女は好きな人の為ならなんだってできるんだよ?
大体ね! ボクに協力を仰ぎたいっていうのなら、こんな重罪人みたいに市中連れまわしの刑! みたいにしながら連行なんてしなくたってよくない?
こんなことすれば当人の反感を買っちゃうことなんてわかってるでしょうに。
「でもね? 依頼があるなら冒険者ギルドで指名でもしてくれればいいだけだったはずだけど、なんでわざわざあんな連れ方したの? こんな連れてきかたされちゃったら、ボクってばこの街の人達に犯罪者として覚えられちゃったかもしれないんだよ?」
こんな外国の地でそんな覚えられ方をするなんて悲しすぎるんですけど……。
「……そりゃそうだろ。そうでなきゃ困る。お前が犯罪者として知れ渡るように連れてきたんだからな。前に会った時も感じちゃいたが、お前は一度見ればそうそう忘れないからな。まるで絵画から出てきたような異質感のある見た目に、何より美人だしな」
「えっ……うっ……な、なんでこんなことするの?」
と、突然おじさんに褒められても別に嬉しくなんてないからね!?
そりゃわざわざ女の子一人連れてくるのに、冒険者ギルドがざわつくような数の兵士動員してるあたり、市中連れまわそうとしたのは必然ってことになるのね。
っていうか、この人ボクを犯罪者に仕立て上げた張本人だよ!? そんな人が一言褒めたくらいで顔に熱を感じるとか、どんだけチョロいんだよボク!!
「そりゃ、このタイミングでロトとグルーネに国際問題が出てるだなんて、フリージア連中が飛びつくには十分な情報だからな」
ん?……今度はフリージア?
カルセオラリアに偵察に行けって言う話なのに、ロトに潜伏しているスパイさんはフリージアの人なの?
「どうせお前が前に俺と会った時は、エリュトスを偵察するのにうちを経由したんだろうが、実際ロトを経由する命令なんて出てないんだろ?」
「えっ……」
経由したほうが安全だから、ロトには寄る計画ではあったんだけど、あの時本来であれば正規の手続きでロトに入国する予定だったから……。
「あの嬢ちゃんがこの時世でうちに密入国させるようなヘマするはずねぇからなぁ。もし経由する手はずだったとしても、手続きして入国するはずだったところを、お前が功を焦って手続きすっ飛ばしちまったってとこなんだろ?」
「……」
無言の肯定とは……以下略。
はいはい……。その通りですけども……。
「こんな都合のいい話、使わないで置いておくほどうちも今余裕がある状況でもねぇんだわ。お前は過去の失敗を国に知られたくない。こっちは状況として使えるものは使わせてもらう。お前にも働いてもらう。ただ、その情報はグルーネでも有益だ。お前の評価も上がるわけだ。悪い話じゃないだろ?」
どうやら突然褒められて戸惑っていただけなのに、どうすればいいのかわからずに戸惑っているように受け取られたらしい。
いつもはなんかボクが思ってる事なんかそこら辺に漏れ出てるんじゃないかってくらい心を読まれちゃうのに慣れちゃってたけど、こういう反応になるのが正解なのか。
まぁ確かに、ロトでまさか軍人さんの上層部の人と会ってただなんて……怖くてシルに報告なんかできないし、そもそもリンクのことだってあるんだからこんな時期に正式に犯罪者としてグルーネに返還とかされるわけにもいかないわけで……。グルーネにそのまま情報持って帰っていいとまで言われてるわけで、ボクが断る理由とか無いし、断れないんですけどね。
「まぁ……やりますけど。でも、なんでこの部屋にいる人達じゃなくてボクなの?」
だって情報って鮮度も重要かもしれないけど、一番大変なのって、その情報の信用度。それもこんな戦争してる時だなんてなれば、相当重要なことだと思うんだけど。
そりゃ、諜報能力を買ってくれてるってのはわかったけど、その信憑性を考えれば、後で裏付けをする必要もなくなる自分の信用の置ける部下にやらせた方がいいじゃんね?
