃんと見てしまえばその残骸がどんな物であったのかなんて、わかっちゃうような残骸も少なくはないだろうし……むしろそれどころかものすごい大量にあったんだろうけど、それがモンスターパレードの戦闘中に気になったりすることはなかったんだよ。




それに比べて、今の状況はとても精神的にダメージが強い。

まず、あの肉塊から発せられているんであろう異臭もさながら、モンスターパレードの時と違って何が一番辛いかって、そのミンチになっている肉片のすべてが人としてのパーツの形状を保っているからだ。街のいたるところに人だったはずの肉片が散らばっていて、散らばる元になったのであろう本体と思われる肉片が蠢きながら道路わきで横たわっている。


散らばってしまっている部分の一部は、腫れ上がりながら膨れ続け、いつしか爆発しながらまた新しい肉片をばら撒いている。既に肉片として生を終えているものもあれば、バラバラなパーツの一部は本体が無いのにも関わらず、未だ蠢きを止めていないものまで。

それをゆっくりと片付けようとしているのか、一定間隔ごとにその死体を集めている人にしか見えないモンスター達が、まるで人とは思えない仕草で蠢くように生気の無い表情で何も言わずに働いていた。


外見は細い腕なのに、自分の身体ほどもあるような膨らんだパーツを片手で苦労もせず掴み上げ、軽がると移動させている姿は、正直見ていて信じられないような光景。まぁ何もかも信じられないような異常な空間なのは言うまでもないんだけどさ。……それでも肉塊が分裂していく速度が速いのか、放置されている肉塊のほうが多い状況だった。




今思えばきっと、ここへ来るまでに寄ってきた町々も最初はこんな状況だったのかもしれない。暗くて注意してみてこなかっただけで、町にも家の外壁には、いたるところに染みのようなものがあったのは確かに覚えている。その時はあまり疑問にも思わなかったけど、あまりに今の景色と一致しすぎてて、光景が重なってしまう。


それが今度は首都ともなれば、人口が違いすぎる。

これだけ道も壁も全て赤く染まっていれば、肉片なんかなくったって、夜だろうが廃墟のように暗かろうが気付かないほうが難しいというもの。それでも見なくていいものまで見てしまわなくていいあたり、ここにきたのが昼間じゃなくて本当によかったとは……思うけどね。


それぞれの町で、建物の量に比べて反応したモンスターの数が明らかに一致しないのは、戦争に駆り出されているだけじゃなくて、この状況も原因だったってこと。

首都の人口で一斉にこの“モンスター化”が起きれば、こうなる事は必然。いや、そもそも、そのモンスター化ってなんなのって話ではあるんだけど。


「何? なんなの? これ……。いつからこんな事になっちゃってたの?」


ルージュ達がフリージアやカルセオラリアを含めた近隣諸国を駆け回って情報を集めていたのはつい最近の事。フリージアとカルセオラリアにはもう人がいないかもしれないっていう情報はロトでも得られていたわけだし、ルージュ達が潜入を止めてからそう日も経っていない。こんな訳の分からないような状況になっていればルージュがボク達に報告しないわけもないし、そのルージュ達が再調査に来てるあたり、この惨状は本当に最近起きている出来事。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となるのだ。


「3日程前から始まり、昨日までの2日の間にはこうなってしまったようですね」


淡々と答えるルージュに少し違和感を覚える。

こんな大事件が起きているのであれば、自分のしていた苦労がもしかしたら無に帰してしまうかもしれないのに悔しかったりだとかしないのかな?

そもそも精霊にそんな感情はないのか、それとも……? もしかしてボクが今日一日ロトでクエストをしている間に、調査が終わってるとか……?




お互い姿や音に加え、魔覚も遮断しているというのにルージュのいる場所がわかるのは、それだけ強い契約をしているおかげなんだろう。

もちろんルージュ達側からも同じらしくて、ボクの事が見えているかのように近くにいるのがわかる。クリアの魔法で姿や気配を消してしまうと、味方にも判らないっていうデメリットがあるのに対して、こんなに便利な事ってないよね。


例えクリアの魔法をかけている張本人のボクにだって、当たり前だけど一旦魔法をかけてしまえば全然見えくなってしまう。とは言えグリエンタールさんには、その対策ともとれるような高機能マップスキルがあるから、実際ボク側からは位置の把握くらいはできちゃったりもするんだけど。




