ヴァンプレイス・ストーリー 追憶1
苦しい……
苦しい……
苦しい……
生まれてから今まで苦しくなかった事なんてあったかな。
なぜ私は生まれてきたの?
意味なんかないのなら、どうして私はここにいるの?
皆が今も、神様にお願いをする。
一度だって助けてなんかくれたことのない神様。
もう動く気力のない体を這いずらして、目の前にたまっている泥水を啜る。
体は泥にまみれていた方が温かい。
苦しい……
苦しい……
……もう何日も食べ物なんて口にしてないけど、お腹は空かない。
ドォン!
タタタタッ!
そのまま何もできずに眠りにつこうとすると、遠くから爆発音と銃声らしき音が聞こえてきた。
……またか。
最近はなんだか毎日聞こえてくるようになった。
私がいるこの場所には、女と子供しかいなくなった。
もうここに建っている家も、壁や屋根が壊れていない家を探す方が難しい。
私には家なんてないし関係ないけど。
壁の日陰。
泥水が溜まっているここが、私のお家。
お日様に焼かれないだけでも、ありがたい場所。
ドォン!!!
今度はさっきより近い場所で爆発音が聞こえる。
地面を伝って体に伝わる振動がさっきよりも明らかに大きくなった。
……?
今までこんなに大きな音なんて、聞こえた事なかったのに。
開けるのも億劫な瞼を開くと、村の遠くで青い空を焼く炎が見えた。
泥に埋まっている体で見える世界なんて、たかが知れている。
でも私は、それがどういうことかなんて知る由もなく。
そのまま瞼を閉じ、生を終えた。
どれくらいの暗闇を過ごしただろうか。
何年、何十年?
それとも、一晩寝た程度の時間だったかな。
次に目を開くと、今まで感じたことのないくらい体が軽かった。
地面がざらざらしているのに、痛くない。
「……あれ? 体が……動く……ん?」
私の肌は黒かったはずなのに、青白い手。
そのまま腕を伝って自分の体を見ると、貧相なのは変わらないけど汚れのない、綺麗な青白い体へと変わってしまっている。
肌が青白くて見慣れないし、なにより爪だけ異様に長く、尖がっていて赤い。そういえば目もよく見える気がする……。
瞳を動かすことが、億劫ではないのが何とも不思議な感覚。
生まれてきてこれまで必死に生きてきたけど、何をしても何をするにも疲れが取れなかった体から、疲れが嘘みたいに消えている?
……ここは、どこ?
真っ暗だけど、なんでだろう。
見えないわけじゃない。
むしろ、真っ暗なのによく景色が見える。
周りには木が生い茂っていて、今私がいた場所には、草花が咲いて潰れていた。
「ひっ?!」
青白い子供が何人も私の周りに横たわっている。
「何?! なんなの……?」
よく見てみると、どうやら死んでいるわけではないようだ。でも子供がこんな場所で野ざらしになっていれば、いつかは死んでしまうだろう。私だって生まれてすぐの頃にはまだ母親がいたから今まで生きてこれたんだから。その母親も何年か前に何も言わずにいつの間にかいなくなってしまったんだけれど……。
なぜいなくなってしまったのかわからない母親をずっと探しながら、その日を一生懸命に生きる毎日。ほとんど砂漠しかなかった村の周辺で食べるものなんて子供の私に見つけられるわけもなく、村に住んでいる大人だって自分のことで精いっぱいなのに、食べ物をわけてくれるなんてこと、絶対に期待できるわけがない。
そんな場所で1か月くらい過ごしたのかな。
……最後に目にした光景はなんだっけ。
そんな記憶も曖昧なまま、気が付いたら今ここにいる。
「「んぎゃ~~~っ!」」
寝ていただけなのか、私の周りにいた青白い子供達が一斉に泣き出した。
訳もわからないまま近寄る。赤ちゃんほど幼いわけじゃないとは言え、自分でものを考えられるほどの子供までといった年でもないくらいの子供。みんな同じくらいの年に見える。
泣くなんて非合理的だ。
無駄なエネルギーを使ってしまうし、涙で水分なんか使ってしまうなんてもったいなさ過ぎる。誰も助けてなど、くれないのだから。
近寄る私の腕に、暴れる子供の爪が当たる。
私の腕からつつっと一筋の血が流れ出た。
……おいしそう。
ぺろっと舐めてしまうけど、鉄の味しかしない。
おいしいわけがない。
何を考えてるんだろう私……。
そのまま掴まれる腕。
押し返す私の手。
……あれ?
私も同じだ。この子達と同じ。青白い肌をした子供。
全員が貧相な体つきで、肌が青白く、まだ柔らかそうな髪の毛は紺色に近い青。全員の爪だけが赤く、長い。
瞳は獰猛で黄色。それぞれの子供に性別の違いや多少の個性はあるものの、どうやら兄弟……? みたいな感じのようだ。
……私も一緒?
ってことは、私もこの子達の兄弟なのだろうか?
今までの私は?
一体どうなったんだろう。
私の肌は黒かったはずだし。
こんな緑の多い森になんて来た事ないはずだし……。
そ、そうだ。親は?
少し辺りを見渡すけど、私たち子供しかいない。
それにしたって、真夜中で明かりもないのになんでこんなに良く見えるんだろう? 私たちのいる場所以外には木々が生い茂っていて、普通なら見えないはずの木々の影の先まで、何の苦労もなく見る事ができる。
泣き叫ぶ、兄弟のようなそっくりの子供達。
森に囲まれた見覚えの無い場所。
今まで砂漠と呼ばれる砂しかない世界のど真ん中にいたせいで、森の中なんて初めてで……。何が起きるのかさえ、私にはわからないんだけど……。
とりあえず今は生きる為に何かしなくっちゃいけない気がする。
森は危ない。爆弾が落ちれば一面が火に覆われてしまうらしいから。
できれば兄弟のようなこの子達も生かしてあげたい。
体が動くうちに。
何もできないまま動かずにいると、体は次第に動かなくなってしまうのだから。
よくわからない。
なんで私の肌が青白くなったのか。
なんで砂漠の村から突然、こんな森の中に運ばれてきたのか。
なんで赤ちゃんみたいな体がこんなに動かせるのか。
なんでかよくわからない。
わからないけど……。
とにかく食べ物を探さなきゃ。




