罪を自覚すると、やけに冷静になったりするものです。
ドン!
現場から帰ってきて、報告や精算を行い。
一通り仲良くなった人たちと雑談を交えながらギルドの待合室で待っていると、ヒュージさん達幹部陣が大きな荷物をまとめて部屋に帰ってきた。
クエストの納品や報告をして得た収入と、取れた素材で今回納品しなかったもの。
急に静かになった部屋で、何も言わずにヒュージさんが一番大きな布袋の塊を持って、ボクの座っている目の前に置いた。
大きな木の机って、重量のある物を置くと結構大きな音がするんだね。
「あ、あれ? ボク、クラウンウルフの素材を少しわけて貰えれば他に報酬はいらないよ?」
ましてや、これから皆に分配されていくのであろう報酬の入った袋が並べられている中、その一番大きい袋を、しかもクランの皆が見てる前で貰うのは気が引けてしまう。
「馬鹿言え。んなわけにいくかよ。うちのルールは報酬は貢献度で分配。お前さんは俺等じゃ倒しきれないボスの討伐をしてんだ。貢献度が一番高い奴に一番渡さんでどうするよ」
ヒュージさんが次々と自分を抜いた15人それぞれに布の袋を渡して回っていく。
後方でブラックウルフの対応に回っていた人達の布袋の大きさはボクの半分も無い。あれだけ大量のブラックウルフの相手をして、さらには解体やら現場の保全やらなんやらと処理までと、色々苦労したであろう人達の報酬がクラン外から参加してるボクより少ないっていうのは、ボク目線見てて居たたまれないし、何よりボク自身もとっても居心地が悪い。正直ボクなんて、皆に道だけ切り開いて貰って据え膳をいただいただけのようなものなのに……。
布で中身を見えなくしているのは、報酬の上下をある程度隠すため。
ただ、これだけ皆と大きさが違えばよそ者であるボクが一番の報酬を貰っている事は一目瞭然だろうに、誰一人として嫌な顔をしなかった。
……。
マーデン領で知らない人達と組まされた時とは大違いなのが、なんだか本当に残念に感じてしまう。ボクだって人並みに愛国心っていうものは持っているわけだし。グルーネとロト、どっちが好きかといわれれば、生まれ育ったっていう理由だけでグルーネの方が好きって言えてしまう。それってみんな同じでしょ?
実際の所、ロト国内になんか数えるほどしか来た事は無いし、人柄とか街並みとか景観とか。そういうものはほとんど知りもしないんだけど……。
でも、ロト国内っていいことしかなかったな。なんて。
前にふらっと寄った食堂のお食事は美味しかったし、そこのおばちゃんは気さくでいい人だったし。
今回組んだクランは、前にマーデン領で組んだクランみたいに誰かが私利私欲のために先走ってチームが崩壊とかしないし、ちゃんと統制が取れていて一人一人が自分の役割をこなして一つの結果を掴み取っていく姿に好感を持てる。
もしボクが卒業して冒険者としての活動を始めたら、ロトを拠点にするっていうのもありなんじゃないかな? なんて考えちゃう自分もいたりする。
グルーネはもちろん好きだけど、グルーネって言ってしまえば辺境にあたる土地なんだよね。人類の住んでいる国としては最西端に位置するわけで、やっぱり色々と活動するならロト辺りまで来ておいたほうが活動しやすいのは確かだし。
もちろんボク一人って言うなら活動拠点なんてあって無いようなものだけどね。でもほら。冒険ってパーティでするものじゃん? 仲間の皆がいてこそなんだから、拠点の位置っていうのは重要だよね。
そんな事を考えながら仕事終わりにクランの皆と雑談をしていると、冒険者ギルドの下のほうからドタドタと大きな足音が聞こえてきた。
それも一つではなく、かなり沢山の足音。
これだけ音を立てると言う事は、鎧を着ているということだろうか……?
