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実は自分の中では気に入ってたんだよ?

戦時中で緊急手配だったこともあり、クランのメンバーが集まり確認と相談が終わると、すぐに出発となった。

場所はボク達がいた町からさらに北東の位置にある荒野。荒野とは言え荒れた平野が続くような視界のひらけた場所ではなく、どちらかと言えば荒れ果てた雑木林といったほうが近いだろうか。ただ、木々までもが荒れ果てて折れてしまっており、倒れている。空の視界を遮るまで無傷なものはほとんどと言って良いほど残ってはいなかった。




ギャウン!


そんな視界の大して効かない中、そこかしこからブラックウルフの悲鳴だけが一定の間隔で聞こえてくる。その悲鳴がブラックウルフのあげたものだとわかるのは、この黒い狼しか今の所この場所にはいないからだ。


四方で聞こえる鳴き声と、こちらを伺うような低い視線。

何かが動くたびに聞こえる雑音に目をやっても、項垂れたような枝に着いている枯れたような黄色い葉っぱがいちいち視界を遮り邪魔をする。


逆にこの地形は四足歩行の狼にしたら動きやすい地形なのかもしれない。ウルフ種からしてみればまさに狩場ってやつだ。足元を飛び回り仕掛けてくる黒い影を、姿勢を低くしながら待ち構え、慎重に、かつ確実に仕留めていく。


ブラックウルフの絶命の声は聞こえてきても、クランのメンバーから発せられる言葉は怒号のみ。今の所、誰が怪我しただの救援を求めるような声が上がってくる事は無いようだった。さすが。ギルドからこんな難易度の討伐クエストを指名されるクランだけはあるってことだよね。



「……皆さんって、クラン組んでから長いんですか?」

「ん? どうして?」


「いえ、なんかボクが今まで見てきたクランと比べると、連携がクランっぽくないなって」

「ああ、さすがによく見てるわね。……っていうか、こんな視界の中でよく見えるわね、貴女」


何て言ったって、視界をそのまま飛ばせるからね。

視界が悪い場所を利用できるのは、何も獣だけの特権じゃないんだよ?


「それぞれのパーティのリーダー同士が元々同じパーティで活躍してたのよ。それがクランを立ち上げて大きくなっていくうちに色々あってね。それぞれがリーダーになって部下を持つようになったってワケ」

「なるほど、どうりで……」


16人で攻略しなきゃいけないような大規模クエストっていうのは、もちろんだけど通常受けるクエストにくらべて大人数の統率が求められる。基本的に人数と言うのは多くなればなるほど統率が難しくなるし、統率が取れなくなれば怪我や命の危険性が増していく。まぁ、そもそも1つのクエストの遂行に大人数を想定した物は少ないからなんだけど。


ただ今回の様に単なる冒険者のパーティ1つや2つ程度では到底達成し得ないようなクエストが発令されたときには、冒険者ギルド自体が請け負う形をとって、直接戦力を把握しているクランへと依頼されることとなる。もちろんそれでも単一のクランでは難しいと判断されれば、今回ボクが呼ばれたように外部から特殊な力を持った戦力を招き入れたりとか、クラン同士の共闘なんていう場面だってありえたりするわけなんだけど。




このクランの主要メンバーは、最初にボクがこのクランの人達と落ち合ったロトの冒険者ギルドで、中央のテーブルに座っていた6人。

その6人が主体となってパーティメンバーを率い、ブラックウルフの群れの討伐をそれぞれ始めている。それも相手のテリトリー真っただ中みたいな、こんな視界の悪い場所でやりはじめちゃっているんだけど……パーティ毎の連携がしっかりしてて、決して弱くないウルフ種の魔獣をいとも簡単に倒していくし、パーティ同士の誤射も全くないようで。ボクが体験した前回のクラン参加とは大違いに感じてしまう。

いや、別にロックさん達は何も悪いことはなかったけど、結局あの人達も一切仕事しなかったのは確かなのよ。しなかったんじゃなくて、できなかったっていうのが実際のところではあるけどね。




話は戻るけどさ……ね。

クランの連携がしっかりしていると言う事はね……。


連携のとれないボクはこんな優秀なクランにのこのことお邪魔して、足を引っ張るわけにもいかないわけで。とは言え前回と違い、別に孤立させられて餌の様な扱いを受けているわけではなく、チノンさんのパーティに組み込まれてど真ん中でこれでもかと言うくらいに丁重に守られているのだ。

……正直、こんな扱いは始めてなので、どうしていいのかわからないんですが。


「パーティ毎の連携がすごくスムーズなのに、そこまでお互いに確認とか会話することがないので。皆アイコンタクトとか空気感? みたいなものだけで意思疎通できるくらい気の知れた仲なのかな? って」


戦場を上から見ると、それぞれのパーティリーダーである6人が、意思疎通をするわけでもないのに誰がどこへ行くべきかを把握しているように動き、それを理解しているそれぞれのパーティメンバーが追従しているのがわかる。


「あら。よぉく()()()()()()


意味深げに言葉を強調されるけど、そこは気にしない。

ボクだって“視えてるからわざわざ隠す必要はないですよ”って伝えているんだから。




ちなみにボクの隣で余裕そうにしているのはチノンさん。

ボクが所属しているパーティは4人で、チノンさんのパーティにお邪魔しているってわけ。チノンさんの部下に当たる人が、今もボクとりノンさんを挟んでブラックウルフと対峙しながら牽制している。


