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お城って広いよね。

「それでは、わたし共はこれにて戻りますれば。ご武運を」

「……ああ。世話になったな。ありがとう」


「行きますよ」

「はい!」

「はいなの!」


砂嵐が吹きつける砦の裏口から、3人の影が消えていく。砂嵐の中へ影が消えていくというか、本当に影そのものが消えていってしまうんだが。

不気味な従者。私は精霊関連どころか魔法関連にすら詳しくなどないのだからよく知らんのだが、同じ契約精霊のはずなのにその3人の中に主従関係があるようだ。

赤く背の高い女性精霊が上に立ち、子供の姿をしている双子のような精霊がそれに従っている。それも命令されたから……と言う感じではなく、本当に尊敬しているように侍っているのが、私には実に不思議に映る。


ルージュ……と呼ばれる赤い精霊は、女にしては珍しく私よりも背が高い。赤い髪に赤い瞳。浅黒い艶めいた肌に、グルーネで流行っているらしいファッションに身を包んでいるのは、契約者の好みだろうか。パンツスーツ……と言ったか? 女性型の格好良くみえる服だが、確かあの服って彼女が着ている程露出している服じゃなかった気がするが……私の記憶違いかもしれないな。なんにせよ、こんな砂嵐の中着る様な服じゃあない。まぁ、契約者の奇妙な女含め、誰一人にしろ吹き荒れる砂を受けないのだから関係ないんだろうが。


侍っている子供の双子精霊もルージュという精霊と似ている姿をしている。

肌が浅黒い人間など見たことないからそう見えるのかもしれないな。髪の毛は真っ白……主人の女程ではないから灰色なのだろうか。2人共長さは同じくらいなんだが、シトラスという元気な子の方はお転婆そうにぼさぼさっとした髪型をしているのに対し、シエルと呼ばれる大人しい子の方はそのまま髪の毛をさらっと下ろした髪型。2人の違いは髪型で見分けられるからいいが、一番の違いは瞳の色だな。2人とも両の瞳の色が違うが、黄色と空色で左右が逆だ。


……とは言え一番特徴的だったのは、どちらかといえば主人の方か。

真っ白な肌に真っ白な髪。

それどころか睫毛や眉毛も真っ白で唇すらも殆ど色素がない。


その持ち主の特徴とは対照的な、黒に赤が滲むような扇情的で特徴的な防具。

まぁ主人の方も人間かどうかは……疑わしいがな。


「これで本当に計画が軌道に乗りはじめやしたね」

「まさか後十年は掛かると思っていた計画が、こんな数ヶ月で進むなんて思わなかったわ。……ねぇフェミリア……様? どうされたんですか?」

「……」


ここまでの長い道のり、いつも一緒にいてくれた3人。

既に私にとっては家族と同じだ。


「いや、なんでもない」


あの不気味な少女が何を考えているのかは知らないが、私を利用するというのならすれば良い。私も彼女を利用させてもらうのだから。ただし。私はもう馬鹿になど戻れないのだ。騙され、搾取され、蹂躙されつくした……あの過去にだけは戻ることを許されない。


誰も信用しない。

誰も信用できなどしない。


私の家族は、今ここにいる4人だけ。

それ以外の者など、利用するかされるかでしか……ないのだから。




「んん~。上手くやってくれますかねぇ」

「どうしたの? ルージュ様」


「我々もそろそろ主様の下に戻らないといけません。後はお任せするしかないというのは、なんとも歯がゆい所ですねぇ」

「きっと、大丈夫なの!」

「きっと、うまくいきますよ!」


「……そうですね。計画自体には心配などしていませんよ? まぁ……なるようになるでしょうね。あの者達の……命も含めて」




「うぅ~……疲れたぁ」

「だらしねぇなぁ。お前はずっと座ってただけだろうがよ」

「だってぇ……」


運動する疲れと、こういう暇で暇でしょうがない時の疲れって、なんだか疲れの方向性が違うよね?ただただ無為に過ごす時間程長く感じるものはないし、その間に溜まる疲労と言ったらもう……なんていうの? 全身がどっと重くなるって感じだよね……。


朝から王城と商業ギルドを行ったり来たり。

書類を書いて、待っては書いて、移動して。

またそれを繰り返して……を朝9時からずっと続けて……

なんと! 現在午後の3時です!


やっと!

やっと終わりが見えました!

後はこの書類を最後に王城の受付へ提出するだけ!

だけなんですよ!


「で? どうするんだ?」

「う~~~~ん……だってぇ突然こんな希望を出せとか言われてもなぁ」


「別にそれがまるっきり採用されるわけじゃねぇんだぞ? ただ、お前みたいな場合は土地柄とかあんまし関係ねぇからなぁ。……まぁ決められねぇようなら国に丸投げして決めてもらうなんて手もあるんだがな」


「え~~~。それもなんかなぁ……」


なんて考えちゃうのは。

そう!

