Provisional Military Administrative Council
「……ええ。そうね。……それで? 開戦状況を報告してちょうだい」
「はい。既にフリージアからは大規模な軍が出立。先遣隊と思われますが、約20日後にはロトとの国境線に到達します。ロトも砦には明らかな増員が見られますし、今後も増えるでしょうから……もう衝突は避けられないかと」
「あ~あ~。今回は睨み合いじゃ終わらないかぁ。そ~れにしても! ロトに喧嘩売るなんて、何を考えてんでしょうねぇ? フリージアの連合軍は。これじゃあ、ますますロトの国家規模が拡大しちまいますなぁ? うらやましいことで」
空気の緩い会議室。
ここ最近グルーネはエリュトスとの戦争で被害も出さず、景気も上り調子で停滞を知らない。
……そうともなれば、世界の最前線で起きていることを何も知らない、こういったおバカな貴族が増えてしまうのは一定数仕方のないというもの。
……。
果たして、今回の騒動に関してここにいるどれだけの方が正確な情報をつかめているのかしらね。もちろん、グルーネだけじゃない。それぞれの国がどこまでの情報を得らているのでしょう。
ロトの国家戦力は、実際どこの国でも周知の事実となっている。
ロト本国からすれば、わざわざ対外国へ国家戦力をひけらかしてなどいるわけでもないのだけれど、それくらいまともに機能してる国なら当然得ている情報。その程度の諜報能力もない国なんてすでに潰れているか、傀儡国となってお粗末な未来を迎えているでしょうしね。……どことは言わないのだけれど。
それだけ近隣諸国とは軍事力に差があってたとしてもロトが他国へ武力介入しないのは、もちろんロトの王がまともだと言うのが一番なのだけれど、グルーネという国が戦力的にも経済的にもロトへの牽制として成立するまでに国力を高めている事が理由の一つなのも確か。
私が集めた戦力は、確実に国家間の武力的威圧になり得ている。
我が国が誇る戦術級兵士の数もさながら、今回のモンスターパレードで新しい戦略級魔法の情報が各国へ流れている。姫騎士の皆が居ることで今までも圧力になっていたのに、今回それに加えてあれだけの大規模魔法が確認されて脅威を感じない国などいないのだから。
戦略級魔法士というのは、1人で戦争の戦況を変えてしまう事ができるのはもちろんだけれど、そんなことよりも、実際国と国とが相対した際、個人で戦況をひっくり返すことのできる兵士が、戦場へ出てこないこと程怖いことはない。すなわちそれは、兵士を集めている最前線を抜けられて国土を焼かれる恐れが高いのだから。
もちろん一般国民を戦争の巻き添えにすることが間違っていることなど、誰でも理解はしている。でも、戦争自体で勝てないのであれば、それも手段となり得てしまうのだ。
外交力に、力は必要。
そんなことは世界の常識だ。
今回確認された大規模戦略級魔法は広域光魔法だけでしょうから、あれをヴィンフリーデの新魔法とでも勘違いしてくれるのであれば、それはそれでいいのだけれど。
……そう思われる期待は薄いのよね。ヴィンフリーデは決してそこまで突出して魔力量の高い子では無いってことくらい、どこの国でも把握してるでしょうし。
もちろんロトだってタダで軍事力を維持しているわけじゃないわ。軍隊の維持には相当なお金や人材が必要なのも確かで、軍事力があることは外交手段として成立する。そして、それをあてにしてロトとの条約を結んでいる近隣諸国は少なくない。ウチだって例外じゃないわ。特に毎年のモンスターパレードでは、ロトが大多数のモンスターを引き受けてくれていなければグルーネに回ってくる負担は計り知れない物になることでしょうし、特に今年はね……。正直こんな事を言ってはいけないのですけれど、ロトが相当無理をして大量のモンスターを止めていてくれていなければ……。正直グルーネは今頃押しつぶされていたかもしれないのだから。
それなのに、そのロトに向けて明らかな軍事威圧をフリージアとカルセオラリアがしているにも関わらず、その近隣諸国であるアマツやパンテローネがなぜか黙秘していることに疑問を感じることすらできない間抜けがこの席を囲んでいることに、少なからず頭痛を覚えてしまう。
この部屋にいる貴族は、3種類のグループに分かれている。
ロトの戦争がグルーネに波及するなど、微塵も思っていない楽観視グループ。
今の状況では判断がつかないとして、予測不能に備えようとしているグループ。
そして、今の状況からグルーネが戦争に巻き込まれるであろうことを既に予測し、動き始めているグループ。
もちろん私の所には情報が入ってきているのですから、私はどのグループにも属さないのだけれど。