もちろん冒険者ギルドなんだから鎧を着てる人が入ってくるなんて珍しいことでもないけど、パーティにフルメイルを着こんでいそうな足音の人なんて、そんなに人数揃えるわけでもないんだから、そんな足音が複数、それも慌ただしいともなれば珍しいのは言うまでもない。
「何々?」
「どうしたのかしら?」
クランの皆もその音に違和感を感じたのか、皆と目が合った。
報酬の分割は冒険者ギルドの3階で机のある部屋を借りている。部屋と言っても区切りがあるだけで扉があるわけでも無い。1階までが吹き抜けになっているので、皆で下の方を覗きこんでみた。……なんかこういう場面って、嫌な予感しかしないんだよねぇ……。
そんな事を考えてしまったせいでフラグでも立ってしまったのか。
十数人はいるであろう、甲冑に身を包んだ軍人っぽい人達が、冒険者ギルドにいる人間の顔をひとりひとり確認するように散らばっているのが上から確認できる。
そのうちの一人が冒険者ギルドの職員さんと何やら話していると、職員さんの女の子がボクの方を見て指を指した。
それに気付いた兵隊さんっぽい人達が、急いでここまであがってこようとしている……。
あっれぇ。これはやな予感どころじゃない。
ドンピシャでボクに向いてる問題ごとだ。
逃げた方がいいかなぁ。
「な、何? どうしたの?」
「あれ、軍の連中か? 冒険者ギルドに押し入ってくるなんて珍しいな」
チノンさんとローレッジさんも、自分達の方に向かってくる様に見えたようで身構えていると、クランの皆へと静かな空気が伝染した。
先頭の兵隊さんが部屋の前までくると、一触即発のような空気が流れてくる。
なんにもやってないはずだけど、なんか緊張してしまう。
……なんにもやってないよね?
「グルーネ国上級冒険者レティーシア殿で間違いはないか?」
先頭に立っている兵隊さんが、部屋の入口まできて威圧的な声を発すると、チノンさんとローレッジさんが間に入って戦闘態勢を取る。部屋と言ってもパーテーションが立っているだけなのだ。扉も無く、到着すれば入室を拒むような物は何も無い。
今日知り合ったばかりのボク側に立ってくれるのはとてもありがたいけど、ボクはロト国の兵隊さんに追われるような事、身に覚えがないんだよねぇ……。
「は、はい。そ、そうですけど……」
「貴殿には逮捕状が出ている。ご同行願おう」
た、逮捕状!?
何かの間違いだよね?
「はぁ? 一体こいつが何をしたってんだ? 説明をしてみろ。説明を」
「ん~……もしかしてスパイの疑いでも掛かっているの?」
ぞろぞろと後から後から集まってくる甲冑を着た兵隊さんを前に、ローレッジさんとチノンさんが道をふさいでくれていると、椅子に座っていたヒュージさんが前に出てくる。
「おい、お前等誰の命令で動いているんだ? こいつはグルーネの貴族だろう? 戦時下の今、こいつを逮捕して『間違えました』じゃ済まねぇことくらいわかってんだろうな?」
威圧する空気が、真後ろに立っているボクですら感じるくらい肌がぴりぴりする。
兵隊さんもかなり動揺しているようだ。
「ひゅ、ヒュージ殿。申し訳ございません。将軍から直々のご命令でして……」
「あぁ? 将軍ってもしかしてハルト将軍か……?」
「はい……」
ハルト将軍っていう名前が出た途端、ヒュージさん達3人の警戒態勢が一気に解けた。
どうやら皆にとって信用の置ける人物らしい。
らしいっていっても、皆に信用が置けたとしても、ボクにとって信用できる人物かどうかなんてわからないんだけど。
「して、罪状はなんなんだ?」
「はい。違法入国です」
「え!? ちょ、ちょっと待って!? ボ、ボクちゃんと入国手続きとって来てるよ!? ちゃんと調べてよ!!」
「いえ、今回ではございません」
「……え?」
「モンスターパレード直前に貴女様の姿がロト国内にて確認されておりまして……。身元を照会したところ、当時入国の手続き履歴が無かった……と記載されておりますが。間違いはございませんか?」
「え」
……
……
……
……うそぉ!?
あ、あれってもう時効とかにならないの!?
ってかバレてたの!?
皆の視線が突き刺さります……。
あ。素材とか報酬はやらんとか今更言われないように、先にしまっておこっと……。