そうなんです。


平民と貴族の一番の違い!

“家名”なんだよっ!!


だってさぁ。家名とかって勝手に決められてついてくる物だと思うじゃない? ね? 普通そうでしょ?

それが、最後の最後にきて希望があれば家名をなんていう名前にしたいか書いておけって書いてあるの。ここにきてだよ? 遅くない??


そりゃ、希望を出したそのまんま決まるわけじゃなくて、まぁちょっとくらい加味してやるぞ。くらいのものなんだろうけど、それでも適当に白紙で出して、なんか……こう……しっくりこないなぁ。みたいなのとかくるんじゃ……ねぇ? 後悔して目も当てられないわけだし。


「あれ? そういえばさ」

「あ? なんだ?」


「この家名って、もしだよ? もしも……その……ボクとリンクが結婚なんかしちゃったり……なんかしちゃったら、ど、どうなるの?」

「あ? そりゃぁ、そうだな……。相手が王子なんじゃぁ短い間で終わるだろうな。ただ、一応お前の家名は将軍家になるんだから、相手がリンクやら上位貴族でない限りは残るんだがなぁ。……そもそもなんだ? 結婚なんてありえんのか? 断わっちまったんだろ?」


「え、う、うん。もちろん例えば、の話だよ? 例えば、ね。ははは……」

「まぁあいつの色恋話なんて歳の割に今まで聞いた事ねぇからなぁ。一度フラれたくらいで諦めるような奴でもねぇっちゃねぇだろうが……。それにしても……ふっ……王子が申し込んだ婚姻を女側が決めるってのはなぁ……時代かねぇ。前代未聞なんだがな? まぁあたしゃ笑い話のネタに困らなくていいことだけどよ」


ボクが例えばの話でリンクと付き合い出したとしても、それで結婚するまでいくとは限らないわけだしね? 別にボクがそこら辺を握っているわけじゃないと思うんだけどね。正直、王家が強制的に婚姻まで結んで来たら結局のところボクは断れないわけだし。


「まぁ正直? 今、前みたいに言われたら断われないかもなぁ。なんて」

「おい」


「ん? 何?」

「その話、本当か?」


書類を書きながら先生と話していたから、後ろ向きでずっと話していたんだけど、突然がっと右肩を捕まれた。反射的に振り向いてしまう。

……そういえば今の声は先生の声じゃなくて、男っぽかったような。


「……え?」

「今のは本当かって聞いてんだよ」


……はい。

……あれぇ幻覚が見えるかも?

うん。お昼食べてないからね。しょうがないね。

書類かかなくちゃ。


「おい」

「むぎゅう」


顔を両側からつかまれて首を回されるのは入学式のパーティ以来なんだよっ!!

首だけ回されるともげちゃうので、体をくるっと回して回避します。


真正面にはフラ先生ではなく、どこぞの学園の制服を着た男子生徒が。

その向こう側でニヤニヤした先生の顔が映っておりますがな。

こんちくしょう……。


「……おはようリンク様。何で平日の真昼間にこんな所にいるのかな? 学園の講義はおさぼりですか? 王子様がおさぼりっていうのはよろしくありませんことよ? おほほほほほ」

「講義は内容によって早く終わる日があんだよ。今何時だと思ってんだ? 早く終わってるなら自分の家で何してようが勝手だろ?」


あ。ここ王城内だから一応リンクのお家の敷地内ではあるのか……。でも居城とは全然違う場所なのに、なんでこんなタイミングでこんな所にいるのよ……。あ。王城内だからか。

ぐぅ。グリエンタールさんのフラグ管理能力を忘れておりましたっ!!


「で? 今のはそう受け取っていいんだな?」

「……なんの話でしょう?」


「いいぞ。いくらでも言ってやるから。そうだな……ちょっと外に出ないか?」


そういいながら手首を捕まれた。

特に痛くは……ない。

温かいくらいかな。


「嫌です」


立ち上がりもせずに答える。


「なんでだよ」


心の準備ができてないからだよ!

まぁ外に出ようとしてくれているのは、冒険者ギルドの時と一緒みたいな状況だからね……今。ボクへの配慮なんだろうけど。突然これから告白するからちょっと来いみたいなこといわれても、ほいほい付いて行けるわけないでしょ。馬鹿じゃないの。……馬鹿はボクのほうかっ! ああ、もうワカランッ!


「じゃあここで言ってやってもいいんだぞ?」

「けけ、結構ですので!」


そんなに真っ直ぐ見つめてくるなし!

恥ずかしいやろぉ……。


「ちょ、ちょ~っとお手手を放していただけますかねぇ?」

「転移して逃げる気だろ?」


そういや、転移の事ばれてるんでしたぁ。

向こう側の先生の顔にも、なんでバレてんだよって書いてあるんですけど、今はそんな場合じゃありません。


「レティーシア」

「うん?」


あ、思わず返事しちゃった。




「あれからずっと、お前の事だけが好きだよ。」




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