ヴァンプレイス・ストーリー 追憶2
追憶1の方で、昨日少し時間がなくて直せなかった部分を直して編集しました。
文章以外の表現も変わっているので、話が繋がってきたら読み直してもらえるといいかもしれません。
……私って、なんでいつもこんなに無力なんだろ。
まだ私が子供だからいけないのかな?
肌が黒かった昨日までの私は、お母さんが突然いなくなってからわずか数日の間に何もかも失ってしまった。今まで暮らしていた小さなお家は、今まで村に暮らしてきて1度も見たこと無いような、知らない家族に突然押し入られ、追い出され。お母さんと暮らしていた頃には配られていた少しの食料も分け与えられる事はなくなった。自分の家だったはずの場所に溜めていた雨水に口を付けると殴られ、それから私の体はずっと痛くて苦しいのが治らなくなってしまった。
お腹が痛くて大して動く事もできず。それからしばらくは、自分の今まで住んでいたお家の近くにあった、ずっと残っていた建物の崩し残りの壁の隙間で、砂に溜まる雨水だけを啜って生きていた……はずなんだけど。
気付いたらこんな見たこともない森の中にいて……。
こんな青白い肌になってしまっていた。青白い肌なんて村に住んでいる人達の中にいなかったし。見たこともないけど。
……なにかの病気?
もしかして私、病気でどこかに放り出されちゃた?
とすると?
も、もしかして、この子達も私と一緒……?
それにしてはなんか……皆見た目が似ていると言うか……。兄弟っぽい気はする。子供とはいえ、赤ちゃんってほど幼いわけでもないのだ。見分けくらいは付く。
私だってちょっと前にお母さんに6歳の誕生日だってお祝いしてもらったばっかりで、ここにいる皆も私くらいの年齢なんじゃないかな?
もう少し幼いのかな。
でもそう違わないと思う。
……そんな皆も、わずか数日で半数にまで減ってしまった。
水たまりに映る私と、とってもよく似ている兄弟みたいな子達。
私だってここに捨てられた時より体は自由に動かせるようになったとはいえ、こんなに沢山の子供達の食料を探してくるなんてできないし、何より自由に考えて動けているのは今の所私だけのようなのだ。
本当は正直言って、私一人の食料を探してくるので精一杯。少しずつ分け与えられるだけの食料を分けてはきたけれど……。日に日に動かなくなって消えていく子供たち。
最初は10人以上いたはずなのに、もう残りは私を含めて4人にまで減ってしまった。残っている3人も、私以外で自立して動ける子はおらず、それこそ小さい子供のように動かず待っているだけ。
このままじゃまずい。
このままじゃ私も含めて皆死んでしまう。
幸い、この森には怖い動物や怖い昆虫みたいな危険なものはいないようだ。
もっと幸運なことに、この森は大人たちが殺し合っている場所とはどうやら離れているらしく、爆弾の落ちる音や銃声がこれまで聞こえてくることがない。
この数日間、これだけ昼夜問わず歩き回っていたのにずっと静かなまま。
遠く向こう側で犬の遠吠えみたいなのも聞こえていたから、全く動物達がいないってわけじゃないんだろうけど、一度も遭遇したことはなかったし。
これなら、一度本気で色んな物を探しにいってみないといけないのかもしれない。
どれだけ木の実や草花に成っている果実を食べても……。
食べても食べてもおなかは一向に膨れず飢えを感じるばかり。
水場だって、まだちゃんとした場所を見つけていない。
今のところ雨は降らないけど、泥水は前よりも綺麗でおいしいし、砂の味ばかりして喉が痛むこともない。
きっとまだ私達が生きていられるのは、ここが森であってくれたから。
草でも固い実でも、なんでも口に入れられるものがたくさんあるし、何より身体が自由に動くせいか、すごく固い実も簡単に噛み砕くことができる。
でも、それだっていつまで見つけられるのかわからないし、いつ爆弾が落ちてくるかわからない。火に囲まれるのは熱いし、怖い。
このままじゃ、私もいつか死んでしまう。
もしも私達のこの青白い肌や赤い爪が病気なのだとしても、私達だけでいる限りはこれ以上病気が広まることも無いんだろうし、この病気のせいで体に不調は今のところ感じない。
今しかない。
前みたいに動けなくなったらもう遅いんだ。
そう決心し、私は一人、日中でも影で暗い森の中を一人で歩き出す。暗いのが怖くない。だって見えないことがないんだもん。
今ある食料はすべて他の子達のところへ置いてきた。
いくら子供とは言え、赤ちゃんではないのだ。
ここ数日あれだけ食べてきた果実なのだから、食べ方くらいはわかるだろう。
とはいえ、3人で分ければ2,3日持つか持たないかってところ。
その間に、できれば水が飲めるところと、沢山の食料が成っている場所を探したい。
……
この時の私は、森の中に飲める水場があるっていう知識や、食べられるおいしい果実の知識が何故か自分の中にある事に疑問を抱く暇すらなかったのだけど。
それにやっと自分で気付けたのは、数年後だったかしら。
「……アル? どうした?」
「ああ、シュード。なんでもないわ。どうしたの?」
「いや、最近アル姉さんがずーっとボーっとしてるから気になるって。マリチマの奴が心配していたぞ? 息子と娘に全部託したからって、魔力を全て持っていかれたわけでもあるまいに」
「……あら、それは悪かったわ。ちょっと最近、昔の事をね。思い出すことが、なぜかおおくなっていてね」
幼い記憶。
もう数百年も前のことなのに、未だに鮮明に思い出せる2人の私。
「……まだ、救えなかった同族の事を想っているのか?」
「……」
「もう何百年前の話だ。……むしろ俺達が今生きていられる事は、全てアル姉さんのおかげなんだからな。救えた命があったことを喜んでもらいたいもんだぜ」
「ええ、そうね……本当に」
結局あの頃の幼い私が一人で森の中へ飛び出した数日後。
水場を見つけ、沢山の果実を揃えて最初の場所へ戻ると、少し成長した子供たちがどうにか自分達だけで暮らし、生き延びていてくれたのだ。
それから4人。
寝る時も、狩をするときも。どんな時も行動をともにしてきた。
そして今まで暮らしてくる中で、自分達が何者であるかを知ったのは……。
僅か数十年前のこと。
これは、私が“神”とやらを殺すために生きてきた物語。
沢山の物を失い、そしていつか私の全てを失う日が来たとしても。
それでも私は、この世界に抗い続ける。
神を殺す。
その日まで……。




