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これからの事を考えちゃったり。

「ん~……もしかしたら進化する前の個体が主従契約してて、ここまで育てられたのかも知れねぇなぁ」

「ここまで進化するくらい大切に育てられたような個体が、こんな所で孤立して群れを率いているの? それはさすがにおかしくなぁい?」


真剣に話し始める2人を見比べながら見上げる。2人ともボクより背が高くて、少し俯きながら話していても目線がボクより高い。


「……そりゃ……まぁ、そうなんだが……。例えば育てたやつが死んじまったとか?」

「ん~……その場合心臓は戻ってるはずなのよねぇ」


「まぁ……だよなぁ……」




まともに自分から契約ってしたことがないからよくわからないんだけど、“心臓を捧げる”みたいな契約方法は、精霊に限らず魔獣や、ひいてはモンスターともできるって事なんだね。

よく考えれみれば魔獣使いを生業にしている人達だっているわけだから、そりゃ魔獣とも契約できるよね。学園祭でクオトさん達セレイオン兄妹が竜に跨っていた、その竜だって魔獣なわけなんだから。


心臓を捧げる契約が最上位ってことは、最上位じゃない契約も存在するってことになる。どういう契約なのかは知らないけど、今度ルージュ達に聞いてみればわかるかもね。


「ふぅ……」


慎重にクラウンウルフの解体をしていた人が、息をついた。


「お。もう終わったか」


それを合図に、ローレッジさんが綺麗に解体して並んでいる臓器や部位を確認し始めた。さすがはプロの仕事ってやつで、ひとつひとつの臓器が部位に解れ、それはもう綺麗に傷一つなく、大きく損傷してしまっているのは、ボクが止めを刺した頭の頭蓋骨近辺と、その脳の部分、それと折れた首の骨だけ。なんと血ですら袋に入れて保存してあるあたり、クラウンウルフって本当に捨てるとこってないらしい。


前にボクが討伐した時にも先生に言われたけど、シュヴァルツ・クラウンウルフって捨てる部分は一切無いって話だったしね。こうやって解体されたものを俯瞰してみてみるとよくわかるんだけど、ブラックウルフとは内蔵とかお肉の質感や構造が全然違って、筋繊維が詰まってるって言うのかな? 硬くて柔らかい筋肉がゴムのように弾力を持っているようで、未だに生きているみたいに艶めいている。爪や牙といった部位素材も欠けることなく、とても綺麗なまま。まぁそもそもそれを壊す事すらできないから、討伐するのに困るって話なんだけど。


やっぱり、魔獣やモンスターの素材の定番って言えば毛皮・爪・牙の3つなんだよね。目玉だとか心臓やら、内臓関連も素材でよくクエスト掲示板に並んだりしているのをみることはあるけど、そういう素材はボク達みたいな冒険者が利用するっていうよりは、錬金術の材料にしたり、調合魔道具用の素材にしたりだとかっていう用途になることのほうが多いだろうから、イオネちゃんみたいな研究職肌の人達が使う場合が多い。もちろん牙や爪なんていうのも錬金術関連でも使う事はあるだろうけど、こういう加工すら困難を極める素材っていうのは、どうにかして加工さえできてしまえば、それだけで相当な強度を誇るわけだから、武器や防具の素材として重宝されることのほうが多いわけだ。


「いやぁ、今回はシロ子のおかげで出費も少ねぇし、相当な収入が見込めんなぁ。おい」

「そうね……。ねぇ、レティーシアちゃんは、クランに所属したりしてるの?」

「え……?」


クランに所属する以前に、ボクってば自分の固定パーティ登録すらまだまともに申請してないから、基本はフラ先生のパーティに参加させてもらってる形になることが多い。

イオネちゃんやシルとクエストをこなした事は何度かあるけれど、それもシルがパーティ申請を出している中に、ボクとイオネちゃんが臨時メンバーとして組み込まれている形でいつも冒険者ギルドには提出しているから、実際ボクは自分主導で動いた事ってないんだよね。


「ボ、ボクまだ学生で固定パーティの申請とかもしてないので……」

「あら! それはいいじゃない。今ロトは戦時中で大変な時期だけど、戦争が終わったらこっちこない? 貴女なら大歓迎なのだけど」


チノンさんがそう誘ってくれると、周りにいたメンバーの皆も一斉に賛成してくれる。


「か、考えておきますね……」

「ええ。いい返事を期待しているわ」


誘ってもらえるって事は、自分を評価してもらえたって事に他ならないわけで。しかもそれが初めて会って、初めて一緒にクエストに出た人達から誘ってもらえるって事が尚更嬉しくないわけなんてないんだよね。


パーティもクランも申請が必要な通り、こういう言い方をすると誤解を招くかもしれないけど、一度申請して組んでしまうと、ある程度メンバーに縛られる事になる。良い意味でも、悪い意味でも、ね。もちろん皆がボクの足を引っ張るだとか、ボクが皆の足を引っ張りそうだとか、そう言う事を言っているんじゃなくて。やっぱりパーティもクランも、一度決めてしまえば今後の人生で相当深く関わっていく人達になるってことなんだから、そう言う事は慎重に決めないといけないんだよね。


ちなみにクランの設立には爵位が必要だけど、パーティの設立には別にそういう特別な資格みたいなものは必要ない。もちろん登録冒険者でもパーティは設立できるんだけど、じゃあなんでパーティと言うものを冒険者ギルドに申請してある程度固定化しなきゃいけないのかっていえば、そりゃ信用度の問題があるからなんだよ。


冒険者っていうのは、その仕事の性質上“信用”ってものがとても重要視される。じゃあ一言で信用だなんていっても、個人としての評価はもとよりパーティという団体による一つの信用っていうのも評価の対象になるわけ。


信用性の高いパーティであれば、もちろんクライアントからの指名クエストを受注してもらいやすいし、冒険者ギルドも安心して任せられるから冒険者ギルド側もクライアントに紹介しやすいと言う事になる。

この世界の冒険者ギルドのクエストって、基本的には受領することで個別に独占したりってことができないせいで、朝一でクエストの有無を確認して、1日掛けて頑張ってクエストをこなして帰っても、いざ報告に行ったら『もうそのクエストは完了しました。またのご機会をお待ちください』なんて言われちゃうことが珍しくないんだよ……。

素材回収系なら素材が手元に残るからまだしも、魔獣やらモンスターの間引きみたいなクエストだと、もう既に倒されているせいで見つけるのにも苦労して、その苦労を乗り越えて万が一クエスト対象モンスターと出会えて、頑張って戦ってやっとの思いで間引いた所でクエスト報酬はゼロ。素材の解体もまともに出来なければ、1日危険を冒して活動してきたのに手元に残るものは何もないどころか、消費したものが無くなっただけってことになって、目も当てられないって結果になったりする。


それが指名クエストさえ発注してもらえるのであれば、確実にライバルがいないわけだ。安心してクエストを遂行できるっていうのは、心にも時間にも余裕ができて事故の低減にも繋がるわけで、こういう依頼を受けられなければ冒険者として活動していくなんて到底不可能なんだよね。



そういう面も考慮して考えると、この状況でボクの事を誘ってくれるのって、とても嬉しいことでしょ? ……べ、別にっ、ボクがフラ先生のクランに誘われたりしないなーなんてことを暗に言っているわけじゃないんだよ?! そ、それはね? 先生がボクは自分で活動していくだろうからってことで、きっと気を利かせてくれているだけなんだからね!?


……それにしても、パーティかぁ。

ボクも冒険者としてやっていくなら、考えなくちゃいけないんだよね。


どうしよっかなぁ……。




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