残念なことに、楽観視しているグループが全体の半数近くにまで登っているのだけれど、一概に彼らを責めることもできない。私も、自分が得ている情報を提示することができないのですから。
戦争のタイミングを考えると、ロトに攻め込んでくるまでに掛かった準備の速さや状況判断の正確さからすれば、今年のモンスターパレードの件に絡んでいる者が連合軍側にいると見て間違いないのだし、確実にロトに味方するであろうグルーネには裏工作も無しで完全に無視している事から、グルーネの疲労すら把握していると言う事。
ここにいる連中だって、ここまでこれるだけの能力を本来持ち合わせているのに、それでもここまで楽観的なのにはどうしても雰囲気の煽動を感じざるを得ないし、紛争が起きている地域からすればロトを跨いで対岸ともとれるグルーネに対し、これだけの戦略級魔法を持っているのにも関わらず、工作も無しで無視を決め込んでくるあたり、スパイが最低1人以上いることはほぼ確実。
「それにしてもロトから派遣される先遣隊が10万の規模とは。これは加勢に出向く必要すらないのではないですかな? 本隊と言ってもいい規模ですし、ロトがこの衝突で負けるとは到底思えませんが?」
「そうはいかんだろう。フリージアの後発部隊とカルセオラリアの本隊がエリュトスの国境を越えて攻めて来るとなれば、いくらロトとてただでは済むまい。それにしたって、今回のモンスターパレードによるロトの被害は甚大だったと聞く。我が国からすれば護って頂いた立場。ここで動かんわけにはいくまいて」
「それでは、我がグルーネの部隊はエリュトスとの国境に配備しておくので?」
「あの地形は大規模な軍隊の配置には向かん。配備するのであればエリュトスとの国境を越えなくてはならなくなるぞ?」
一部本当に困った方たちを除けば、この国の上層部は優秀な方が多い。
どこまで行ったところで小娘である私を、この場へ執り立てられる位には頭の柔らかい方達だっているわけだし、そもそもこの場に参加できるような人物なら、多少困った方であろうが無能であるはずなどないのだけれど。
……利権なんていい物ばかりではないのよね。
ほんと。有能な人物を狂わせてしまうのですから。
「して、軍部元帥であられるラインハート様はいかがなさるおつもりですかな?」
元帥と置いてくれるのであれば、何も言わず私兵とやらを私に全て預けてくれると、とても楽なのだけれど。そうは行かないのでしょうね。
「もちろん援軍は出すわよ。万が一にでもロトが負けるはないにせよ、相当なダメージを追ってしまえば……来年のモンスターパレードがまた今年の規模ならウチは崩壊してしまうもの」
「え、ええ。それはもちろんですとも。して、どの規模の軍を?」
規模、じゃなくてどこの所属の軍を……でしょう?
貴方が言いたいのは。
「うちの軍だけで構わないわ。協力してもらうとしても国軍にするから。安心していただいて構いません」
「ぬぬっ。またラインハートの株だけ上げるおつもりで? これでラインハート家とロト国との関係性も深まっていきそうですなぁ?」
ロトとの交易に関する利権はラインハートがすべて握っているわ。
それが他の方達によく思われていないのは承知しているけれど、ロトとの交易はラインハートあってのもの。実際文句を言ってくることって、ほとんどないのだけれど。
「そう思うのなら全軍を出してもいいのよ?」
「もちろん! 我が軍もご協力させていただきますとも。……ううむ。先遣隊が10万もいるのであれば、我が騎士隊は5千程度でよろしいですかな?」
……はぁ。5千ですって?
しかも、この方達の言う騎士隊とは、正規軍ですらない徴兵された兵士であり、魔法士すら含まない。ここまであからさまに渋るくらいなら、言い出さなければいいのに。
この場にレティを呼びつけて、こいつの種ごと切り落として貰おうかしら。こいつの遺伝子なんか残しても、この国にプラスに働くとは考えられないのだけれど。
「……5千ね。いいわよ。」
「姫!?」
まともな重鎮から驚きの声が上がるのはわかるけれど。
……いいのよ。
どうせ今回の戦争では、数はロトに任せておけばいいのだから。
うちにはうちのやり方ってものがあるでしょう?
やっとまともに書ける時間がとれてきましたが、ちょっと今週引き伸ばし気味ですみません。
年末にかけてちょっと仕事でばたばたするので、またアップ時間やら諸々、時間が取れなくなる可能性があります。
もしあまりにも時間がとれなくなりそうで質が落ちるくらいなら、毎日更新を一時中断するかもしれません。その際はまたご連絡します。




