そして突然誰もいなくなった。
昨日分の投稿になります。
今日分はこの後投稿します。
「……」
山を下り、とりあえず麓にあった町を目的にしながら、グリエンタールさんのマップ機能を開き絶句する。
人がいない。
うん……そりゃ……ね。攻め入っている国側の行軍地で、しかも国境沿いなんだから、住民は皆避難してて当然でしょ? って言われればそれはそうなんだろうけど、明らかに町の規模やら家の数に比べれば暮らしている気配の数は少ないというか、ほとんどいないのは確かなんだよ?
でも違うの。
人がいないのよ。
ボクのスキルであるグリエンタールさんのマップ表示だと、全く面識もない人は黒、面識はあっても好感度の変動がない人は灰色、好感度の良し悪しで青色から赤色に変化するんだよね。
でも、ここで表示される生体反応のすべてが黒い赤。
これは散々見てきた間違えようのない表示。
……モンスターである証。
ちなみにボクが誰かからものすごく嫌われていたら最終的には同じような色の赤にはなっちゃうみたいなんだけど、今のところそんな表記は見たことないし、そもそも知らない国の来たこともない町の住人みんなにそこまで嫌われるような覚えはないんだよ!?
……ま、正直なところ、この結果は知ってはいたんだけどね。
ルージュからの報告で聞いてたし。
でも、実際シルへ報告してるのを横耳程度に聞いてただけなのと、自分の肌で感じるのじゃ全然違うもので……。
ボクが某将軍様に依頼されてすぐ出発しようとした時、あの人もなんとなくは知っていたあたり、ロトもこのことは、どこまでかはわからないけど知ってはいるようだ。
――――――――――――――――――――――――
「ねぇ。行けばわかるって何? 依頼をするならちゃんと知ってる情報くらい教えてよ。そういう曖昧な情報で依頼を出すなんてありえないんですけど?」
「う、むぅ……それはそうなんだが……」
強制イベントで強引に連れ出され、脅しともとれるようなお願いをされて気分が良いわけないところに、なんだか歯切れの悪い言い方をされイラっとしながらも、どうやら何かしらを伝える気はあるらしい。少し部屋をうろうろしながら、またボクの目の前のソファにどかっと腰を下ろした。
「いいか? 信じるか信じないかは自分の目で見てくればいい。そういう類の情報でしかないから、正直伝えるかどうか迷ったんだが……」
「……うん?」
「3日前……。突然カルセオラリアに潜入していたうちの工作員が全員消息を絶ったんだ」
「はぁ? さっきと言ってる事違うじゃん」
危険はないって話だったんですけど?
「まぁちょっと聞けって」
3日前って言うと、わりと最近の話。
ルージュ達もここ数日はもう周辺の国を調査して回ったりしていないはずだから、ルージュ達が引き上げた後の出来事ってことになる。
今の状況でカルセオラリアに工作員を潜入させているのはロトだけってことはありえないわけで、ロトの工作員が全員消息を絶ったともなれば他の国にも被害は出ているだろう。
もちろんグルーネだって送り込んでいるだろうけど、シルに渡してた情報はルージュ達が集めていたもので、正直人間の性能で悪魔ちゃん達以上の活躍なんて出来ないだろうから、グルーネで被害が出てたとしてもボクの周りの人達じゃないんだよね。
「うん……それで?」
「余りに突然の事でうちも慎重を期してこの3日間調査にあたったんだが……」
「うん?」
「カルセオラリアとフリージアには、今、人と呼べる生物はいないかもしれない」
「……」
ここ最近ずっとルージュ達が潜入してたんだから、その先の事実も知ってはいるあたり、シルがルージュからの報告をボクに聞こえるようにさせてたのって、こういう可能性を考えていたからなのかもしれない。
もちろん、こんなロトで強制イベントでスパイするなんて想定まではしてなかったかもしれないけど、ルージュ達と一緒にカルセオラリアに潜入する未来って、あの時点で想定できただろうし。