「もちろん、お前に直接頼むのには理由がある」
「うん……?」
「戦争ってのは、究極の話、何があれば勝てる?」
「うぇ……? う~ん……。なんだろ。やっぱ数……かなぁ?」
「お、正解だ」
「でも……」
ヴィンフリーデさんとかティオナさんみたいに、戦略級の人だとか、戦術兵の人達だとか。数じゃ名測れない人ってのがいるのも事実ではあるんだよねぇ……。
「ああ、個人がどれだけ強かろうが、結局は数なんだよ。数」
なんて答えていいのかわからず、困った顔のまま無言でいると、そういわれてしまった。
「お前のような戦略級兵士がいたとしても、その兵士が戦える時間なんて長くて1時間程度。連戦であればあるほどその持続時間は短くなっていく。魔法なら魔力量の問題、スキルなら体力の問題でな。」
「う、うん……」
まぁ、身に覚えのある話だよね。
この人がボクの魔力量を知っているわけじゃないだろうけど、それでも枯渇するんだから。
「結局の所、その戦術兵の能力を上回る数が用意できるなら、究極的な話勝てるだろ?」
「まぁ……それは……そうだけど」
っていうか、まさしくそれをやられたのがこないだのモンスターパレードだったわけだし。しかもその被害国は、グルーネじゃなくて主にロトがやられたわけだ。
「だが、残念なことに兵力ってのは無限じゃねぇ。どうしたって数には限界がきちまう」
「そりゃそうだよね」
「なら、その数をどうにかする為には?」
「戦略を練る?」
「その通り。お前んとこの姫みたいに頭を使うしかないってわけだ。だが相手も馬鹿じゃない。戦略を使ってくる。そこで、もしお前が戦略を練って兵を動かさないといけなくなった時に、やられて一番嫌なのは何をされることだ?」
「え……? う~~~~ん……。えっと……ボクが考えた戦略を、悉く裏をかかれたりとか……したら心が折れちゃったりするのかなぁ?」
「ならフリージアが取られて嫌な展開を読んで行動しているとすれば、今回の戦争でグルーネがうちの支援してくるだろうことは当然わかっちゃいるよな? だがお前んとこの天才姫はそういう所の裏をかくのに関して本当に嫌らしいんだよ。意地が悪い。汚くて面倒くさい。あれはもう悪魔なんだよ悪魔」
「う、うん……ちょっと同意はしかねるんですけど」
まぁ他国からの貶し言葉って、実際褒め言葉なんだけどね。
相手国に嫌って言われる軍師とか、最高って言われてるのと一緒だもん。
「だから今のタイミングでお前がうちに来たんだろ? グルーネの天才軍師のことなぞ知らん戦争屋はいねぇよ。そいつんとのこ諜報員が、のこのこと変装もせず、うちで大手クランとクエストに出るような目立つ場所に送り出されてるってことは、つまりはこういうことだろうがよ。うちの情報収集レベルすら読まれてるようで癪には触るが、確かにこれが一番手っ取り早い」
「………………え?」
ちょっと言ってる意味がわかりませんが?
ボクはちょっと空いた期間に、ちょっと出稼ぎにきて、たまたま呼ばれたクエストを、たまたま一緒になったクランの人達とやってただけですけど?
だってボクは前にロトに来た時に、このおじさんが軍人さんだってことはわかったけど、こんな偉い人だとは思ってなかったからシルには報告もしてないし、それを言うのが嫌で強制送還されたくないわけで……。それに今回ロトの国内にいることだって、そもそも冒険者ギルドで捕まってボクがクエストを受けたわけであって、最初からロトにきてクエストを受けようだなんて思ってもいなかったわけだし……。
「お前が俺に嘘をつくメリットが無いし、お前がそのまま得た情報を持って帰るのが、グルーネにとって最新の……しかもロトの状況まで把握したものを持ち帰れるってわけだ。……で? そんな顔をしてるってことは、お前には知らされてもいなかったわけか?」
「い、いやいや! 違うって。いくらなんでもそんなわけ……」
今までシルは、ボクを危険な場所に送り込むことはあまり良しとしてくれなかったから、どちらかというと、今回のは……。そう考えると、今回の偵察は強制フラグルート。避けられないイベントってやつなのかもしれない。
グルーネとロトは貿易協定を結んではいるものの、別に同盟国という訳ではない。単純にロトからしてみれば軍事力的に他国と同盟を結んだところで足枷にしかならないだろうし、グルーネにしてみたって魔法っていう他国よりもかなり突出した戦力があるんだから、ロトから安易に攻められるような戦力じゃないし。戦争は数だって今話してたところではあるけど、何も勝った負けたって結果だけがすべてというわけではなく、戦争には利益が無ければ意味がない。
ボクはロトという国は嫌いじゃない。
むしろまだ2回しかきたことが無いわりに、街並みも綺麗でグルーネとはまた違った趣があるし、人も優しいし。どちらかといえば好きだと思う。
ただ、じゃあロトのために働けって言われてもピンとこないけど……。
これがシルのため、ひいては国のためって言われたらね。
少しは、やる気もでてきちゃうってもんでしょ?




