騙されてるわけじゃ、ないのよね?
はわわわわ……。
はわわわわわ……。
こんな口の形、アニメの表現だけだと思ってたよ!!
前は断るって決心してリンクと対面する事ができたから、そういう意志をもってお話することができたのに。こんな不意打ちなんてずるいよ……。
掴まれていた手首から力が抜け、するりと指先までリンクの掌が抜けて行く。
ボクの指先を掴んで持ち上げられ……。
手の甲にキスをされた。
「俺と、結婚しよう」
「あ、あぅ……」
真面目に見つめられると、目をそらすこともできない。
こんなキャラじゃないでしょ貴方……。
恥ずかしい! お顔真っ赤だよ! 自分でわかるもん!!
どうしよう、頭回んない! なんて言えばいいの?
う~ん……。
嫌かな?
嫌では……ないかな。
じゃあ好きなのかな?
……正直好きっていうの、わからないの。
うぅ……どうしよう……けっこ……え? 結婚?!
「け、結婚!? そそ、それは流石に早くない?!」
出せる言葉がこんな言葉しか出てこないなんて、自分でも情けない……。
「じゃあ、付き合うところから始めようか」
右手を持ち上げて、ひざまづいたままの体勢で、見上げるように見つめられたままのリンクから目を離す事もできず。
「う、うん……」
小さく頷く事しかできなかった。
……あ。頷いちゃった。
ん? あれ……?
すっごい周り、静かじゃない??
「「「おお~~!!」」」
と言う声と、ぱちぱちぱちという拍手の音が突然鳴り響いた。どこかからは口笛も聞こえてくるんだけど。その一番近い音がどこから聞こえてくるのかは確かめたくない。
先生も先生だよ!? 気付いてたんなら言ってくれればいいのにっ!!
周りが耳を傾けていたっていうのに気付いた瞬間には既に時遅く。
どうやら一連全部周りの人達には聞かれていたようだ。
……こんな事ならリンクの提案に乗って、ちゃんと外に出ておくべきでした!!!
今度はボクが拒否してるから、自分のせいですね!!
はいはい! もうっ! そんなことわかってますよ!?
わかってるもん……うぅ。
放れた手を力なくぶらんと下げて体を机側に戻すと、そのままドスンと力なく机に顔を突っ伏せる。
机の冷たさが気持ちよかった。
後ろでリンクはもみくちゃにされてるし、もうなるようになれ、だよ……。
がたん。
「あ、あいつ逃げやがった。書類まだ終わってねぇのに……」
「あ。あいつ……」
「あと1枚で終わったのによ。お前のせいだからな? リンク。ちゃんと責任もってこの書類書かせとけよ」
「あ、ああ……。わかったよ」
ばふっ。
「んぶぅ……」
自分の寮に直接戻り、布団にダイブ。
リンクに講義サボるなって煽ったくせに、自分が講義の途中でサボりました。
……ごめんなさい。
これってなんなんだろ。
よくわからない気持ちがこみ上げてくるのは、嬉しいってこと?
「むぅぅぅぅぅぅ……ぷはっ!」
枕に顔をうずめて足バタつかせたりしちゃったけど、シル帰ってきてないよね?
大丈夫??
……2段ベッドの下を恐る恐る覗いてみるけど、どうやらいないようだ。
よかった。
こんなのシルに見られたら一発でバレかねない。あぶないあぶない。
明日も学園の講義あるんだよ?
どういう顔していったらいいの!!
……とりあえずシルが帰ってくるの、待っておこうかなぁ。
……すぅ……すぅ
…………すやぁ。
がちゃがちゃ。
「ふぁっ!?」
ドアノブを回す音で目が覚めた。
そういえば転移して帰ってきたから鍵開けるの忘れてた!
もう外は真っ暗な時間になっていて、部屋の中も暗くなっている。
がちゃ。
「あっ! シルお帰りー!」
「あら? レティいるの? 鍵なんて閉めて何してた……ああ、転移で帰ってきたのね」
「あ、うんー。ごめん鍵開けるの忘れてた~」
「明かりも点けずに……寝てたの? また体調でも悪くしたの?」
シルが部屋の中に入ってきて、足を締め付けていたブーツを脱ぎ、制服を着替え始める。ボクは2段ベッドからなんとなく降りるタイミングを見失い、布団にくるまったままだ。
「ううん。横になってたらいつの間にか寝ちゃってたの」
「……そう。ならいいわ」
シルはきっと公爵令嬢だったから、小さい頃からメイドさんとかに着替えさせてもらってたんだよね? そのせいか、あまり人前で裸になることを躊躇ったりしない。もちろん異性がいたら別だけどね? 常識の範囲内ではあるけど、帰ってきてすぐにシャワーを浴びに行く時は、浴室に行く前に全裸になるんだよね。
ごちそうさまです。
「ねぇ」
「ん~?」
「リンクの告白、受けたんですって?」
「ぶへっ!?」
まってまって!?
いくらなんでもボク、そんな何時間も寝てないよね!?
「なな、なんでもうシルがそんな事知ってるの?!」
「え? もう学園中で噂になってたわよ。」
「はぁ?! なんで?!」
「そりゃそうよ。状況を聞いたけれど、周りに沢山人がいるようなところでまたやらかしたんでしょ? しかも城内の商業受付ですって? そりゃ第一王子の色恋なんて広まるのはあっという間よ」
そういい残して浴室のドアが閉められた。
このまま話せるからいいんだけど。
「ま、いいんじゃないかしら? 私としては、前と同じ過ちを繰り返すように、人のいる所でやったっていうのが……、ちょっと納得はいかないのだけれど」
シルの声が浴室からくぐもって聞こえる。
「あ~、それね……。ボクが外に出るの拒否ったからボクのせいではあるんだよねぇ」
「それでもよ。今度は受けたのだからいいのだけれど。もしもまた断わられたらどうするつもりだったのかしら?」
「あはは……」
どうやら流れみたいな詳しい話までは噂で広まっているわけじゃないみたいだね。まぁどうせシルには最初から全部話そうと思ってたんだし、シャワーから出てきたら全部説明するんですけどね! どうしたらいいかわからない時は、頼みのシル様です。
……と、いう事で。
シルがシャワーを浴び終わるのを待ち。
ボクが制服のままだった事に気づいたシルが、先にシャワー浴びて来いと言うので浴びてしまい。
二人であらましを全部話し終えると。
第一声。
「あ~あ」
って言われました。
「それ、よくある常用手段じゃない……。先に結婚っていう難題突きつけて、後出しで付き合うっていう比較的簡単な条件を出すと、頷きやすいっていうアレよね」
「……へ?」
な……なにそれ。詐欺じゃん……。そういえばちょっと前に、シルにボクってば騙されやすいんだからって注意を受けた記憶すらあるんですけど。
「まぁ、どちらにせよ。頷いたという事は結局の所、貴女が嫌ではなかったという事なのだから、決心がついてよかったじゃない」
「そういうもんなのかなぁ……」
「私としては? 本当は私が貴女の事は貰いうけるつもりだったのだから、正直残念な気持ちも無くはないけれど。それでも貴女が幸せになるというのなら、応援するわ」
「うぅ、シルぅ~。」
そういえばボクってば、卒業後の自分の進路は勝手にラインハート家のどこかに就職する線が濃厚だなぁとか思ってたのに、このまま行くとそれは無理ってことになっちゃうのかな。……ラインハート家が無理だったら冒険者がやりたかったのに、それも無理ってこと!?
ボクの将来設計、どうなるの!?
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