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ヴァンプレイスストーリー・亡霊国家のその思惑。

「……宰相閣下。ご報告が」

「……んぅ? なぁに?」


暗く、人であれば何も見えないであろう部屋。

部屋どころか建物すべてを見渡しても光源など一つも存在せず、窓すらすべて閉ざされており開けられた痕跡すら見受けられず、月明かりの一つすらも入ってこない。

何も見えないはずの部屋には、いくつかの影が蠢く気配だけが漂っている。光を必要としないのであろう意思を持ち、それも上下左右を問わない。……人の気配とするにはいささか無理があるだろうか。

それだけ真っ暗な部屋であるにもかかわらず、部屋はダンスホールの様に吹き抜けで広く、玉座がある事から謁見の間にあたるのだろうか。目が慣れてくれば赤く綺麗な絨毯が大きな扉から一直線に玉座へ向かい、その左右には煌びやかで豪勢な旗が掲げられているのが見えてくるだろう。


(あけ)の悪魔バルハリト……復活の可能性があります」

「…………今更何を言っているの? それは失敗したのではなかったかしら?」

「そ、それが……バルハリトの眷属であった上位悪魔が数名、バルハリトの気配を一瞬だけ感じ取ったとのこと。その後気配は急に弱まり今は感じる事すらできなくなったとのことなのですが……」

「へぇ……」


女の顔が濁る。

細長い目を薄め目の前に跪く男を見つめると、男はさらに身を縮めた。


着流し一枚を羽織り、他に何もつけていない女が玉座に寝そべるように座っている。はだけているその肌の色は不自然なほど不健康的で、とても青白い。まるで化粧をしているかのような細長い睫毛の奥には、獰猛に光る獣のような黄色い瞳が覗かせていた。


「貴方、“マナの火種”の時も結果がでなかったわよね?」

「ももっ、申し訳ございません……っ!!」


震える男に突き刺さる女の視線が、ふっと離れる。

顔を上げ、どこか遠くを見つめていた。


「それで? なら(あけ)の悪魔の行方は?」

「げっ……現在捜索中にありっますっ…!」


「捜索中……? 見つかっていないんじゃない。それなら何の報告に来たのかしら?」

「もっ申し訳ございませんっ……。先にお耳に入れておかなくてはと思いまして……」


顔を上げたまま視線だけが男に戻ると、また男が震える体を抑えるので精一杯になって固まっていくようだった。尋常ではない量の汗が噴き出し、床に滴り落ちる水の音が、静かな部屋の中に微かだが響いてしまう。


「はぁ……ねぇ……。貴方が提案した計画では、既にグルーネは滅びて次の段階へ移行しているはずなのだけれど……? 現状は一体どうなっているのかしら。あれから進展を全く耳にしないのだけれど?」

「…………っ!! も、もうし……わけ……」


声すらも出せないのだろう。

ただただ蹲り、いつ迎えるかもわからない死の時を待つ男の心境とは、どんなものなのだろうか。想像を絶するほどのストレスなのは言うまでもないのかもしれない。



カツン……カツン……


扉の方向からではなく室内から。

突然わざとらしいヒールの音が鳴り響いた。


「お母様。いいじゃないの。最終的に計画を命令したのはお母様よ? 責任のすべてがこの方にあるわけではないでしょう?」

「あら、リリってば。貴女はこの方を庇うのね?」


「ええ。人材を遊ばせてる余裕なんてあるはずないもの。ましてやこんな失敗前提の作成程度で、お母様のご気分一つで潰されていたら、たまったものでは無いわ」

「……そうね。貴女の言うとおりだわ。……下がっていいわよ。次はいい報告を期待しているわね。全く。リリに庇ってもらえるなんて嫉妬しちゃうわね」

「ああっありはとうございますゅっ! ちゅぎっ、次こそはかならじゅっ!!」



ギギギ……と重い音を立てながら大きな扉が少しだけ隙間を覗かせる。

2人の足跡がそこから出てしばらく道なりに歩くと、突然足音が止まった。


「あっ、ありがとうございました! リリーナ様……」

「はぁ。ねぇ貴方、お母様の事怖がりすぎよ。あれじゃあお母様も可哀想だわ」


「すみません……。どうも威圧力といいますか……。ど、どうしても体が動かなくなってしまうのです……」

「別に何されたってわけじゃないでしょう? お母様、あれで優しいのよ? そりゃ……一族に不利益になるようなことがあればね、あたしだって容赦はない方だとは思うけど……」


「もも、もちろんですっ! 自分が至らないばかりに……」


扉の外には窓もあり、夜中ではあるものの月明かりが2人を照らし出す。壮年の男と、10代にしか見えない少女。見た目だけで言えば丁度レティ達と同じくらいの年だろうか。

壮年の男はいかにも疲れ果てた人間に見えなくもないが、少女の方は母と呼んだ女性と同じく生気の感じられない肌色をしている。

銀色の髪が月明かりに輝き、青と赤のラインが入った前髪が際立っている。ミディアムヘアで綺麗に整った後髪は、ちゃんと手入れされている跡がみられるほど綺麗に輝いていた。


「と、所でリリーナ様……? その鎌は一体……?」

「ん……ああ、これ……? ふふ」


ぐしゃ。


男の頭が飛び、赤いしぶきが少女に降り注いだ。

着ていた白い服がみるみる赤く染まっていく。


「あぁ、美味し。使えない脳は使えるように直してあげないとね? ああっ……楽しみっ……!!」


左手に胴体、右手に首。

とても少女とは思えない腕力で男の体を引きずりながら、狂気に満ちた笑みを浮かべる少女が闇の中へと消えていく。




「……はぁ。レン。ちゃんとリリを見ていてあげてね?」

「ええ。すみません閣下。遊びも過ぎればすぐにでも」


「貴方お兄ちゃんなんだから。優しくしなきゃだめよ?」

「母上は優しすぎるかと」


「子育てって大変よねぇ」

「……俺に言われましても……」


真っ黒なフルプレートに身を包んだ男も、影に消えていく。

玉座にいたはずの女も、いつの間にか姿を消していた。







そういえば視点が登場人物以外に飛ぶのって初めてだったかもですね。

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