「驚かないんだな」
「……え? ……い、いや、驚いてるんだよ? む、むしろあまりに驚きすぎて理解できないっていうか、何言ってるんだろうって言うか……」
「……」
慌てて否定してみせる。
正直、今知り得てる情報はこの場で披露したくないし、できるものでもないからね。それに、ハルトさんもロトの将軍職。ボクのお飾り役職とは違って本物の本職で、この国では偉い方から数えて両手の指で足りる地位にいるような人だと思う。そんな人に強制連行されてこんなところまで連れてこられたボクが、他国のお偉いさんを前にこんな態度をとってるところを見ていれば、ボクにこの場から逃げ出す手段があるだろうことなんて予想はしてるだろう。
手枷と依頼は手段でしかない。
過剰に欲をかけば手に入るものも入らなくなるのだ。
その天秤を間違える人ではなさそうだしね。
少しハルトさんの目が細くなるのが横目で見えるけど、そこのところを買われて今回ボクに依頼をしてきたわけだし、ハルトさんからすれば図らずとも答え合わせになったのかもしれない。
「ええっと……それってつまり、そのカルセオラリアにいた人達が、突然人じゃなくなったってこと?」
「ああ……。その通りだ」
「え~? そんなことってある……?」
「だから行ってきてくれと頼んでいるのだが?」
「……」
「……」
明らかに「何か知ってんなコイツ」って顔を隠さなくなったハルトさんと目を合わせずに
「あ、うん。じゃあこのまま行ってくるね」
と言って飛び出してきちゃったんだけど。
後々よく考えてみたら、ボクもロト側の知り得てる情報ってのをちゃんと聞けてないんだよね。
勝手にハルトさんに答え合わせされて、自分たちの中で辻褄合わせられただけだったあたり、腹芸は向こうの方が上手だったのかも。
――――――――――――――――――――――――
ルージュ達の情報力はかなり特殊で、それに加えてボクの魔法もスパイ活動にかなり特化しているから情報収集力なら世界屈指と言っても過言じゃないとは思うんだけど、そうでなくても周辺国ならこの状況くらいは把握しているのかもしれない。
ボクだって事前に知ってたし、それを教えてくれたのはボクが契約してる悪魔ちゃん達なんだから疑いようもなかったのに、実際ここに立ってみれば感じるものが全然違う。
人でなくなった人達。
それなのに、町が荒らされた形跡も無ければ、むしろ争った形跡もない。
綺麗で整った違和感のない街並み。
戦争が始まったばかりとは言え、まだそこまで寂れていない町並みに違和感がないってこと自体が、戦時中の国境近くの町としたら大した違和感なわけだけど。
まだカルセオラリアに着いてもいないにせよ、ここからは敵地。
消えたままの姿で、誰もいない町を歩いて回ってみた。
扉が開いたままの民家。
中に入ってみても荒らされたような形跡は無く、食料の保管庫らしき場所に保管されている少量の食料がそのまま綺麗に並んでいる。
鍵の付いてる家であれ、窓から中さえ眺められれば問題なく侵入できちゃう自分に犯罪性能の後ろめたさで後ろ髪を引っ張られながらも、一軒一軒覗いて回ってみる。
べ、別になんか盗ったりとかはしてないからね!?
調査なんだよ? 調査。
大きな路地沿いの家を覗いて回ってみるも、やっぱりボク達の生活と何も変わらない。
街並みも、生活も。
大きな商店や武器屋さんだとか、各ギルドなんかも何も無いような。
田舎の街並み。
それなのに何が肌寒さを感じさせるかって、そのどれもがものすごく綺麗な状態のままであること。
生活感は残っているのに、生活していたであろう人がいないこと。今まで生活していた場所から突然、忽然と人が消えたかのような。そんなイメージすらしてしまうかのよう。
そして、町の中央にあるお屋敷のようなおうちにたどり着いた。
この中にこの町で唯一。
5つのモンスター反応がある場所に……。