「2日の間にこんな状況になるなんて、ありえるの?」

「ええ。家畜を飼う必要もなくなったのでしょう」


「……」


ボクがこの世界に転生してきてから特に勘違いしちゃいけないのは、この世界で人類などという種族は、全くもって食物連鎖というピラミッドの頂点になんていないことだ。


頂点にいないどころか、その頂点へ手が届くような位置にすらいない。身体能力だけで言ってしまえば、自分達よりも小柄なモンスター種にすら負ける始末で明らかに下から数えた方が早いし、知恵を持っている分上の方にいけるかと思いきや、ルージュ達がこの世界に召喚されてきて最初から意思疎通できたように、知恵を持っている生物も決して人類だけではなく、その数も少なくはない。

それが、この世界における脆弱な人類と言う種族の置かれている位置。

それでも国としての大きな地域(なわばり)を領土として持ち、大きなコミュニティを形成することが成立しているのは、人類が人として生を受けたから……としかいいようがない。


人は人として生まれてきた時点で、全く見知らぬ他人であっても、ある程度人が人類としての仲間意識を持っている。これは生まれた場所や地域、はたまた家庭の環境や性別なんかによってもその結びつきはある程度変われど、人が生まれながらに人類を“自分と支配地域が被る敵”だとは認識せず、“共存するために協力できる味方”だと思って生きているのは否定できない本能ってやつだと思う。

……それなのに結局最終的には人同士で争うことを止めないのは、人類がいかに愚かなのかってことを象徴する欠点ではあるんだけど。


逆にこういう本能って、人類以外の知的生物にはあまり見られないんだよね。

例えばルージュは悪魔だけど、身内とも呼べるシエルやシトラスには仲間意識くらいはあったからこそ、ボクへ一緒に仕えてくれているように呼んでくれたわけなんだろうけど、ルージュって他の悪魔さんたちの事を、『悪魔』って呼ぶんだよね。

ボクが他人のことを『人類』とは呼ばないように、精霊はいかにそれが精霊種としても自分と同種の存在であっても、他の存在を仲間とは認識していないのがわかる。


ピラミッドの頂点と言えば、ルージュの前身であるバルハリトなんかはわかりやすい頂点の一人だったのかもしれないね。それが“ルージュ”という存在になった事でどれだけの力を手放してしまったのか。今じゃ測りようも無いけど、それでもバルハリトという主位悪魔は一人で人類を絶滅に追いやる事が出来る存在であった事は確かなわけで……。

それにルージュを例に挙げてしまえば人類の知恵や歴史などといった物が、この世界のピラミッドにとってアドバンテージたりえない事すら理解できてしまうわけだ。だって肉体を失っても存続できる種族に知恵や歴史で勝てるはずがないんだもの。


知恵とは歴史に学ぶものだ。

人類にいくらどんな天才が生まれようが、それはその時代における天才でしかあらず、その寿命は60年やそこら。その天才達の意思が後世に受け継がれて歴史を刻んでいくのだから。原始時代に火をおこす発明をした人間が天才だったのは確かであれど、現代では子供でも当たり前の様にそんなことができてしまう。


知恵を持つ生物というのは、その土台にどれだけの歴史というの名の積み重ねがあるかが重要なのに対して、我々人類はルージュ達いわゆる精霊種の十分の一の歴史すらもたないのだから。


ま、それを改めて考えれば、ルージュがボクについてきてくれている事自体が奇跡にしか思えないんだけど。

……ほんとに。なんで?

聞いてみたいけど聞くのは怖いから聞けないんだけど。


それに人類が太刀打ちできないのは、何も長い歴史をもっていて知恵を備えている種族達だけってわけでもないわけで。


グルーネやロトの北部に未だに開拓できていない未開拓地が広がっているのは、何も各国がそこまでの土地までしか管理できないから、だなんていう理由じゃなくて、“手を出すことができないから”なのだから。


そうでもなければ毎年モンスターパレードを受身で防衛なんかするはずないもん。エリュトスとの小競り合いじゃあるまいし。確かにモンスターパレードは冒険者の稼ぎ時みたいな扱いをされてはいるものの、今年みたいな状況は予測できたわけで。ってことは普通に国の危機を放置してるようなものなんだからね。出来ることなら原因を探してきてそれを潰してしまった方が遥かに被害も少ないだろうし、色々と都合や予定だって立て易いだろうからね。


じゃあグルーネやロトが、未開拓地に対して明確に国境を引いてるのはなんでかって言うとね?




未開拓地は、人類ではない種族が統治している土地だから。


なんだよね。






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