自己紹介されなかった主要メンバーのうち、残りの2人は2人共男性で、レクスさんとバティスさんというらしい。やっぱり主要メンバーの6人であるヒュージさん、ローレッジさん、チノンさん、ロニコさん、レクスさん、バティスさんは少しクランの中でもレベルが高め。頭一つ抜けている感じで、こんな視野の悪い戦場ですら、各方向にそれぞれ突出している人がいることがわかってしまうほどに。


「……にしても、お目当てのマナ溜まりはどこなのかしらねぇ。こうもブラックウルフが大量にいるのって、さすがにおかしいわよね?」

「そう……ですよね」


ここまで大量の魔獣が国の中で繁殖したとは考え難い。それもロト国内で。

ともなれば確実に異常観測レベルのマナ溜まりがどこかにあるはずなんだけど、あまりにブラックウルフの数が多く、まともに探す事すらできずにいた。




ブラックウルフが襲い掛かってくる瞬間を真正面から捉えると、なんとなくボクが最初のクエストにでた時を思い出してしまう。そういえばあの時も突然、国の……それもど真ん中。王都近郊に異常なマナ溜まりが発生して、今回と同じシュヴァルツ・クラウンウルフが何故か湧いてたんだっけ。


あの頃はボクもシュヴァルツ・クラウンウルフなんていう魔獣の名前すら聞いたこと無かったけど、さすがに自分の防具にしてからは愛着も湧いて調べたからわかるんだけど……。

あの時フラ先生が言っていたように、シュヴァルツ・クラウンウルフっていうのはフィールドで大きなマナ溜りが発生したからって、そうそう出てくるような魔獣ではないんだよね。

むしろレア中のレアって言っても過言じゃないくらい。そんな事件と言っても過言じゃないようなことが、1年の間に2回も起きている。場所的に国の違いはあれど、国土のど真ん中で定期的にマナ溜まりなんて冒険者が駆除しているような場所で、マナを十分に溜めているような時間も無いはずのマナ溜まりから発生するものなんだろうか。


……それも、グルーネの時もロトの時も。

大きな戦争と合わせるかのように。


何か違和感のようなものを感じちゃうよね。




「ちょっとボク、上に出て見てきますね」

「えっ?! ちょ、危ないわよ?!」


チノンさん達が部外者であるボクに戦力を曝け出したくない様に、ボクだって武道会で知られている以上の事をわざわざ晒す気もないわけで。

そもそもボクは、“シュヴァルツ・クラウンウルフを倒せる火力がある”ことを前提に、今回クランに参加させてもらっているのだ。割と過保護にして貰っているのは、魔力を温存させたいのはもちろんだろうけど、いざご対面した時にボクがいないんじゃ、クランごと壊滅の恐れすらあるわけだからね。チノンさん達からしたら、あまりうろちょろして欲しくはないんだと思う。


とは言え、その相手すら見つからないのでは話も変わってくる。

ブラックウルフは、ここのクランの実力からすれば格下であることは確かなんだけど、何せ数が多すぎるのだ。このまま消耗してしまえば、いつかはどこかのパーティで魔力切れが起きてもおかしくはない。

布陣がうまく回っているこの戦場で、一角が崩れるということがどれだけ危険なことになるだろうか。



止められるのを背に、低い木々を抜け、設置盾(アンカーシールド)で足場を作りだし、体を木の上に晒すと……


ドンドンドンドン!!!


ものすごい大量の黒い塊が四方から突っ込んできた。この背の低い木から上に抜けると、どうやらそれを合図にブラックウルフが狩りにくるようだ。まぁ、周りの戦闘で幾度もこの場面を見てるし、こうなることは予想してたんだけどね。

黒い物体が視線に映った瞬間に、自分を次元牢獄で囲ってしまう。


でね? やっぱりボクがウルフに囲まれたっていったら、これじゃない?


二重構造(デュアル)樹木操作魔法術式(ネイトオペレイト)刺刑(インペイルド)


黒い狼が次々と空に留まっているボクの周りに展開してある次元牢獄へ絶えず突進してくる。

その都度、見えない壁に何の受身も取れないまま顔からぶつかり、速度を失い自由落下。突然の衝突に視界すらままならないであろう狼が、身動きもとれない空中で下から生えてくる樹木の針を避けられるはずもなく、成す術なく黒狼の串刺しの出来上がり。


習性なのか命令なのかわからないけど、それを見てなお、後続の狼はボクが歩く先々に襲い掛かってきて、黒い狼の死骸が空に道を築きあげ、滴る赤い血が背の低い樹木を真っ赤に染めあげていく。


それでも30匹ほどの狼の串刺し道が出来あがった頃だろうか。

唸り声は聞こえるも、それ以上狼が突進してくる様子は無くなった。


「あ。チノンさん! あっちに大き目の魔力を感じますよー!」

「そ、そう……わかったわ……」


少し顔が引きつっているのは気付かない方がボクの幸せの為なんだよ。


「うげ、えげつな……」


どこかから聞こえてきたそんな声も、聞こえておりません!!!




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